天地人〜天の刻 地の美 人の情

旅先で忘れられないのは、その地の名勝だけでなく、その景観と共にある空の模様だ。
雲一つない快晴の時もあれば、生憎の曇天、荒天の時もある。
しかし、どの天気も、その旅の景観と相俟って、強く記憶に残っている。
また、荒天の時ほど、記憶に残る旅となっているのだから不思議だ。
考えて見ると、至上の風景とは三者三様であり、それぞれの記憶が作り出すものである。
その時の空模様、観る人の心模様も加わり、各々の記憶に最高の風景が残る。
自分の場合、高校時代に学校をさぼり、オートバイでふらふらと遠出した時の事だった。
ちょっとした小旅行を終え、帰り道、ヘルメット越しに見た夕焼けが今でも忘れられない。
人によっては何気ない夕焼けであっただろう。だが、思春期特有の虚無感、焦燥感に取り憑かれていた自分にとって、あの夕焼けは一つの救いであった。
今でも忘れることの出来ない風景だ。

人の世に熱あれ、人間(じんかん)に光りあれ。