初冬の赤岳へ
2022年の11月初め、八ヶ岳の主峰、赤岳に登ってきました。
八ヶ岳の山にはこの2年の間、北横岳、縞枯山、権現岳、硫黄岳、横岳、天狗岳といくつかに登ってきましたが、赤岳はというと、高校生の時に一度登ったきりでした。
当時のことをほとんど覚えていないのですが、確か友人と2人で赤岳鉱泉にテント泊しながら登ったはずでした。
残っている古い写真には行者小屋が写っていますが、温泉に入りたくて赤岳鉱泉にしたことは覚えています。
この時天気はずっと悪く、赤岳山頂でも展望は全くありませんでした。
そして約30年後の今年、本格的な冬になる前に赤岳には登っておきたいと思ったのです。
赤岳山荘駐車場に車を停め、登山口は美濃戸口です。
美濃戸口から行者小屋、地蔵の頭から山頂を目指し、下山は文三郎尾根から下りました。
阿弥陀岳も登りたかったのですが、ゆっくり景色を楽しみたくて、急いで行くのは避けたかったので今回は見送りました。
美濃戸口 6:24
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行者小屋 8:42
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地蔵の頭
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赤岳展望荘
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赤岳頂上山荘
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赤岳山頂 11:30
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文三郎尾根
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中岳
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阿弥陀岳分岐
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行者小屋
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美濃戸口 15:45
全体のペースは標準よりも少し速いペースだったようです。
登山の始まり、早朝の凛とした空気は清々しく、なんとも言えない気持ちよさがあります。
これから始まる山行に、緊張しつつも大いに期待を膨らませて、歩き出す時の心境は、さながら冒険者の端くれになったような気持ちです。
持ち物に過不足はないか?地図でルートを確認し、天気予報を確認し、出来るだけ万全な体制を整えます。
ソロ登山では全てを1人で行動し、判断していきます。その分リスクはあるので、入念に準備をしています。
これまで、幸いにも危険な状態を経験したことはないのですが、自分自身の責任で安全に登山できるように心がけています。
まだ積雪も少なく、登山道は分かりやすく迷うことはありませんでした。
それでも紙の地図とスマホのGPSの確認は欠かさないようにします。
樹林帯が開けてきて、頭上に赤岳が姿を現しました。
朝日を逆光にした姿は、まるで巨人がヌーっと立ち上がっているかのような迫力があります。
『何しに来た?』
と語りかけているようなその姿に、鳥肌が立ちました。八ヶ岳の山々を間近で見ると、その大きさは実に圧倒されるものがあります。
前日の降雪のせいで、その姿は雪山の様相です。
「あそこに登るのか。」
私は心の中でつぶやきました。
陽の光はまだ峰々に隠れて、空気がひんやりとしています。外気温の低さも相まって、ゾクゾクとした感覚が身体中に走ります。
それは緊張と不安と期待感の入り混じった感情の昂りで、武者震いというようなものなのかもしれません。
登山をしていて、素晴らしい景色を見ることで、疲れが飛んでいくことは度々あります。
その度に、あー山に来てよかったと心底思うのです。
その時もこれから向かう山の頂を見て、奮い立つ自分がいました。
登山口から2時間ちょっと、美しい八ヶ岳の森を抜けて、行者小屋まで辿り着きました。
行者小屋から見上げると、硫黄岳、大同心、小同心、横岳、赤岳が見えます。
すでに行者小屋は冬季休業中で閉まっています。トイレは開いていたのでお借りしました。(有料です。山でのトイレは大抵有料なので、100円玉などの小銭は用意しておきます。)
同じようにソロの男性がいたので、これから向かうルートなどの話をしました。
その男性は、何度か赤岳は来てはいるものの雪のある赤岳は初めてとのことでした。
自分もそうなので、無理を感じたら引き返すつもりでした。
積雪は行者小屋で数cmといったところで、まだチェーンスパイクはしなくてもここまで来れました。
登るルートは当初の予定通り、地蔵尾根からです。
登っていくとすぐに岩場の急斜面となり、鎖場が増えてきます。
ストックはリュックにしまい、チェーンスパイク、ヘルメットを装着しました。
滑って落ちれば、恐らく助からない斜面なので3点支持を確実にしながら、ゆっくりと登っていきます。
登るにつれて周囲に素晴らしい展望が開けてきます。
この日は風がほとんどなく、とてもいいコンディションでした。
お地蔵さんのいるところまで来ました。
徐々に積雪も増えてきますが、歩きにくくはありません。
地蔵尾根に辿り着き、赤岳山頂もよく見えます。もう一息です。地蔵尾根の急登を無事抜けると、とりあえず一安心です。
風がなく、空は八ヶ岳ブルーです。
最高に気持ちがいいです。
山頂までの急登は、10cm位の新雪が積もり、チェーンスパイクでは雪をかまず、少し歩きづらさも感じます。
ストックを使いながら滑らないように登ります。
赤岳展望荘を過ぎ、振り返ると横岳、硫黄岳に繋がる稜線が見えます。
頂上が見えました!
30年振りの山頂は気持ちよく晴れて、360度の絶景です。
山頂は無風で、日差しもあったので寒くはありませんでした。
パンや携行食を食べて、少し休憩し、文三郎尾根から下山します。
こんな日はのんびりと過ごしたいところですが、時間も考えながら行動しないといけないのが、もどかしいところです
文三郎尾根も岩場の急な斜面ですが、積雪は少なめで、鎖もあり、足場もしっかりとしているので慎重に進めば問題ありませんでした。
地蔵尾根にしても、こうした登山道がしっかりと整備されているのは、とてもありがたいですし、整備している方がいることに毎度頭が下がります。
向こう側には、阿弥陀岳の姿が悠然と現れます。
赤岳もかっこいい山ですが、阿弥陀岳の姿のかっこよさには驚きました。
阿弥陀岳は登る予定ではなかったのですが、時間的に登れなくはなさそうなので、迷ってしまいます。
赤岳と阿弥陀岳の間に中岳があります。
その中岳と赤岳の間の辺りが広々と雪原のようになっていて、気持ちのいい場所だったので、座って赤岳を振り返りながら休憩をしました。
山に登っていると景色の素晴らしさに目を奪われてしまい、なかなか進まないことが度々あります。
この時もどこを見ても絶景で、すごいなー、すごいなーと呟き続けていました。
一人きりで絶景の中、風の音しかしないような時、天国ってこういうところなのかもしれないと思ったりします。
「今、死んでないよな?」
とか思ってしまいます。
それくらい、その絶景の中にいることが不思議な感覚です。
中岳を過ぎて、時刻は13時頃でした。
ここから阿弥陀岳を往復すると、およそ1時間です。
といいうことは下山予定が1時間オーバーするので、17時近くになるかもしれません。
ペースを無理に上げたくないし、15時台には下山しておくようにしておきたいので、今回は阿弥陀岳は諦めることにしました。
その代わりなるべく景色を味わいながら下山しようと決めました。
無理をしない。できる限り安全な方法を取る。リスクを感じたら諦める。
いつもそんなことを注意して登山に臨んでます。
私は必要な以上に怖がりかもしれません。
でもそれくらいでちょうどいいと思っています。危険な目に遭うこともこれから先あるかもしれません。それでもそういう心持ちでいれば最小限のリスクで済ませられるだろうと思っています。
行者小屋まで来ると朝あった雪も大分溶けていました。
ここでもテント泊をしてみたいです。
八ヶ岳の樹林帯は原始の森で、苔が広がり、本当に美しいです。
毎度下山中、楽しませてくれます。
今回も天候に恵まれて、素晴らしい山行になりました。
こうした山行を経験すると、今度はいつどこの山へ行こうかなとワクワクするのです。
駐車場から車で帰る途中、鹿が見送ってくれました。
思わず、
「ありがとうございました。」
と告げて、山を後にしました。
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