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絶対に穢すことができない美しさのこと(サロメ出演者紹介③雑賀玲衣)

 今週末、獣の仕業という劇団で「サロメ」というオスカー・ワイルド原作の演劇をします。ひとりでも多くの人に見ていただきたく、出演する俳優たちの紹介をします。五十音順で行きます。
 第二回小林龍二はこちら▼

 第三回は雑賀玲衣。主演です。大主演です。

 第二回の小林龍二の紹介ですでに触れたのですが、私は主演をやる劇団員の「素材としての魅力」と「作品のテーマ」をミックスしたくて、いつも劇団員の魅力と作品の魅力の交点で公演を打っています。

 今回の雑賀玲衣の魅力は「美しさ」。それを踏まえて作品のテーマはおよそ反対の意味である「穢れ」にしました。雑賀という俳優本来が持つ魅力を活かすための交点として選んだ「穢れ」、私がサロメという物語に感じている穢れは何なのかをまずは説明します。

 物語の舞台であるマカエラス要塞の古井戸には預言者ヨカナーンが幽閉されています。幽閉されている理由は、ヨカナーンがユダヤの王ヘロデと妃ヘロディアの婚姻に反対したためです。
 妃ヘロディアは元々、ヘロデの兄であるフィリポの妻でした。夫のいる身でありながら、夫の兄弟と結婚したのです(ユダヤ古代誌によれば、ヘロデに求婚されたヘロディアが結婚の条件として先妻ファサエリスと離縁することを要求したそうです。諸説あり)。
 ここがヨカナーンが作中指摘する「近親婚」です。
 ユダヤの律法において近親婚は禁忌とされていました。ふたりの結婚に反対したためにヨカナーンは捕らえられてしまいます。

 禁忌を犯した夫婦の娘であるサロメは、純粋な処女でありながら穢れの象徴のようにも感じられます。サロメを取り巻く穢れが、サロメ自身にも入り込んでいくような。
 この近親婚の人間関係を、獣の仕業のサロメでは、先妻ファサエリス・先夫フィリポを登場人物として追加することで強化しました。穢れた人間関係の渦中にあるサロメが、自分自身の内にも同じ穢れを見出すような作りを意識しています(少し話は逸れますが、追加した登場人物の台詞は既存の役の台詞のシェアが9割なので実は脚本の改変はさほどしていません)。

 人間の罪。穢れ。禊ぎ。それらをサロメという物語の視点から、あるいはサロメの原点となる宗教的な贖罪などの観点から作りました。
 それが私がサロメに感じる「穢れ」の要素です。

撮影:加藤春日

 雑賀の話に戻ります。大変美しい俳優です。

 私が定義する美しさとはもちろん容貌のこともあるのですが、それに加えて美しくあろうとする日々の努力や、表現のために訓練された身体や、身に着けるものや、言葉遣い……。そういった雑賀玲衣という人生ひいては精神的な総体がなんかこう、もう、すべてビューティフォーです。
 雑賀という俳優の個性が確立していて、それに期待してくださるお客様がいて、その期待に応える演技があって……。俳優としての彼女はこちらからひとつ提案をすると、自分で考えて演技を深めてきてくれて、いつも彼女には助けてもらっています。
 彼女にしかできない芝居があって、それが獣の仕業にとっても大切な武器になっています。

 そんな雑賀ですが、フィジカルを揺らすと大変儚い情感が出てくるのが特徴です。揺らすあるいは崩すと言ってもいいでしょうか。舞台上で他の俳優に力を掛けて貰ったり、掴んだり、横にしたり、踊ってもらったり。彼女の身体をぐらぐらっと揺すぶると、あらゆる努力で構成された強さのある美しさの中から、彼女が生まれた時から持っていた(と私が感じる)儚くて可憐な美しさが顔を出します。強い美しさと儚い美しさ。どちらも好きなのでどちらも見せてもらうことにしました。
 穢すほどに美しくなる。何て言い方はやや野蛮ですが、穢れるほどに本来の美しさが際立ち、舞台上の雑賀がだんだん透明になっていくのを、サロメの稽古中私はずっと見てきました。

 穢れてもなお美しいもの。
 もしくはどれだけ穢れても、決して穢し切ることのできないもの。
 そんな真の美しさを雑賀玲衣のサロメが体現してくれています。

 実はサロメを演じることが、彼女の長年の夢でありました。見る方に楽しんでいただくためのものを作りながら一方で今までたくさん助けてくれた彼女の夢を少しでも支えたいと思っています。これは私の個人的な気持ちもあります。
 今週上演。ぜひ、劇場で配信で、彼女を見届けてください。


獣の仕業 第十五回公演「サロメ」

[■■■, ■■■, Lema Sabachthani?]

撮影:加藤春日

2/23(金祝) 20:00
2/24(土) 14:00/19:00
2/25(日) 13:00/18:00※生配信回
会場:シアター・バビロンの流れのほとりにて(東京・王子神谷)

劇場チケット予約

  • 劇場チケット:2,500円

  • 劇場+紙脚本付チケット:3,000円

  • 上演時間:約95分

  • 受付開始・開場は開演30分前

  • 未就学児童入場不可

  • 舞台上で水を使用する演出が一部あります。意図的に観客席に水をかけることはありませんが、お席によっては飛沫がかかる可能性があります。ご了承ください

配信チケット購入

【配信での観劇購入(生配信+アーカイブ視聴)】

  • 販売期間:1/7(日)20:00~3/24(日)23:59

  • 配信期間:2/25(日)18:00~3/25(月)23:59

  • 応援キャスト指定でのご予約をご希望の方は「備考」欄へのご記入をお願いいたします

作=オスカー・ワイルド
翻訳=森鴎外
脚色・演出=立夏

出演=

  • サロメ(ユダヤの王女 ヘロディアの娘)…雑賀玲衣

  • ヘロデ(ユダヤの王、サロメの義父)…手塚優希

  • ヘロデの穢れ ファサエリス(ヘロデの先妻)…小林龍二

  • ヘロディア(ヘロデの後妻、サロメの母)…柳橋龍(兎団)

  • ヘロディアの穢れ フィリポ(ヘロディアの先夫、ヘロデの兄、サロメの実父)…佐藤天衣(兎団)

  • ナアマン(首斬役)…古川ゆかり

  • ヨカナーン(預言者、イエスの洗礼者)…きえる

スタッフ=

  • 舞台監督:小林龍二

  • 照明:寺田香織

  • 音響:新直人(salty rock/零'sRecord)

  • 撮影・配信:U-3

  • 衣装:きえる

  • 写真撮影:加藤春日

  • 宣伝美術:立夏

  • 制作:手塚優希

会場=

シアター・バビロンの流れのほとりにて

〒114-0003 東京都北区豊島7-26-19

最寄り駅南北線「王子神谷」駅からのMAP

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