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禍話俺セレクション

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#怪談手帖

禍話リライト 怪談手帖『つきまとう女』

大手企業で管理職を務めるYさん。彼は写真嫌いで有名である。

カメラを向けられるだけでなく、携帯電話でのちょっとした撮影の端に自分が写り込むことでさえも嫌がるという筋金入りで、周囲からも不思議がられているそうなのだが、その理由をYさんはあまり人には話さない。

「少し変な理由なんでねぇ。信じて貰えても、貰えなくても、気持ち悪がられるだけだし……。

……あなたも、話半分で聞いてくださいよ?」

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禍話リライト 怪談手帖『天狗のこと』

『……天狗と申すは人にて人ならず、鳥にて鳥ならず、狗にて狗にもあらず、足手は人、かしらは狗、左右に羽生えて飛び歩くるものなり』

『平家物語 巻十』より

「……俺、天狗を見たことがあるんだよ」

薄く紫煙を立ち上らせる煙草を指の間に挟みながら、ふざけている様子もなくAさんは淡々とそう言った。

「……そのせいで死生観、というか。

『幽霊観』

……っていうの? 変わっちゃってさあ……」

何と

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禍話リライト 怪談手帖『白い布』

『怪談手帖』の話を採集、提供している余寒さんが年嵩の人たちに話を聞いて回っていた頃。

山歩きをしていたという何人かから『飛ぶ布』の話を聞いたことがあった。

その目撃談はだいたい共通している。

山間を歩いている時、ふと見ると緑の山肌の上を布が飛んでいる。

(干した布か何かが飛ばされたのかなぁ?)

最初はそう思うわけだが、飛ばされているのではなく、明らかに風の向きに関係なく、あるいはそれに逆

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禍話リライト 怪談手帖『自然仏』(じねんぼとけ)

昭和の半ば頃のことだというから、昔話というほどではない。

Aさんのおじいさんが住んでいた集落のすぐ近く、山の麓で起きた奇妙な話だという。

ある昼過ぎ。山菜取りに行っていた老人たちが、興奮しながら駆け戻ってきた。

山道に入ってすぐの古い大きな樹の根元に、

『仏像』

がある、というのだ。

何人かでその様子を見に行くことになり、まだ少年だったおじいさんもついていった。

件の樹のところにやっ

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