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労働者のメンタルヘルスと規則正しい生活

メンタルヘルス不調の労働者の職場復帰支援は、メンタルヘルス対策として重要な取り組みの1つです。最近では、厚生労働省から「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」が発行されています。

その中で、職場復帰の目安として「規則正しい生活リズムになっていること」ということがポイントで挙げられています。私も産業医として、メンタルヘルス不調の労働者の職場復帰として、生活リズムを必ず見ています。また、職場復帰後も生活リズムを確認することが多いです。
このように、労働者のメンタルヘルスとして重要視されている「規則正しい生活」ですが、エビデンスに基づいているのでしょうか?
産業医活動している時の実感として一致はするのですが、あまりエビデンスを調べたことがありませんでした。そこで、労働者のメンタルヘルス対策として規則正しい生活が関連しているのか文献を調べることにしました。
PECOとして定式化すると以下のようになるかもしれません。
PECOとは、どのような対象者(Patient)に、どのような介入/要因があると(Exposure)、何と比較して(Comparison)、どうなるのか(Outcome)ということを、4つの要素に分けて明確にし、定式化するフォーマットです。

P: うつ状態/うつ病の休職者
E: 規則正しい生活
C: 不規則な生活
O: 職場復帰しやすい

しかし、残念ながら、規則正しい生活と労働者の職場復帰については関連があるという報告は見つけることができませんでした。産業保健に関するエビデンスは臨床医学と比べて多くはないのが現状で、対象となる労働者を用いた研究が少ないのかもしれません。
ただ、全くエビデンスがないのに指導するというのも望ましくないと思い、対象はやや異なるかもしれませんが以下で探してみました。

P: うつ状態/うつ病の者
E: 規則正しい生活
C: 不規則な生活
O: うつ状態/うつ病の再発

Pubmedを中心として文献を調べると、生活リズム(睡眠と睡眠リズム)と抑うつ症状については複数の研究がありました。

  1. うつ病を再発する多くの人は、再発の前に睡眠障害を呈することが多かった。
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21684011/

  2. 再発を繰り返すうつ病患者の治療中において、認知療法を用いて睡眠障害が大幅に改善した患者は、より早くうつ状態が良くなった。一方で、睡眠障害はうつ病の再発を予測しなかった。
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6919563/

  3. 睡眠時間減少だけでなく、起床時間や就床時間が日ごとにずれることも抑うつ症状と関連していた。
    https://www.nature.com/articles/s41746-021-00400-z

  4. 運動、食習慣、睡眠衛生、禁煙を含む健康的なライフスタイルへの介入は、うつ病/双極性障害うつ状態の再発に有効であった。 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0165032715308715?via%3Dihub

労働者を対象とした研究は見つけることができませんでしたが、うつ病/うつ状態の患者を対象とした研究を見つけることができました。
気分と睡眠は互いに関連していると言われており、睡眠と睡眠リズムを整えることはうつ病/うつ状態の再発予防になりそうです。エビデンスは不足していますが、労働者のメンタルヘルス(とくに気分障害圏)と規則正しい生活にも関係があるかもしれません。
産業保健においてエビデンスは乏しいようなので、これから研究が出てくるといいなと思います。


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