ずっと歩いていられますように
私はどうも、人間関係をリセットしてしまう癖がある。
同じ学校に通っていた頃は仲がよかったのに、卒業するとパタリと連絡を取らなくなる、というパターンを繰り返している。
大学生になった今、高校の友達とはいつかご飯に行こうね、と言ったまま何年も会っていないし、
小中学校の友達にいたってはもう連絡先すら知らない。
当時はケータイを持っていなかったので仲の良い友達だけ母のガラケーにメールアドレスを入れてもらっていたのだが、それも機種変を重ねるうちに消えてしまった。
人間関係を維持し続けるには多分、努力が必要なのだと思う。私はそれが下手くそなのかもしれない。
それでもただ1人、小学生の頃から付き合いが続いている友達がいる。
小学4年生の時に転校してきたMちゃん。
私が彼女と仲良くなったのは、当時習っていたそろばん教室だった。
ご夫婦が先生となって運営しているアットホームな教室だった上、大会や合宿なんかもあったので自然と仲良くなっていった。
色々な教室から多くの人が集まる大会や試験の会場で、Mちゃんと一緒になると嬉しかった。
Mちゃんと話すのが楽しくて、わざと問題が分からないふりをして遅くまで居残りをしたこともあった。
思えば、Mちゃんと一緒に何か特別なことをしたという記憶はほとんどない。
一緒にプールに行くとか、テーマパークで遊ぶとか、
そういう大きな目的を持って会ったことはなかった。
私がMちゃんと一緒に過ごした時間のほとんどは、ただ喋っているだけ。
小学生の頃は、そろばん教室の帰り道にひたすらくだらないことを話し続けていた。
街灯のない暗い一本道を抜けて、交差点に出るとMちゃんとはお別れ。
なかなかまた明日、が言えなくて、
まだまだ話し足りなくて、
ひたすら同じ道をぐるぐると往復しながら話し続けた。
あまりに長く話しすぎて、通りがかった警察の方に心配をされたこともある。
帰り道の途中にある小さなお弁当屋さんの、40円のコロッケに何故だかずっと憧れていて、ある日こっそり一緒に食べた。
20円ずつ出し合って、夜遅くに2人だけで食べるコロッケはこの上なく美味しく感じた。
そんなMちゃんは、中学校に上がると同時に県外に引っ越すこととなった。もちろん進学する中学もバラバラ。
同じ中学に行くものだとばかり思っていたから、
引っ越すと知った時はずいぶん泣いた。
卒業式も2人で号泣していた。
しかし、時の流れというのは残酷なものだ。
最初こそ手紙を出したり交換ノートを届けに行ったりと頻繁に連絡を取っていたが、徐々にそれぞれの「今」が占める割合が大きくなって、会う頻度も少なくなっていった。LINEだって、高校生になる頃には互いの誕生日や新年にメッセージを送り合う程度。
また、いつものパターンを繰り返しかけていた。
それでも、Mちゃんとの繋がりは奇跡的に途切れることがなかった。
1年に何度か、Mちゃんは地元に帰ってきた。
その度にどちらからともなく連絡をとって、自然と会おうという話になっていた。
流行りのカフェもインスタ映えスポットも何もリサーチせず、あの頃と同じようにただ喋るために会う。
何もないど田舎の地元で、線路沿いをひたすら歩いて、途中100円自販機でチェリオの麦茶を買って、
暗くなるまでひたすら歩きながら喋り続けた。
歩き疲れると、誰もいない小さな公園のブランコに座り、ひたすらに広がる田んぼの緑を眺めながらどうでもいい話をして時間を潰した。
いつ会っても、自然と昔に戻れた気がした。
それから何年も経って、お互い20歳を超えた。
時間が経つにつれ連絡を取る頻度はさらに少なくなり、
それぞれが、お互いの知らない「今」を積み重ねていった。
つい先日、また久しぶりにMちゃんと会った。
Mちゃんはもう働いているし、私も来年から社会人。
お互い化粧をして、服装も持ち物も大人になって、電車を乗り継いだ先にある都会の駅で待ち合わせをした。
…私たちは変わってしまったのだろうか。
待ち合わせ時間ギリギリ、駅に着く。
階段を降りて改札に向かうと、人混みの向こうにMちゃんが見える。
「久しぶり〜ごめんごめん1分遅れた!」
「ああお腹減った〜。私今日何も食べてないから、
このお昼にかけてたから!」
「いや〜卒論がさ、やばいんよ!もうやりたくない!
ようやったねM、あんな大変なんやね、、」
ーーーー大丈夫だ。
どんなに環境が変わっても、久しぶりでも。
会った瞬間になぜだかコロッケを分け合ったあの頃に戻れる。
どうでもいい話を延々としていたあの頃に、戻れる。
その日私たちは、いつもよりちょっといいご飯を食べて、近くの雑貨屋さんをウロウロして、
相変わらずノープランだったのでとうとうやることがなくなると、
暗くなるまでひたすら、歩いた。
その間、どんな話をしていたのか正直あまり覚えていない。どうでもいいくだらないことを話しながら、ずーっとひたすら、電車にも乗らずに駅を5つ分くらい歩いた。
とても幸せな、あたたかな時間だった。
Mちゃん、
いつ会っても同じように友達でいてくれてありがとう。
私は来年度から、東京で働く。
そうしたらもう、会えるのは何ヶ月後か、それとも1年後くらいになるのかな。
それでも、待ち合わせをして顔を見るときっと
「久しぶり〜いや〜寝過ぎたわあ、ギリギリセーフ!」
こんな感じで、田んぼを見渡す公園で話していた頃にまたすぐに戻れる気がする。
そしてやっぱり何も決めずに、
すぐにやることがなくなって、歩くのだ。
ずーっとひたすら、歩いていたい。
歩いて喋って、結局何を話していたのか覚えていない。
そういう日が、できるだけ長く続きますように。
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