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「WORLD WAR Z」

「WORLD WAR Z」 マックス・ブルックス 

本書、今世紀、中国より発生し、パンデミックを引き起こしたウイルスと人類との戦いが記されたレポートとなっております。

勿論、フィクションですが、各国のパンデミックを生き延びた人々のもとを国連職員と思わしき主人公が訪ね、証言を集めてゆくといった一種の回想録の形式をとり、レポートは進んでゆくのです。

生存者たちのその証言の内容はどれも痛ましいものばかりでした。

各国の有する政治的、経済的背景をもとに、様々な年代、階層の生存者たちがパンデミックの状況を語っており、非常に現実的で生々しくもあり、ちょっとした近現代史の勉強にもなりそうでした。

勿論、我が国、日本の生存者の証言もあります。

1人はコンピュターオタクの青年ともう一人は、かつて長崎で被爆を体験した老人の証言でした。

この二人は偶々、出会い、世界大戦Zとも呼ばれるパンデミックを生き延び、後に「盾の会」と呼ばれる団体を組織し、世界中から注目を浴びることとなります。

「盾の会」といえば、故三島由紀夫が組織した民間防衛団体が思い起こされますが、物語の中では、この盾の会、自衛隊内の独立部門として承認されており、感慨深いものがありました。

こういったディティールにこだわった描写が日本だけでなく、中国、インド、イスラエル、ヨーロッパ諸国やアメリカ各州のサバイバーたちの証言にも盛り込まれており、各国の文化と歴史を下敷きに語られているので、フィクションであるはずなのに、異常なリアリティを放ち、ページをめくる手が止まりませんでした。

人類はこの疫病との戦いに勝利したところから物語は始まるのですが、その傷跡は世界中のあらゆるところに残り、現在のコロナ騒動の比ではありませんでした。

なぜならば、このウイルスに罹患すると完治はほぼ、不可能で、また、その感染者の肉体を消滅させなければ、感染は拡大する一方だったからです。

世界中のいたるところで始まった感染者と非感染者の殺し合いが、ゾンビ戦争とも呼称された「WORLD WAR Z(世界大戦Z)」だったのです。

しかし、恐ろしく悲惨な戦闘、戦争の中で哀しくも輝くのが、人の持つ強さであり、優しさであり、美しさでした。

中でもネルソン・マンデラより、人類の生き残りをかけたプラン立案を託された南アフリカのポール・レデカー氏のエピソードや「デリーの虎」と呼ばれた老将軍の最期の姿を伝える一兵卒の証言は淚なしには読めませんでした。

ちなみに、2013年に同名の映画がブラッド・ピット主演で劇場公開されておりますが、こちらは本書の内容とは全くの別もので、本書に記されていた人々の証言や記録などは一切なく、所謂、大作ハリウッド映画と呼ばれるものでした。

本書を読み終え、改めて、極限状態に置かれた際に放つ、人の崇高さや気高さに感じ入りましたが、反面、平穏時の人の愚昧さや醜さに思う所が多く残りました。

本書のパンデミックと現在のコロナ騒動を比較するのもなんですが、現在の状況を鑑みるに、人命尊重をヒステリックに掲げる平穏時の愚昧さが大いに現れている気がしてなりません。

より大きな危機、非常事態が訪れた際には、一体どうなるというのでしょう。

平時より危機感をもち、常に備えていきたいと考えています。

そのうえで、本書、フィクションではありますが、危機意識の醸成手段として、一読に値すると思います。


「私は学んだ。勇気とは恐怖心の欠落ではなく、それに打ち勝つところにあるのだと。勇者とは怖れを知らない人間ではなく、怖れを克服する人間のことなのだ。」  ネルソン・マンデラ












そのほかに印象に残った生存者の証言は


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