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ドラマ『きれいのくに』の感想。私好みのパターンのSF。

NHKの連続ドラマ『きれいのくに』に面白いエピソードがありました。

■ あらすじ

架空の日本が舞台。
この世界では美容整形や遺伝子編集による容姿の統一化(トレンドの顔に変えること)が流行し、男はみな稲垣吾郎、女はみな加藤ローサの顔になっている。
政府はこの状況に危機感を覚え、十年前から美容整形や遺伝子編集による容姿改造を違法化した。
現在では、依然として稲垣吾郎や加藤ローサの顔の人が多いものの、まったく容姿に手を加えていない人たちも一定数存在する。
この世界で、とある高校生の男女5人グループの青春物語が展開される。


■ 感想

本文執筆時点ではドラマが未完なので、あくまで第5話を見終わった段階での感想になります。

本作、NHKのホームページでは『恋愛の衝動がほとばしる青春ダークファンタジー』と銘打たれていますが、内容的には広義のSFにも属するかと思います。
本作における Science は、社会科学(Social Science)といったところでしょうか。

合理的に考えてしまえば、人類社会が本作のような世界線に至る可能性は万にひとつもないでしょう。
パラレルワールドや未来を描くSFでは、その特殊な状況に至ったプロセスの説明や、世界はそうなり得たかもしれないという根拠の提示を求める人も少なくないですから、人によってはこの時点で本作を評価できないかもしれません。
私の場合は、設定がどれだけ非現実的だろうと、それ単体で否定的評価をすることはありません。
しかし、コメディでもない限りは、その設定がきちんと生かされた人間ドラマが展開されなければならないと考えています。
この観点で、本作は第5話のエピソード作りが非常に巧く、唸らされました。


主要人物の一人で女子高生のれいらは、パパ活(男性とデートして報酬をもらう行為)をしています。
ある時、れいらはパパ活の相手男性に暴行され、ケガをしました。

問題は、相手が稲垣吾郎の顔だったということです。

この世界には同じ稲垣吾郎の顔をした人がごまんといますから、道行く男性や、仲良しグループの男子生徒の一人(両親の遺伝子編集によって生まれながらに稲垣吾郎の顔をしている)を見るたびに、れいらは恐怖を思い出して辛くなるのでした。


――こんな風に、その設定だからこそ生じ得る人間心理・葛藤を上手に描かれると、私はテンションが上がってしまいます。

SFやファンタジーでは特殊な世界観設定がまま採用されますが、そこで展開される物語は二つに大別できます。
一つは「その世界での(その設定における)ヒーローないし事件を描く話
一つは「その世界での(その設定における)生活を描く話」です。
前者は、たとえば体制に反抗する人物やその戦い、ないし世界を揺るがす事件を描く話です。その世界に歴史の教科書があれば、その教科書にも載るであろう事物の話、と言ってもいいでしょう。
後者は、正に本作のような話ではないでしょうか。非日常・非現実の中の日常が描かれています。

そして、私は後者のような話が大変好みです。AIを開発する技術者の闘いだの、AIが暴走して人類の敵になるだのといった話より、AIがある日常生活を描いた話が好き、といった感じです。



物語の受け手は、設定に興味を惹かれるほど、その土台の上にどんな建物を築き上げてくれるか期待するものです。
上記のエピソードは、私のそんな期待に見事に応えてくれました。

本作は設定も突飛だし、第1話と第2話がまるまる「美容整形の問題点を描く高校生向けの啓発映画」になっているなど、全体の構成もまた捻りがあります。
今後はまた違った展開、違った方向性になっていくのかもしれませんが、注目したいドラマとなりました。