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30日間、食べることやめてみました

『30日間、食べることやめてみました』榎木孝明 マキノ出版 平成27年10月刊

俳優、榎木孝明の30日間の不食の記録を記したのが本書です。

不食というのは、その名の字のごとく「食べない」ということであり、30日間の間、食事を摂らず、いつもと変わらず、俳優業を続ける著者の姿がそこにはありました。

また、著者のいう不食とはダイエットや健康美容のためにおこなう断食や絶食とは異なり、なんらかの事情から我慢するのではなく、我慢とは無縁の行為であるとも述べていました。

なお、著者は普段から、小食であったり、ベジタリアンであったりするわけではありません。

この挑戦を始める前には、体重も80キロあり、TVの食レポの仕事を受けたりと、我々、一般の食生活と大きく変わったものではありませんでした。

しかし、長年の役者生活の中から、役作りのため、数日から2週間にわたる減量経験は何度からあったようで、その時の経験から、出来るのではなかろうかということで、本書のチャレンジを決めたとのことでした。

今回の試みを実行する上で、公正を期するためにも、病院の一室に寝泊まりし、定点カメラを設置し、普段の日常もカメラで追ってもらうこととしたそうです(本書の付録DVDによって、その映像を確認することも可能です)

また、医師の立ち合いのもと、定期的に血圧や血糖値の測定も行い、そのデータも本書には記載されていました。

本書を読み終え、好感をが持てたのが、著者の姿に全く悲壮感がなく、極めて溌剌と日常を過ごし、普段の役者としての仕事をこなしていたことでした。

他にも、ロケ先にて風景のスケッチを描いたり、長年、嗜んでいる古武術の稽古に励んだりと、とてもエネルギッシュなのです。

著者は今回の試みを常識への挑戦、人間の持つ無限の可能性を探す旅とも語っておりました。

「常識とは時代によって変わるもの」「無限の可能性を目覚めさせるためにも、常識にチャレンジし、堅固な常識なるものにヒビをいれさせることができれば・・・」と。

なお、著者は食べることを否定しているわけではありません。

食べる幸せ、食べない幸せがあるとし、実際に30日間の挑戦が終了すると、すぐにイタリア料理を楽しみ、その後も家族と一緒に食事をとっているそうです。

ただ、私は今回の著者がこの挑戦を通して、役者ならではの独自のやり方でこの飽食の時代に対する危機感を投げかけているように感じました。

それは俳優、榎木孝明が「不食」という舞台を自らで演じ、何らかのメッセージを投げかけているかのようでもありました。

「人は食べなくても生きられる。それがわかれば、少なくとも、食べなければ死んでしまうという常識を妄信しているときより、多様な発想ができるようになるだろう」とも語っています。

私が著者の存在を知ったのは、西郷隆盛と生涯を共にした、人斬り半次郎こと桐野利秋を主役にした映画『半次郎』の制作に著者が先陣をきって、あたっているときのことでした。(リーマンショックの頃で資金にも苦しみ、制作を一時、諦めかけたこともあったそうですが、著者の出身でもある鹿児島の地元の人々や薩摩藩士の子孫の方からの支援もあり、無事、完成に辿り着いたことは後ほど知りました)

著者が有名な俳優であることを自分は知らなかったのですが、直接、この桐野利秋という人物に対する熱い思いをきく機会があり、胸をうたれたのを今でも思い出します。(後に映画「天と地と」の主役や名立たるドラマに出演する名優であることを知りました)

そんな縁でたまたま手にとった本書でしたが、著者が惚れこんだ人斬り半次郎(桐野利秋)の持っていた武士道の一端を感ずる勇気の書でもありました。

常識にヒビをいれてみたい方、本書、おすすめとなります!


「食わなば健康 食えねば餓死」 野口晴哉











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