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ワンルームマンション投資の資料をみせてもらったのでシミュレーションしてみた

先日、知人から「ワンルームマンション投資に勧誘されているので、資料を見てほしい」と依頼を受けた際の話。


0.そもそも不動産投資を知らない俺


私はなけなしの小遣いで投資ごっこをしてはいるが、ワンルームマンション投資を含めた「不動産投資」については全くのド素人である。かといって実際に自分が勧誘を受けてくるというのは、興味こそあれどチー牛の私にはハードルが高いというもの。

話を聞いていくと、知人はどうやら「ワンルームマンションの1部屋を購入し、それを他人に貸し出して家賃収入を得るスキーム」へ勧誘されたようだ。

これはまたとない勉強の機会と考え、資料を見せてもらうことにした。資料といっても、「収支のシミュレーションと物件詳細」というタイトルの紙ペラである。

※以下の資料は、実際に見せてもらった資料を基に私が作成したもの。この記事は、ワンルームマンション投資の勧誘元を糾弾・非難するのが目的ではない。

そもそも月の収支が最初からマイナスな時点で???であるが、ならば実際に検証してみよう!と思い立った。不動産投資には全くのド素人である私が、少ない知識と足りない頭を動員して「果たして儲かる話なのか?」を検証するのが当記事の趣旨である。

従って、当記事の検討や分析はあくまで“ド素人”によるものである旨は留意していただきたい。また、万一業者に見つかって何か言われても面倒なので、数値はいずれも(シミュレーション結果が左右されない程度に)若干変えてある旨も付記しておく。


1.当「ワンルームマンション投資」の概略

上の資料の通りだが、要するに

  1. 1,990万円の築10年の「マンションA(23区内)」の一部屋(ワンルーム)を、1,980万円のローンを組んで買う

  2. ローンの支払いが月60,818円に対し、サブリース賃料は月66,600円

  3. 月々の管理費と積立金・毎年の固定資産税は別に支払う

  4. 不動産購入時に不動産取得税116,000円がかかる

がざっくりとした概要である。次項で①~④をもう少し詳しく見てみよう。


2.検討

正直なところ、この「収支シミュレーション」を見せられた段階で私は“怪しさ”を感じずにはいられなかった。だが、何事も疑心暗鬼になりすぎるのは決して良いことではない。

自らから疑いの先入観を排して、まずはまっさらな心でこの「収支のシミュレーション」をいくつかのポイントに分けて検討していこう。


① 1,980万円のローンについて


ローンプランは全期間固定型の1.52%。0.3%台の低金利がザラな変動金利をあえて選ばず、より堅実な全期間固定型で想定しているのは評価できる。

ただでさえ「永住前提で35年ローン変動金利」はリスクが大きい。自分で住む家なら最悪売れば何とかなる場合もあるが、これは自分で住まない‟投資用”だ。

これで変動金利が前提のシミュレーションなら、もうそれだけでツッコミどころである。だが、ここはあくまで‟堅実”をおさえてきたと言ったところか。

ローンの返済が元利均等返済か元金均等返済かは資料内で言及がなかったが、私が計算したところ元利均等返済を基準にした額と一致した。この場合、ローンの総返済額は25,543,669円である。

元利均等返済は毎月の返済額が一定であり、返済計画のめどが立ちやすい。ここも“堅実”をおさえている。


② マンションについて

この「マンションA」は23区内にあり、都心に直通する鉄道路線の駅から徒歩10分程度だという。私には全く馴染みのない土地だが、記事執筆にあたって実際に訪れてみた。

すると駅前にはスーパーや飲食店が立ち並び、小規模ながら“商圏”が形成されていた。日常生活にはまず困らない程度の利便性はあるとみて良いだろう。

ただ、特段人気エリア・立地がブランドになるといったような場所ではない。従って、この「マンションA」の総評は

悪くはなさそうだが、都心部ならどこにでもある普通のワンルームマンションの域を出ない

というのが個人的な評価である。


③ ローンと賃料収入について


ローンの支払いが月60,618円に対し、「サブリース賃料」なるものがオーナーに月66,000円入るという。聞き慣れない言葉だが、これは物件のサブリース契約で「賃料収入」に近い意味で使われるものだ。

サブリース契約とは、雑に説明すると「物件のオーナーがサブリース業者に物件を貸し、サブリース業者は入居者に又貸しする」という形態。

サブリース業者は入居者探しから諸々の事務作業まで、マンションの運用に関わる業務をオーナーに代わって遂行してくれる。

他方オーナーは、あくまでサブリース業者に貸しているので、実際には空室だろうが月66,000円のサブリース賃料が確実に手に入るというわけだ(※)。まさに夢のある契約なのである。

…とサブリース業者の宣伝文句っぽいのを列挙してはみたが、もちろん良い話には必ず裏があるのが世の常だ。私が思いつく限りでも、

  • サブリース賃料はエリアの相場より安め

  • 変な人を入居させられてもオーナーは断れない

  • 変なサブリース業者だとなにかにつけて手数料をとられる

  • なんならサブリース業者が飛ぶこともある

  • 借地借家法上で守られるのは、実はオーナーではなくサブリース業者(→要するに、立場はサブリース業者の方が強い)

  • 家賃の見直し(=ほぼ値下げ)を求められる

  • 改修・リフォーム時の負担はオーナー

などがある。

他にもあれば補足していただきたいが、業者・契約内容を精査しないと危険な要素をはらんでいる点は留意するべきだろう。知人を勧誘した業者がそうでないことを祈るばかりだ。

※賃料保証の場合


④ 管理費・修繕積立金・固都税を払ったらまさかの【赤字】


マンションを所有している場合、管理費・修繕積立金を払うのは所有者だ。これが月々合計10,839円であり、この時点で月収支の赤字が確定する。

だが「それじゃ投資の意味なくない?」ではここで話が終わってしまうので、このまま詳細の検討を続けたい。


さて管理費・修繕積立金の額は、どちらもマンションの自治会で決められるものである。従って、管理会社がボッタクリという超レアケースを除いては、基本的に外部が介入する余地がない。

上記の事情、及び後述の周辺マンションの額と比べても、「マンションA」のそれはそこまで大それた価格帯ではないとみて差し支えないだろう。

参考までに、この「マンションA」に近い物件(同エリア・ワンルーム)を見てみた限りでは、

  • 「マンションX」(1K・31㎡・築31年・徒歩10分)
    →管理費6,350円・修繕積立金2,567円

  • 「Yコーポ」(1DK・38㎡・築37年・駅徒歩13分)
    →管理費10,170円・修繕積立金17,700円

などと、見事にマンションによりバラバラだった。

余談だが、マンションの修繕積立金には「均等積立方式」「段階増額積立方式」があり、各マンションごとに決めている。「マンションA」がどちらを採用しているかは不明だったが、一応ここは「均等積立方式」(※)ということにして今後の話を進めたい。

最後に固都税。これは「固定資産税」「都市計画税」をまとめた呼び方だが、通り一辺倒のことを書いても仕方ないので割愛する。


(※)「均等積立方式」は、大多数のマンションが採用しているほか、計算が楽で今後の資金計画シミュレーションしやすいというメリットがある


⑤ 不動産購入時に不動産取得税116,000円がかかる

マンションを買った場合の不動産取得税は、「建物」「土地」両方にかかる(「建物」は専有面積の割合、土地はマンション敷地全体に対する専有面積の割合)。

ワンルームマンションの専有面積にしては高い気もするが、投資用物件が不動産取得税の軽減措置から外れるゆえだろうか(※)。それを考慮すると、法外に高い金額というわけでもなかろう。

そもそもこれは、土地・建物の専有割合が記載されている登記簿を見てみないと分からない点が多い。よって、「不動産取得税=116,000円」はひとまず妥当ということにする。

※1997年4月以降に新築、床面積50~240平米その他の条件を満たし、かつ「取得者の居住用」の場合、最大で1,200万円(※)が不動産価格から控除されての課税となる



3.実際に儲かるのかシミュレーションしてみた

ここまで見て、とりあえず①②⑤はまともそうということが確認できた。だが、問題は③④で「なぜ月々の収支が-5,657円のシミュレーションを提案してきたのか?」である。

知人に聞くと、担当者は

  • 何年後かに不動産市況が上がっていて、買値より高く「マンションA」が売れれば儲けになる

  • 「マンションA」はたまたま収支がマイナスだが、収支がプラスになる物件と併せて2部屋買えばプラマイゼロだし、将来2部屋を売却すれば悠々自適に暮らせる

と説明してきたらしい。

後者はもはや意味不明で検討の価値すらないが、前者も大概である。折からの不動産価格狂い上げの今でも収支が赤字なのに、将来それを全て回収できるほど確実に値上がりするとでも言うのか。

「実際に儲かるのか」という収支計算は、現実かつ堅実な数値に裏打ちされるべきものである。
しかるに担当者の言葉は、なんの根拠もない希望的観測に基づいた“ふわっとした夢物語”ではないか。「実際に儲かるのか」という疑問に対する説明には、とても適切とは言えまい。

では、どうしたらこの“疑問”を晴らすことができるだろうか。
私は、「マンションA」の成約価格の推移・近隣のマンション相場にヒントがあるかもしれないと考え、まずそれを見てみることにした。

本項ではその結果をもとに「マンションA」を最大30年間“運用”すると、どれだけ儲かるのかを検証していく。


a. そもそも新築時の価格はいくらだったのか


この「マンションA」の新築時価格を調べてみたが、有名なイエシルやマンションノートには掲載されていなかった。担当者は「本来この物件は、企業様にしか紹介していない」と勧誘してきたそうだが、さすがそう豪語するだけのことはあるらしい(※無論、これは皮肉である)。

懲りずに他にも情報を探したところ、

  • ほぼ同条件の部屋が新築直後の2014年に2,700万円で中古売買

  • 2017年以降は最初に2,100万円

  • 以降本年に至るまで売買価格は1,700〜1,900万円で推移

という情報にたどり着いた。

十分な情報とは言いがたいが、仕方ないのでこれを使って下落率をざっくり計算することにする。


b. 下落率2.6%とみるかヨコヨコとみるか


さて、2014年に2,700万円だった「マンションA」が2024年に1,990万円で買えるなら、ざっくり下落率は年2.6%だ。

マンションの平均的な下落率は年間2.00%(>>餅つき名人氏のブログ)らしいので、それに当てはめれば「マンションA」の下落率は平均未満ということになる。

他方、2017年最初の成約価格である2,100万円を基準にすると下落率は年間0.52%となり、一気に超優良物件に躍り出る。

不動産価格が狂い上げしている昨今でも価格がヨコヨコとはいえ、新築直後からの大幅下落だけを切り取って「この物件は下落率2.6%のクソ物件」などと切り捨てるのはよろしくない。もはやあら捜しになってしまうからだ。

他人や物事のあら捜しをしないと自分を保てない可哀想で残念な人はたまにいるが、そうした姿勢はワンルームマンション投資でも好ましいものではない。

(※ただ、私が実際に「マンションA」の購入を考えるとしたら、下落率2.6%想定での収支シミュレーションも検討材料にするだろうということは付記しておく。)

かといって「マンションAの価格が今後もヨコヨコ」としてシミュレーションするのも、あまりに楽観的すぎるというもの。マンションに限らず、不動産は(余程の一等地でもない限り)基本的に年数とともに価値が下がっていくものだからだ。


c. 2通りのシミュレーションをしてみる


そこで私は、以下の2つの場合に分けてシミュレーションすることにした。

  • 2017年最初の成約価格2,100万円を基準として、今後「マンションA」の価格が年0.52%ずつ下落していく想定

  • 平均的なマンションの下落率に則り、「マンションA」の価格が年2.00%ずつ下落していく想定

なお「2014年の成約価格2700万円を基準に下落率2.6%」「マンションAの価格がヨコヨコ」での想定は見送った。前者が大赤字、後者が黒字になるのは計算するまでもないからである。

参考として、シミュレーションに用いた数値・基準を以下に紹介しよう。


d. 【備考】シミュレーションに用いた数値


・サブリース賃料

>>株式会社和不動産のサイトによると、一般的にワンルームマンションの賃料は築3~10年までは年間下落率が約2.2%、10~20年で約0.9%、20年以降は約0.7%だという。

冒頭で述べた通り「賃料≒サブリース賃料」ではあるが、賃料の下落に伴ってサブリース賃料も下げていかないとサブリース業者の儲けはどんどん減ってしまう。ゆえに、賃料の下落率をサブリース賃料に反映させても大外れはしないだろう。

この「マンションA」の築年数は10年なので、上のデータに則り初年~9年目までは0.9%、10年目以降は0.7%の年間下落率とした。


・固定資産税と都市計画税(固都税)

固都税は全期間一定の54,177円で試算した。

税額は国の公示で決められ、3年に1回の見直しが入る。建物にかかる税金は、築年数を経るごとにゆるやかに下落していく傾向にあるが、土地にかかるそれは純粋に予測が難しい

やや乱暴な試算方にも見えるが、FPに不動産購入に関わる生涯キャッシュフローを組んでもらうと、固都税は一定で推移する想定で作成されることが多い。プロのFPですら予測困難なら、いわんや素人の私をやということだ。


・管理費・修繕積立費

これもマンションごとの事情があるため、推測は困難であることから当初から一定のままとして試算した。

ただ管理費はともかく、築年数が上がれば比例して(またはそれ以上に)修繕積立費は上がっていく傾向にある。

そこをあえて一定としているのは、同じ予測困難でも「好意的」に想定した結果である点はあらかじめ強調しておきたい。


4.シミュレーションの試算結果


さて、まずは下落率0.52%のシミュレーションから見ていこう。一番右列の「差引」が、このワンルームマンション投資の最終的な収支である。


参考までに、「マンションA」近隣で20㎡代前半・築30〜40年のワンルームマンションの相場は800〜1,200万円程度である。

今後の不動産市況は誰にも分からないが、30年後に人気エリアでもない築40年のワンルームマンションが1,701万円で売れるかどうかは意見の分かれるところだろう。それに、仮に30年後に1,701万円で売れたとして、収支は+530万円である。

ちなみに30年後に+530万円は、例えば「372万円を年利3%で30年複利で運用する」でも得られる旨は強調しておきたい。言い換えれば、ローンを組んでマンションを買わなくても、頑張って貯金〜投資信託などの運用で十分到達できる程度のリターンということだ。


続いて、平均的な下落率2.00%で試算したシミュレーションは以下の通り。この想定では、いつ売却しても赤字になることが判明した。

なお、これらのシミュレーションには「管理費と修繕積立金の価格変動(≒値上がり)」は含んでいない。従って、実際の収支から差異がある(≒減る)ことは注記しておきたい。


それにしても、担当者の言う「悠々自適」とは何だったのか。そもそも「マンションA」のマイナスを相殺するためにもう一部屋買うくらいなら、最初から収支がプラスの部屋を2つ買えばいいだけの話だ。

私の思う「悠々自適」とは、違う意味合いでの用法があるのかもしれない。自身の無知に恥じ入るばかりであるが、ご存知の方はぜひご指摘くださるとありがたい。


5.【番外】この物件、別の問題もあった


ついでに、この物件を管理している管理会社のGoogle口コミも見てみたが、管理の体制・品質が住民の期待に応えられない事例の多い会社らしいのが垣間見えた。

ただ、私が外からこの物件を見てきた限り、口コミで言われているほど悪くはなさそうというのが率直な印象である。外壁やエントランスは清潔感があった。

もっとも、実際に住んでみないと見えない点も多々あるのだろう。本件について多くは触れないことにする。


6.シミュレーションを終えて

あなたは最初に「収支のシミュレーションと物件詳細」を見たとき、どう思われただろうか。
そして、あなたは担当者の

  • 本来は企業様にしか紹介していない物件

  • 何年後かに不動産市況が上がっていて、ワンルームマンションを買値より高く売れれば儲けになる

  • この物件はたまたま収支がマイナスだが、プラスになる物件をもう1棟買えばプラマイゼロだし、将来2部屋を売却すれば悠々自適に暮らせる

という説明に、すんなり納得しただろうか。

そもそも「企業様にしか紹介していない物件」という時点でおかしいし、それをそこらの一般人に勧める時点でさらにおかしいのである。

新NISAの導入で、にわかに「投資」の二文字を見かけることが多くなった昨今。そんな中、我々の生活を直撃しているのが空前の円安だ。

自分の資産を防衛したい、あるいは資産がなくてもこれから築きたい。そういった将来不安が生まれるのは無理もないだろう。しかし、そんな不安に付け込んだアコギな商売が横行している、というのが今回のシミュレーションを通じて垣間見られた。


7. 終わりに


投資の世界には、魅力もリスクも潜む。それだけに投資商品が信頼に値するかという「現実」は、常に自分でよく分析・研究し答えを出すべき課題だ。

安易な約束や華々しい言葉に惑わされず、「ノー」と言うときは「ノー」と言う。それも、立派な“資産形成”である。資産が守られさえすれば、真の資産形成がその先で開ける可能性は残っているからだ。

だが、当noteは情報商材ではない。真の資産形成とやらは、ご自身で調べるなり勉強なりしていただきたい。

そして、あなたが儲かる魅力的な案件にたどり着いたときは、ぜひ私にもご紹介いただければ何よりの幸甚である。もちろん、私をカモにしない範囲でというのは大前提だ。

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