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スターリンとヒトラーの密約という歴史の裏話。

「独ソ不可侵条約」と「秘密議定書」によるポーランド分割

以下は、1939年8月にドイツのヒトラーとソ連のスターリンの間で締結された「独ソ不可侵条約」の全文です。

ドイツ国政府およびソビエト社会主義共和国連邦政府は、ドイツおよびソ連間の平和という目的の強化を希望し、1926年4月ドイツとソ連間に締結された中立条約にもとづき、次の協定に到達した。
第1条
両締約国は相互に単独または他国と連合して、いかなる暴力行為、いかなる侵略的行動または攻撃をも加えない義務を有する。
第2条
締約国の一方が第3国による交戦行動の目標となった場合には、他の一方はいかなる方法によってもその第3国に援助を与えない。
第3条
両締約国の政府は、共通の利害に影響を及ぼす問題で情報を交換するため、将来、協議の目的で相互に絶えず連絡をとる。
第4条
両締約国は、どちらも、直接または間接に他の一方に矛先を向けた強国グループには参加しない。
第5条
締約国のあいだで各種の問題について紛争や衝突が起きた場合、双方は、友好的な意見の交換を通じて、あるいは調停委員会の設置を通じて、これらの紛争や衝突を解決する。
第6条
本条約は、10ヵ年を期間として締結する。ただしこの期間終了の1年前、締約国の一方が廃棄通告をおこなわない限り、この条約の有効期間は自動的にさらに5年間延長される。
第7条
本条約はできる限り速やかに批准される。批准書はベルリンで交換する。合意は調印とともに実施される。



次は、問題の「秘密議定書」の全文です。

独ソ不可侵条約の調印の機会に、署名した両国の全権委員は、極秘で東ヨーロッパにおけるそれぞれの勢力圏の境界の問題について協議した。
この結果、次のような結論に到達した。
(1)
バルト諸国に属する地域(フィンランド、エストニア、ラトビア、リトアニア)の領土的、政治的再配列の場合は、リトアニアの北部境界をドイツとソ連の勢力圏の境界とする。これに関し、ヴィルナ地域におけるリトアニアの権益は双方で認める。
(2)
ポーランド国に属する地域の領土的、政治的再配列の場合は、ドイツとソ連の勢力圏は、ナレフ、ヴィスツラ、サンの各河川をおおよその境界とする。ポーランドの独立維持が望ましいかどうか、こうした国家がどういう境界をもつべきかの問題は、今後の政治的発展の過程でのみ最終的に決定されることができる。どんな場合でも、両国政府は、この問題を友好的な協定によって決定する。
(3)
南東ヨーロッパについては、ソ連側から、ベッサラビアにおけるソ連の権益について注意が喚起された。ドイツは、これらの地域については、政治的に完全に無関心であることを表明した。
(4)
この議定書は双方が極秘として取り扱う。



この秘密議定書は、驚くべき内容のものでした。
名前を列挙された国々は、それぞれさまざまな歴史を持っているものの、いずれも第1次世界大戦後のヨーロッパで独立主権国家として認められ、ドイツもソ連も、あれこれの条約を結ぶなど、独立国としての付き合いをしてきた国々です。

その国々を、二つの大国が、どちらの勢力圏に取り込むかについて、当のその国の政府や国民の意思を無視して極秘の取り決めをしたのですから、帝国主義、覇権主義の横暴はここに極まった、と言わなければなりません。
その後の実際の経過を見ても、ドイツによるポーランド西部の併合とソ連によるフィンランドの一部領土の割譲は、侵略戦争によって獲得したものですが、ポーランドの東部、バルト3国、ルーマニア領ベッサラビアのソ連による併合は、公然たる戦争ではなく、独ソの合意を背景にした外交的・軍事的圧力によって獲得したものでした。

ドイツは、独ソ不可侵条約の調印から9日後の9月1日早朝、宣戦の予告もなしにポーランド攻撃を開始しました。9月3日、イギリスとフランスは、ポーランドに対する保障義務をまもって参戦、第2次世界大戦が現実のものとなりました。そのなかで、独ソ間で結んだポーランドを東西に分割する条項を実施する局面が始まりました。

ドイツ軍は西からポーランド軍を撃破して瞬く間に西部を侵略します。
ソ連軍が、ポーランド国内に在住するウクライナ人やベルロシア人を守るという名目でポーランド東部に侵入したのは、9月28日のことでした。こうしてスターリンは、ポーランド分割という秘密議定書の取り決めを実行に移し、待望のポーランド東部を手に入れたのです。

1939年の条約をめぐる重要な資料に、独ソ交渉の経過を記録したドイツ側の外交文書集があります。戦後、アメリカがドイツの一部を占領した時に手に入れ、冷戦の始まりの時期に、ソ連はナチスとこんな取引をしていたんだぞということで、公表したのです。

日本語訳の「大戦の秘録」(読売新聞社)があります。
このなかには、40年11月にヒトラーが世界再分割の新条約をソ連に提案した話まで詳しく出ています。
結局ドイツは突如「独ソ不可侵条約」を破棄し、ソ連は防衛のために「日ソ不可侵条約」を締結してドイツと全面戦争に突入、ヒトラーが死んで日本の敗戦色が濃くなるとソ連は突如「日ソ不可侵条約」を破棄して…。
今もなお世界中には恐ろしい話がいっぱい転がっています。

今回のウクライナ侵攻の裏側にも、どんな恐ろしい裏話が潜んでいるやもしれません。
我が国もノホホンとはしていられません。
クワバラクワバラ…。

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