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人と人とのあいだにあるもの

親愛なるきみに宛てて
 わたしは思い切ってボールを投げる
   ボールはきみをすり抜けて
    はるか遠くへ転がっていく
      それでもきみはボールをキャッ
      チして わたしの方へ投げ返す
    ボールはわたしをすり抜けて
   はるか彼方へ転がっていく
 それでもわたしはボールをキャッ
チして きみに向かって投げ返す

きみの投げる豪速球と
わたしの投げる超遅球との
真っ向勝負

わたしは決してあきらめない
わたしの投げるボールには
特別な魔法がかけてある
きみももちろん あきらめない
きみの投げるボールには
わたしの知らない秘密がある

ふたりのあいだをボールが行き交い
ふたりの額に汗がにじむ
数えきれないほどのボールがふたりをすり抜けてゆき
数えきれないほどの夢が宙に消える

いつか わたしのボールが
きみのもとに留まってくれるだろうか
いつか きみのボールが
わたしのもとに留まってくれるだろうか

わたしはボールをキャッチするたびに
わたしをすり抜けていくボールのことを考える
ボールの重さ、硬さ、手ざわり、匂い
投げたきみの力の残存記憶

いつかわたしは きみのボールを
キャッチできるだろうか
いつかきみは わたしのボールを
キャッチできるだろうか

わたしはボールを投げるたびに
きみにキャッチされるボールのことを考える
きみはそのボールをとても大事に扱ってくれる
もちろんわたしも きみのボールを大事に扱う

ふたりのあいだをボールが行き交い
ふたりの後ろから朝陽が昇る
わたしはきみとのキャッチボールが大好きだ
きみもそうであってくれたらいいと思う

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