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掌編旅行

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これまでに書いたショートショート集。
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2014年6月の記事一覧

○○○曰く ―ショートショート―

お題「へのへのもへじ」
(お題提供者 冬顔 さま)

 

 しまった、『顔』を落としちまった。

 だからあれほど言ったのに、顔を付けるときはしっかりと瞬間接着剤でくっつけてくれって。どうして木工用ボンドだったんだよ、コンチクショウ。木工用って! ボンドって! お肌荒れちまうじゃねぇかコンチクショウ!

 こうして顔を落としてしまったのにも過程は存在するはずだ。

 俺に顔を――テキトーに――貼

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キラキラ少女 ―ショートショート―

 キラキラ光るその水を口に含んでみたら私の体もキラキラキラキラ光って私のまわりは照らされて私はキラキラしながら家に帰るとお母さんは驚いたようだけど「これなら電気を点けなくてもいいわねエコね」と納得したようだったから私は少し照れてしまったら私のキラキラがさらにキラキラして家中がキラキラしちゃってお母さんは「まぶしいわね」と笑っていたから私はさらに照れちゃってキラキラキラキラキラキラキラキラ。

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ジジロとサイコロ ―ショートショート―

 お題「サイコロ」
(お題提供者 twynkl:bat さま)

 ジジロは手に握ったサイコロを大きく天へと放り投げた。

 これはジジロがサイコロを手放すまでの物語である。

 ジジロが小さなプラスチック製のサイコロを拾ったのは、ジジロの父と母が亡くなった日であった。救急車やパトカーの音が雷のように鳴り響く中で、ジジロは転がるサイコロを見つけた。サイコロは1の目を指していた。目玉のような真っ赤な

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もの食う者 ―ショートショート―

 貴方は子鹿をどこから食すだろうか。

 私の恋人は後ろ足に迷いなく食らいつくが、私はやはり腹部である。

 かように我々というものは同じ「食う」も異なる。なかなかにグルメである。たとえばある者は血を嫌う。血が抜けるのを待ってから食うという。しかし時間を経れば好機を逃すというのは世の習いだ。血が抜けるまで待てば肉のうま味が減るだろうに、と、私などは思うものだ。

 食の話題というものは尽きない。何

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Essent“I”al ―ショートショート―

 

 きゃらんころん、とベルを鳴らして彼女は店にやってきた。

 彼女が僕の「恋人」だってことはひと目で気が付いた。高そうなドレスに身を包む彼女は見るからに品が良く、まるで絵の中の美女だった。

 彼女は僕の座る卓まで歩くと「安藤愛でございます」と、一礼した。

「あ、ああ、僕は山田幸太だよ」

 高級服に身を包む者共のやわらかな談話が、ピアノの旋律に溶ける。店の雰囲気に負けないようにと、僕も

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不語ガール ―ショートショート―

noteでやってみたかったことをやってみる。
できればPCから見てください。

ちなみにタイトルは「カタラズガール」と読みます。

                                                                         

 私が未来予知をできると知ったのはたしか六歳の頃だった。
 夢見がちな少女時代だったから、その延長線とも考えた。
 た

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MY BABY ―ショートショート―

「子ども、できたの」

 とキミは笑った。

 ぼくは笑った。

 ひっしに、笑った。

 ――あの「一回」は、大丈夫な日だった。

 もちろん、「絶対」なんてないってわかってる。

 でも、誰かが真後ろに立っているような、そんな奇妙な胸騒ぎがしたんだ。

 生まれた子どもは、ぼくではない何者かになっていく。

 ぼくとはまた別の“だれか”に似るように。

 ぼくはこの子を愛さなければならない。

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