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氷菓

生涯最高のアイスキャンディーは沖縄の離島で食べたものだった。
20代の時分、バックパックに一人用のテントを詰め込み、日本中を野宿して回った時の事だ。
西表島まで辿り着き、そこで仲良くなったお爺さんの家にしばらく泊めてもらえることとなり、久しぶりに畳の上での生活を満喫していた。
或る日、シュノーケリングで魚を追い回し、ヤシガニを捕まえるなどして、疲れ果て、昼寝をとっていた所、目覚めるとお爺さんが冷蔵庫から持ってきてくれたのが、そのアイスだった。
沖縄の離島の大半がスーパーやコンビニなどなく、食料品も島の外から届くものが多く、島でアイスは貴重品だ。
「うめーから喰ってみろ」
そう言われ、手渡されたのは少し霜のついた真っ赤なトマトだった。
おもむろに噛り付いてみると、中の果肉は程よくシャーベット状になっていて、とても甘かった。
「うめーだろ」今はもういないであろうお爺さんは言った。
本当にうまかったなあ。

人の世に熱あれ、人間(じんかん)に光りあれ。