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ヒュッゲな空間と光の関係 ーサードエイジ の生活を考える会 第1回ー

「サードエイジの生活を考える会」は、「自分はどう暮らしたいか?」を一緒に考え、住む前から顔見知りになり、ゆるくつながるコミュニティのある暮らしをともにつくっていく、そんな少し回り道だけれど成熟した方法で住宅群を実際に建てることを目的とした勉強会です。
第一回勉強会は、「ヒュッゲな空間と光の関係」。北欧照明メーカーの旗手、ルイスポールセンのショールームで学びました。
(2019年11月7日収録)
記事、写真の無断転用を禁じます

齋藤光代「サードエイジの生活を考える会」は私、一級建築士事務所 PLANの齋藤光代が、90年代にデンマークで立ち上げた勉強会です。デンマークで複数手がけてきたのは、「自分はどう暮らしたいか?」を勉強会を通じて一緒に考え、住む前から顔見知りになり、ゆるくつながるコミュニティのある暮らしをともにつくっていく、そんな少し回り道だけれど成熟した方法による住宅群です。
現在軽井沢に計画中の「クルーア軽井沢」も、この勉強会を通して、皆さんとともに学び、つくっていきたいと考えています。

サードエイジとは、子育てや就労が終わり、個人的な達成や実現のできる人生の充実期を指します。
「クルーア軽井沢」は、そんなサードエイジを通して、やがて迎える人生の最終期、フォースエイジを安心して迎えられるような、コミュニティのある住宅を目指しています。12戸のテラスハウス(長屋)と、共有で使うコモンハウスからなる住宅群です。

この勉強会にご参加いただき、住む、住まないにかかわらず「クルーア軽井沢」を通して暮らしを考えるプレーヤーになっていただけたらうれしいです。

第一回は、照明について学びます。

デンマークで照明が大切にされる理由

齋藤 1874年にデンマークで創業した北欧照明メーカーの旗手「ルイスポールセン」は、その美しいランプのデザインだけではなく、人々が心地よいと感じる雰囲気を生みだす光をかたちづくってきました。

今日は、そんなルイスポールセンのショールームで、実際に光を感じながら
「空間と光の関係」を考えていきたいと思います。

タイトルにあるhygge/ヒュッゲは「居心地のいい」という意味で、英語でいうとcozy/コージーに当たります。デンマークでは最上級の褒め言葉で、お客さんが「今日はヒュッゲな晩だったわね」と言うと、居心地のいい雰囲気で、堅苦しくなくアンフォーマルな感じだったということです。

そういった居心地のいいライフスタイル、空間をつくりたいというのがデンマークの人たちの最高の願いです。日本の皆さんでもそう願うのではないでしょうか?

それでは、ルイスポールセンの荒谷(あらたに)真司さんに「ヒュッゲな空間と光の関係」についてお話をうかがいます。

荒谷真司 「ヒュッゲ」がどういう感覚かというと、難しいことではなく単純に友達や家族と家でビールを飲んで気持ちいい、というようなことです。この「ヒュッゲ」はデンマークでは住宅を考える上で基本にされています。

日本では、新築でも引越しでも照明は一番最後になります。家具やカーテンが先になり、日本では特に地位が低い。デンマークでは照明は一番に考えられるもので、光がないと始まらないともいえます。

照明が大切にされるひとつの理由として、緯度の高さがあります。この地理的な特徴により、独特の照明文化が発展してきました。
東京であればほぼ真上から太陽が照らすのに対し、デンマークのコペンハーゲンではいつも斜めにしか光が入ってきません。1、2月は気が狂うくらい彩度のない白黒の世界です。色がない世界。
建物がカラフルなのも、まちに暖かさや彩度を足すための、公共のものとしての色彩です。

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真夏には夜の10時半頃まで薄明が続き、ブルーとピンクが混ざった光で空が染まります。この空の色にオレンジ色のライトが素敵に見えるんですね。

また、外にも室内にもキャンドルをすごく使います。暗くなるとキャンドルを足したり、置き場所を移動したりします。夏の朝でもつける。これはカーテンを開けるのと同じ感覚なんですね。デンマークではカーテンはほとんど使いません。

ソファで本を読むための照明、部屋の角を照らして空間の大きさを把握するための照明など、複数の照明を組み合わせるのも特徴です。
部屋のコーナーに照明があるのがミソで、対角線上に置き空間のエッジを照らすことで奥行きを出す効果があります。
天井に大光量のシーリングをつけることは絶対にありません。ダウンライトもあまり好みませんね。
白い天井が光を反射しますが、天井素材にはすごく気を遣います。フラットで艶のないペンキを塗る。マットだと光の反射が綺麗なんです。漆喰と同じですね。これによりヒュッゲな空間になります。

生活をよくする「光」のデザイン

荒谷 一番悪いのは眩しい光で、これを「グレア」と言います。このグレアをデザインで取り除き、良い光を世界に広めようとしたのが、ルイスポールセンの照明を多く手がけたポール・ヘニングセン(建築家・照明デザイナー、1894-1967年)です。
ヘニングセンは、ランプをデザインするというよりも良い光で生活を向上させようとしました。

では、実際にグレアをお見せします。

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眩しいですよね。直接目に当たらなくても、視野の一部にグレアがあることで見たいものが見えにくくなります。

グレアを除去して、光をロスなく広げることが重要で、眩しく見せない方法として、反射板を用いて段階的に光量を落としていくというのがあります。
こちらのランプ(下の写真)のように、グラデーションをつけて単一的な明るさを出さないのが心地いい空間をつくる一つの技です。

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1926年に、ヘニングセンにより「PHランプ」と呼ばれる3枚シェードランプが完成しました。専門的にいうと、シェードの角度が対数螺旋になっていて、これは自然界にもある構造です。

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斜めに光が入ることで、光が反射して下に滑り落ち、どこに当たっても37度に光が射すデザインです。裸電球よりも、シェードをつけると照らす方向の明るさが増すのです。
さまざまなデザイナーや建築家がルイスポールセンの照明をデザインしていますが、「光を合理的に操作して、照明器具として機能的なデザインにする」というのは、ルイスポールセンのデザインポリシーのひとつでもあります。

“良い照明をつくる”8カ条

荒谷 ここからは、みなさんに良い照明のヒントをお伝えします。

ヒント1 配光を考える

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照明器具からどちらの方向に向かい光が出ているか、光の発せられる方向を配光といいます。

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室内に入るとき、人間の目はだいたい壁(水平)方向を見ています。ですので、壁と天井を明るくすると、空間を明るく感じます。逆に、暗いと感じるのは、壁と天井にほどよい光が当たってないことが多いです。
空間の心地よい明るさが、ヒュッゲな感じをつくります。


ヒント2 部分照明と全体照明を分けて考える

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食事をしたり、作業をするところに集中的な光を入れるのが部分照明、空間の広がりを得るためには全体照明を用います。
全体照明には、光が透過する乳白ガラスなどが使われます。一番の要点は「天井がほんのり照らされている」こと。壁面に照明を取り付けるのも有効です。

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ヒント3 テーブル用のペンダントは低く 卓上60センチに

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テーブル用のペンダントライトは、低くする方がいい雰囲気になります。日本の照明は位置が高い。理想的には、テーブル面から55〜60cmがいいです。高すぎると、単なる飾りになってしまいかねません。

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光が必要なところに集中的に当てるのがポイントです。また、人に近いところにランプがあると親密感が生まれます。


ヒント4  スポットライトは人に向けない

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スポットライトを人に当てるのは絶対に駄目です。
本来、商品を照らすもので、顔に当てると目の下などに真っ暗な影が出てしまう。ダウンライトが食卓の真上にあると、心地よさが得られません。ダイニングでは絶対にやめた方がいいです。


ヒント5  間接照明には注意

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間接照明もやりすぎると良くないです。
ものの輪郭と影が消失し、ぼーっとした空間になってしまう。特に、リビングでは避けたほうがいいです。
新幹線の間接照明をイメージしていただけるとわかりやすいですが、遠近感がなくなります。眠るための寝室では使えますね。

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ヒント6 複数のランプを置き 光を使って機能的ゾーニングを

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複数の照明を使い、機能的にゾーニングするというのが一番です。
段階的に部屋の大きさをえて、シーンに合わせひとつ一つつけていくのがヒュッゲな空間になる条件です。


ヒント7 1灯だけでは良い空間は生まれない 一部屋に最低2灯必要

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1灯では空間は良くならない。最低2つは必要です。
また、調光して光量をフルにはせず、ある程度落とすことが、ヒュッゲになる条件です。

スライドで、照明と空間の関係と変化を見ていただきます。1つだけつけると空間が面白くなく、2つにすると広がり、3つにするとさらに立体的になるのがわかります。(以下、動画を参照)

K House. 写真撮影協力:カスヤアーキテクツオフィス(KAO)

ヒント8  1灯で部屋のすみずみまで明るくしてはダメ

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ダウンライトは床面、水平面を照らすものです。光が真下にきますので、水平面しか明るくなりません。
人間の目は少し上を見ます。部屋では、天井から壁。壁面を照らすことで雰囲気が良くなるのです。
1灯で部屋のすみずみまで明るくしてはいけない。これではヒュッゲにはならず、いい照明ではありません。よく日本のシーリングライトには「何畳タイプ」と書いてありますが、その考え方は日本だけです。

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結論は、「照明はエアコンではない」ということ。一番必要なのは均質に明るくすることではなく、部屋の雰囲気をよくし、心地よさをつくること。これが、北欧のヒュッゲな空間の一番の要です。

ヒュッゲな空間のある住宅群「クルーア軽井沢」

ー(司会)続いて、設計者のPLAN齋藤さんから「クルーア軽井沢」の概要とクルーアの光についてご説明をお願いします。

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齋藤 ヒュッゲな空間のある住宅群を目指して、プロジェクトを立ち上げました。場所は軽井沢の塩沢です。
新幹線の軽井沢駅から車で10分、中軽井沢から2kmくらいです。タリアセンという公園や、千住博美術館など文化的な施設が複数あり、森の中に小さな飲食店がぽつぽつと並んでいるグルメストリートにも近く、スーパーや役所、病院も1km圏内にあります。元はテニスコートがあった場所で、広さは2,700㎡です。

テラスハウスという形式で、日本風に言えば長屋です。これの何がいいかと言うと、戸建では隣との距離が狭いことがあり、猫くらいしか通れないような隙間ができ、影ができてしまいます。そういった無駄な空間を削除して、その代わりに家をつなげるわけです。壁を共有することで、経済的にも倹約になります。

もう一つの特徴は長屋の住宅に加えて、みなさんが一緒に使える共同の建物、コモンハウスをつくることです。隣が顔も分からない、挨拶もしない人よりは、みなさんが過ごし会話を交わすロビーがあった方がいいと思いました。
コモンハウスは、デンマークでは盛んに使用されていて、私がデンマークで手がけた4つの住宅群のいずれにも併設しています。

住宅群が2列に向かい合っていて、この間をみなさんが家に帰っていく小径としています。なぜこれがいいかというと、玄関やキッチンが通路を向いていて、それとない感じで外の様子がわかること。お醤油がなくなったから貸してもらうような関係が、コミュニティの形成に役に立つデザインになっています。

自然に溶け込みあたたかく照らすクルーアの光

齋藤 小径の照明は、昼間はデザインを楽しみ、夜になると帰り道を照らす光になります。

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軽井沢の夜は、星空が美しいですが少し寂しいわけですね。各家の窓からもれる光も加わることで、暖かい雰囲気が家路を照らします。

また、ここには蛍も出ます。荒谷さんのお話にもありましたが、自然を大事にして、全体を明るく照らすのではなく、部分部分を照らしていくように考えています。

クルーアの住宅群には、平屋と2階建てのタイプがあります。
平屋のタイプは斜めに天井をとっていて、これにより空間の広がりが出ます。2階建てタイプは吹き抜けがあり、上に空間が広がるとともに、1階と2階でコンタクトが取れるようにもなります。

ハイサイドライトもつけていて、どの部屋も光がいろいろな方向から入るように考えています。

Interior 1のコピー

これも先ほど荒谷さんもおっしゃってましたが、私がデンマークで建築を学んでいた際にたびたび教えられたのが、「光は一方向から差し込むだけではダメだ」ということ。
複数の方向から差し込むから美しいんだということです。これにより、ヒュッゲないい空間になります。

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一つだけの窓を見ていると心が滅入りますよね。人間は、双方向からの光を受けて暮らしていく動物なんだと思います。

人間は自然の中に暮らして、火と水との関係は人間の根源的なもので、現代でもあらゆるセレモニーに火が象徴的に使われます。

デンマークでは、薪ストーブも日常的に使っています。冬でなくてもストーブを焚いて、ロウソクを灯すのです。これには、「よくいらっしゃいました、ゆっくりしてください」というもてなしの意味があるんですね。
そういったライフスタイルが今の社会にあってもいいのではないかと思っています。

これもデンマークで教わったことですが、人間は自然の産物で、例えば森の中を歩いていたら木漏れ日だけで過ごしている、そういったバリエーションのある光にすることは健康にもいいのではないかということです。
自然や、ある種宇宙が感じられるそういったヒュッゲな建築を軽井沢で目指しています。

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写真・構成・文責 雨宮明日香

「サードエイジ の生活を考える会」次回は、11月23日(土)です。

日常の食について話し、食べることで、シェアキッチンとコモンミールについて考えます。以下リンクからお申し込みの上、ぜひご参加ください。


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