買うべきか、買わざるべきか。

何の当ても無く、ふらりと立ち寄った書店で、文庫本(若しくは単行本)を買う。もちろんその本が、好きな作家のものであれば当然手に取るものだけれど、初めて聞く名前の作家だったら…?
何を基準にして、手を伸ばすのでしょうか?

私の場合はやはり、装丁かなと思います。

初めての作家の本を、しかもハードカバーで購入するという、一種の賭け。「面白くなかった」、それは即ち敗北を意味します。それでもまぁ、文庫本であれば、まだ傷は浅い。しかし、相手は二千円前後のハードカバー、失敗すれば2日間の日替わりランチが塩おにぎりに変わる程の痛手を負うのは必至。当然、購入するに至るまで、心の中で何がしかの葛藤があるはずなのです。

しかし。
過去に数回だけ、何の葛藤も無く、いわゆる「衝動買い」をしたことがあります。(重ねて言いますが、「初めて名前を聞く作家」で、「前評判などの知識もなく」、「ハードカバー」を、「迷いも無く買った」という意味で…です)
その一つが、恩田陸作品との出会いで、タイトルは、『三月は深き紅の淵を』と言いました。 今から、22年前のことです。

『三月は深き紅の淵を』-その印象的なタイトルに負けず劣らず、なんともミステリアスな内容の本です。
一言で言えば、「恩田陸ワールド炸裂なノスタルジィ漂う不思議な小説(「全然一言じゃないし」のツッコミ歓迎)」。
しかし何よりも、装丁が本の雰囲気を語っているのです。タイトルと内容と装丁が、まさに三位一体の本… それがこの『三月は深き紅の淵を』なのだと言い切ってもいい。

最近では、書店に行って平積みされている本を見る度、ちょっとがっかりしてしまう自分がいます。
どこを見渡しても、萌え系のイラストが描かれた装丁だらけ。確かに、その装丁のお陰で、若い世代の本を読む人が増えたと言えるのかもしれませんが、タイトルも梗概も面白そうなのに、装丁を見るとちょっと気後れして手を伸ばせずにいる…私のような世代の者がいることも事実。

「装丁にはその本のもつ世界を見せて欲しい。」
「その本のもつ世界を拡げてこその装丁だ。」

頭が固い、頑固者なんでしょうね…やはり、私などはそう思ってしまうのです。


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