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魔法使いの弟子たち

『魔法使いの弟子たち』井上夢人 2013年4月刊 講談社

江戸川乱歩賞の受賞歴もある井上夢人の小説です。

ミステリ小説の一種と読み始めたのですが、SFでもあり、アクションでもあり、ファンタジーともいえる何とも形容しがたい内容の物語でした。

物語は山梨県内で発生した新興の感染症の拡大、パンデミックに出版社のライターでもある主人公が巻き込まれ、感染するところより始まります。

その新型ウイルス感染した場合委、致死率は100%に近く、数十日のうちに、数百人があっという間になくなるほどの猛威をふるい、生存者は主人公を含む、3名のみでした。

10年前に発表された発表された作品で、今回のパンデミックを予見するような内容にもみえますが、それだけでは終わりません。

本作品のクライマックスはパンデミックが収束し、世間が落ち着きを取り戻し、主人公を含む3名の生存者が病床から離れてよりスタートします。

生存者の3名、全員が感染したウイルスによる後遺症を抱えることになるのですが、その後遺症が常識では考えられない、ある種の超能力ともいえる超常現象を引き起こしてゆくのです。

無責任はマスコミや行政はフィクションの中でも何ら変わることなく、感染症からのサバイバーである主人公たちを無責任に追い回し、追い詰めていきます。

今回のコロナ騒動でも視聴率を稼がんがため、いたずらに恐怖心を煽るマスコミの在り方と保身を第一とし、右に倣えの対応がほとんどであった多くの行政の動きには呆れましたが、それは本書の中でも同様でした。

本書、パンデミックを描いた小説というよりも、パンデミック後の世界を描いた作品といってよいのかもしれません。

そのうえでも、非常に示唆的な物語でもありました。

また、本書のタイトルでもある魔法使いの弟子といえば、魔法使いの弟子に扮するミッキーマウスが主人公のディズニーアニメ「ファンタジア」が思い出されますが、その「ファンタジア」に負けず劣らずのハラハラドキドキのエンターテイメント作品ともなっております。

なお、全くの私見ですが、今回のコロナ騒動以上に深刻な未来や事件が刻々と迫ってきている予感を最近、抱いています。

杞憂に終われば、本当によいのですが、戦争、変乱、災害、テロ、思いもよらない突発出来事がここ数年の間に身近に起こると仮定し、生きてゆこうと考えています。

そして、そんな時、大切なのは冷徹に事実を受け止める知性と最悪を想定できる想像力ではないでしょうか。(勿論、行動力も必要ですが)

また、優れたフィクション、SF小説は時に未来を予見します。

最悪を想定する想像力を楽しみながら養うのに読書は最高のツールではないでしょうか(笑)

著者の小説は今回、初めて読んだのですが機会があれば、他の作品も読んでみようと思いました。

大友克洋「AKIRA」や筒井康隆の「七瀬シリーズ」等が、好きな方には特におすすめです。


『恐怖は胸にしまい、勇気はみんなと共有しろ』スティーブンソン(作家)





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