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【インタビュー】The Octopus 『Octopus Tapes』『半夏生』 リリース - 和泉雄彦

はじめに

誰も知らない天才を紹介しよう。The Octopus こと和泉雄彦は1987年生まれの宅録作家だ。Klan Aileenの結成初期から交流があり、Vo澁谷が最も影響を受けた音楽家の1人でもある。
今回Jolt! Recordingsからリリースする『Octopus Tapes』と『半夏生』は彼が2007年にギターと自作のアナログシンセでZOOMのMTRに録音した作品で、
昔からのファンは僕が事あるごとに彼の音楽を聴いて欲しいと言い続けてきたのをご存知だと思う。それがようやくきちんとした形で世に出せるのだから、レーベルを始めた甲斐があるなと思う。

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そもそも何故彼に憧れたのかを一言で言えば自分に無いセンスを持っている人間だからということになり、出会った頃にも一度彼を質問攻めにしたのだが、好きな音楽や使ってる楽器は知ることが出来ても、肝心の「どうやってこの音楽を作っているのか」については納得いく答えを貰った記憶がない。彼がそれを隠しているわけではなく、ちゃんと制作の過程を教えてくれるのだが、コード進行とメロディの関係性や、音のテクスチャーなど明らかにオリジナリティがある部分のインスピレーションがどこからやってきているのかという重要な部分は掴めなかった。
彼を紹介するという大義名分が出来たこの機会にきちんとその辺りを聞き出せたら、それ以上の紹介方法はないと思いインタビューを行った。そして結局分からなかったのだ。だから当時よりも確信を持ってただの天才だったのだと思えるのだが、伝わるのだろうか。
少なくとも2010年代初頭に日本各地から出てきたCaptured Tracksの子供達的なバンドにリアリティを感じなかったのは彼を知っていたからだと断言できる。
逆に言えばこの音楽には時代性が無いのだ。止まり、取り残され、遊び相手もいない砂場で屈託なく笑っているような、流行や文化の外側に存在する真に無邪気な音楽家の音楽であり、それはレコードレーベルが無くても、ライブハウスが無くても、CDショップが無くても、インターネットが無くてもファンがいなくても存在する。

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The Octopus / 和泉雄彦

1. 自己紹介


澁谷「和泉くんのことは誰も知らないと思うので、自己紹介も兼ねて色々聞いていこうかなと思います」
和泉「お願いします」
澁谷「まず我々は年齢が近いんだよね」
和泉「僕が一個上だよね。87年の4月14日」
澁谷「俺と2日違いだ」
和泉「タイタニックが沈んだ日ね」
澁・竹「笑」
和泉「あとは南海キャンディーズの山里亮太と一緒。
結婚したじゃん女優さんと。なんか...「やったな」って笑」
澁谷「そこだけで親近感覚えるの材料少なくない?笑」
和泉「まあ、なんかいいじゃん。同じ誕生日の人がって」
澁谷「まぁ、星座とか必然的に一緒だしね....で、和泉君も鹿児島出身と」
和泉「うん」
澁谷「家も近いんだよね。俺と和泉君の実家」
竹山「明和ね」
澁谷「2007年とか2008年頃にMySpaceで見つけて、すげぇ人いると思って「曲すごいですね」みたいなメッセージのやり取りしてるうちに、会いましょうって話になって、そのときにどこ住んでるんですかとか聞いたんだっけ?」
和泉「いや、その時はまだ聞いてなくてあの...アミュプラザ?」
澁谷「アミュプラザ笑 鹿児島の中心部的なところね。」
和泉「そこのHMVとかかな?そこに集合しようって」
澁谷「そこで待ち合わせしてその後ファミレスに行ったんだよね。いろいろお話しましょうってことで。その帰りに分かった」
和泉「そう。でも実はそこで会う前に一回バスですれ違ってたんだよ」
澁谷「俺も覚えてる」
和泉「僕が(美術部だったから)めっちゃ大きいキャンバスを天文館(これも鹿児島の中心部的なところ)で買ってそれをバスに積んで家に帰ってて、降りようとした時に亮君(であることは当時は知らない)のエフェクターケースが床にあって...邪魔だなと思って笑」
澁谷「俺だってめっちゃでかいキャンバス持ったやべえやついると思ってたんだよ笑」

和泉「そのフェミレスからの帰りに「僕昔キャンバス持ってバス乗ったことあって....」って話をしたら」
澁谷「俺その客見た事ある....って笑 じゃあ同じバス使ってるってことは家近いじゃんってなったんだよね」

澁谷「その後もちょくちょく会ったりしてはいたんだけど、そのうち我々はバンドで上京して。ただ実は和泉君も今東京に住んでるんだよね」
和泉「そうだね。就職に伴い上京して。元は実家も東京だしね」
澁谷「東京住んでても意外と会わないんだよね。こうやって会うの3年振りだし」
和泉「全然会わないよね」
澁谷「たまに今季のアニメなに見てる?っていうLINEが来るぐらいで笑」

2. 当時の制作風景と音楽的ルーツ

澁谷「辞めたわけじゃないけど、最近は音楽作ってないよね?」
和泉「今作ってないね。やっぱさ、近所迷惑ってのがあって」
澁谷「わかる」
和泉「鹿児島いたときはご近所とか考えなかったけど、なかなかね。あと今回のアルバムに収録されてる曲って昔の曲じゃん。あの頃ね....天才だった笑」
澁谷「うん笑」
和泉「天才というか、ギター触ってたらリフが出来るし、2~3時間触ってたら2~3曲出来るし。今ね、触っても何も生まれない笑」
澁谷「結局初期衝動の話になるんだな笑 俺も『Milk』作ってる時に実家に帰省するタイミングがあって、締め切りが近いから実家でもミックスしなきゃいけないっていうことがあったんだけど、やっぱり子供部屋が一番捗るんだよね笑」
和泉「あーそうなんだ」
澁谷「実家いた頃は、俺も1年に1枚10曲入りの自主盤作るくらいのやる気があったから。その時の記憶が残ってる部屋だからだと思うんだけど。」
和泉「僕何回か行ったことあるよね。めちゃくちゃタバコ吸いまくって笑」
澁谷「そうそう笑 そういうことってない?実家だと捗るみたいな」
和泉「いやーもう帰る実家が無くなっちゃったっていうのもあるし、そもそも当時も僕の部屋が無かったから」
澁谷「え、部屋無い中で作ってたの!?」
和泉「親が買い物で出かけてる隙にって感じだったから」
澁谷「笑 親いたら恥ずかしいし出来ないみたいな感じだったんだ」
和泉「そう、あと音が入るからね」
澁谷「そうだったんだ。でもエレキギターとか普通に入ってるけど録る時は居間にアンプ持ってってやるの?」
和泉「そうだね」
澁谷「マイク立てなきゃ録れないよね?」
和泉「あれはね、MTR内蔵のマイク笑」
澁谷「アンプに直接MTR立てかけるみたいな感じ!?」
和泉「そうそう笑 それとMTRのライン録音を両方合わせてる。アンプにMTR立てかけてるだけだと、たまに弾いてる途中にバタンって倒れて「終わりだ…」みたいな笑」
澁・竹「笑」
和泉「なんだけどそっちの方がシャリシャリしてて良い音なんだよね」
澁谷「あっちが好みの音なのね」
竹山「俺当時すごい覚えてることがあって、和泉君がCとかEとかコードを知らないっていう」
澁谷「あ、ギターコードを知らないっていう?」
竹山「そうそう、ギター握ったときの自分の好きな指の形でっていう笑」
和泉「そうそう」
澁谷「天才じゃん笑」
和泉「だからね、僕の曲の指の抑え方かっこいいと思う」
澁・竹「笑」
澁谷「でもコード良いよね。ルーツはクラシックギターってのは知ってて、そうなんだろうなっていう音してるよね」
竹山「うんうん」
澁谷「クラシックギターの音とかコード進行とか。おしゃれ~みたいな」
和泉「でもどうだろうね。クラシックはコードというかメロディだから、コードを勉強するってのが昔から無かった」
澁谷「遡るとクラシックギターやってたのはいつなの?」
和泉「小学3年生くらいかな?元々ピアノやってて、ピアノやりたくなくて」
澁谷「わかる。俺も同じ時期にピアノやってたから」
和泉「で、クラシックギターの人が小学校に演奏にやって来て、クラシックじゃなくフラメンコみたいなのが途中挟まれてそれがかっこいいなと思ってクラシックギター始めて、しばらくしてフラメンコギターもちょっとやり、またクラシックに戻りみたいな感じ」
澁谷「フラメンコもクラシックギターなの?」
和泉「そう。ギターは同じようなギターで、カンカンってボディを叩くからアクリル板みたいなのが貼られてて」
澁谷「昔のブルースのギタリストが弾いてるようなやつ?」
和泉「なのかな?で、フラメンコって変なリズムなんだよね。”コンパス”とかいって。」


澁谷「”コンパス”?」
和泉「なんかね、僕も忘れちゃったんだけど変なリズムで1単位が長いみたいなそんな感じだった気がする。」
澁谷「いわゆる4分音符4つで1小節みたいなルールじゃないってこと?」
和泉「そうそう。長いんだよね。」
澁谷「じゃあ本場の人はそれで一周って感じていると」
和泉「そうだと思うんだよね。で、そこらへんの真髄に達することはなく」
澁・竹「笑」
和泉「クラシックに戻った」
澁谷「でも少なからずあるのでは?そういう感覚というか意識が曲の中に落とし込まれてるという」
和泉「いや、ないと思うね」
澁・竹「笑」
和泉「なぜならフラメンコの拍みたいなのがどう違うのかがよくわからなかったから」
澁谷「そこを理解する前にクラシックに戻ったのね。でもコード感はクラシックが生きてるよね?」
和泉「かね?」
澁谷「俺は生きてると思うけどな。弾き語りの曲とか特に。和音感とか響きとか。美しい。」
和泉「ありがとうございます」
澁・竹「笑」


澁谷「ルーツの話をもっと掘り下げるといつから音楽作ってたの?」
和泉「高3とかで、会議とかにボイスレコーダーみたいなのがあったら良いなと思って」
澁谷「会議?」
和泉「なんかの会議を録音しておきたいってのがあって」
澁谷「高校3年生で?笑」
和泉「なんであれが必要だったのか覚えてないけど笑 で、親に言ったら「あるよ」ってボイスレコーダーもらって、それに”風の谷のナウシカ”のランランララって曲を僕が歌って弟が”私のオウムを返して!”っていうセリフを入れるっていうよくわかんない遊びをしてたんだよね。笑 それで録音するの楽しいってなって」
澁谷「あぁ~、一緒じゃん。」
和泉「一緒?」
澁谷「一緒というかなんか録音始まりなところが。俺もかっこいいギタリスト見て俺もこうなりたいと思ってギターを買うとかじゃなく、録音って面白いなって」
和泉「そうそう!笑 そっからNIRVANAの『WITH THE LIGHTS OUT』っていうめっちゃごっついボックスセット買ってきて、その中の”BEANS”っていう曲があって、それを真似しながら録音して」


澁谷「ボイスレコーダーに?」
和泉「そうそう。これがイケるならかっこいい曲もイケるだろうと思って」
澁谷「それまではオリジナル曲も作ったことがない?」
和泉「作ったことない」
澁谷「それで面白いと思って作ってみるかみたいな?」
和泉「そうそう」
澁谷「最初の録音はカバー?」
和泉「いやカバーじゃなくてね、いろいろと当時ナメてたとこがあって笑」
澁・竹「笑」
和泉「クラシックやってたから、ロックのギターなんてあんなの出来るに決まってんだろって笑」
澁谷「あぁ、そういう考え方になるんだ!」
和泉「全然出来ないんですけどね。基本的に上から目線だったから曲も簡単に作れるだろって作って最初に出来たのが”Certain Summer Day”っていう」
澁谷「最初からあんな曲作れんの!?やばぁ!」
和泉「あれStrokesが当時好きだったから、真似しながら作ったんだよね」
澁谷「その辺の話もちゃんとしなきゃだけど音楽の趣味ちゃんとしてたんだね」
和泉「してたのかな?」
澁谷「要は高校生でStrokes聴いてたって結構ちゃんとしてるよね。普通J-POPじゃない?」
和泉「J-POPはね、BLANKEY JET CITYがMステに出てたのを見ておお!と思って、僕じゃなくて母親がハマって笑」
澁谷「BLANKEYに?笑」
和泉「それでCD買ってもらってよく聴いてたんだけど、僕は洋楽聴くまではそんなに興味なくて、L'Arc-en-Ciel聴くぐらいで笑」
澁谷「うん」
和泉「二宮君が主演した『青の炎』っていう映画があってそれの冒頭にPink Floydの曲がかかってて、この曲どっかで聴いたことあるなって思ってたらめっちゃ良い感じのところで終わるわけよ。続き聴きたいなと思ってCD探して買ったのをきっかけに洋楽にハマった。その曲は続きがあるわけじゃなく、結局そこで終わりだったんだけど」


澁谷「最初Pink Floydなんだ?」
和泉「そうなんだけど、かといってプログレで続くわけじゃなくてそこからジャケ買いでDinosaur Jr.いってNIRVANAいって」
澁谷「はいはい」
和泉「『GUITAR BREAKERS』っていうオルタナ中心の機材とかが載ってるギター専門誌があって、それを買ったからオルタナにいったんだよね。NIRVANA、Dinosaur Jr.、Sonic Youth、Strokesとかがその流れで」
澁谷「現行のバンドも載ってたんだ」
和泉「STROKESは....修学旅行がフランスだったのよ。現地のMTVで”Reptilia”が流れててめっちゃかっこいいってなって、そういえば『GUITAR BREAKERS』にも載ってたなって思って好きになって」

澁谷「じゃあ”Certain Sumer Day”は”Reptilia”なんだ」
和泉「あれそう、平行移動していく感じとか。あれは良い感じになるのよ」
澁谷「いわゆるパワーコードとかバレーコード?」
和泉「バレーコードですらないんじゃないかな。2本くらいしか鳴らしてなくてベース付けてコード感が出るみたいな」
澁谷「なるほど。2本くらい抑えて他が開放みたいな?」
和泉「そうそう、ミュートとか開放」
澁谷「それで、ここまで話膨らませてあれなんだけどその”Certain Summer Day”がアルバムに入ってないんだよね笑」
和泉「そうなんですよ笑 あれちょっと長いんだよね」
澁谷「でもあれ良い曲だよな」
和泉「そう、あれが最初の曲なんだよ」

3. ZOOMのMTR

澁谷「俺オクトパス語る時に何から語っていいかわかんないんだよな。色々要素があって。ここまでを整理すると....曲を作って録音が楽しいなってなって....それ高校生?」
和泉「いや高3くらいから始まって”Certain Summer Day”作るのは卒業して大学入るくらいの時」
澁谷「青春が始まるわけだね」
和泉「そうだね笑 青春でもないけどね」
澁谷「MTR買った?」
和泉「買った。ボイスレコーダーじゃダメじゃん」
澁谷「多重録音出来ないからね。どこでいつ買った?」
和泉「いつだったかな.....あ、それこそ『GUITAR BREAKERS』に広告で載っててこういうのでやるんだと思って買ったんだ」
澁谷「ZOOM?」
和泉「ZOOM」
澁谷「だから今回のアルバムも全部ZOOMの音だよね」
和泉「そうだね」
澁谷「ドラムマシンの音が流行とかクソもない一周して時代の最先端になりそうもない音なんだよね笑」
竹山・和泉「笑」
和泉「全部プリセットだから笑」
澁谷「リズムマシンっぽい昔のROLANDのやつとかだったらもう少し音楽的なやつ入ってたかもしれないけど、ZOOMのこれさ笑 最初和泉くんに「これドラム抜きの音源ってない?」って聞いたもんね笑」
和泉「言われた笑 え?え?って」
竹山「笑」
澁谷「ドラム抜きのSTEMあったらもう一回ミックスするけどっていう話したんだけど無かったんだよね」
和泉「本当のこと言ったらメモリーカードはあったんだけど、読み込むリーダーがなかった」

和泉が録音に使っていたZOOMのMRS-8


澁谷「まぁ、それを抜きにしても傑作だと思うな。すごい良いアルバムだって俺はずーっと言い続けている。東京インディだなんだで2012年とか2013にギターポップバンドいっぱい出てきたじゃない。ああいうの全部くだらねぇって思いながら聴いてたのはやっぱり泉君の音楽を知ってたからだと俺は断言できる。あんなのね、足元にも及ばないよ」
和泉「”Certain Summer Day”録って、またアルバムに入ってない曲だけど”Smells Like Ammonia”っていう曲録ってそれぐらいでMySpaceに上げて」
澁谷「MySpaceってどこで知ったの。あの頃絶妙にインターネットなくて、ネットで知るっていう機会がまだなかったよね」
和泉「だよね。曲録り始めたときにYouTubeを知ってこんなのが無料で...みたいな」
澁谷「YouTubeね。4:3の画角の頃でしょ。音もモノラルだったんだよね」
和泉「モノラルだったんだ。Amazonもその時に知ってこんなの本当に家に届くのか...みたいな。YouTubeとAmazonのおかげで洋楽掘るのが深まったよね。それまではこれ本当に買っていいのかな...みたいな、お金の上限があってそんなに試聴が出来ないからドキドキしてたんだけど、YouTube見てこういう感じかと思って厳選出来るという」
澁谷「その恩恵を享受出来はじめる時期だよね。俺もWikipediaを初めて見たのがあの時期なんだけど。自分のパソコンを持ったのが2007年とかで、Wikipediaっていうのがあるっていうのを見たときに、あ!こういうのあるだろうなって思ってたわ!って思ったの。やっぱり実在したんだこういうのって思ったんだけど、YouTubeにも似たような感じを覚えた」
和泉「僕は欲しすぎる存在すぎて詐欺の香りしかしなかった。今じゃ信じられないよね」
澁谷「世界を牛耳ってるレベルだよね。」

4. バスキア

澁谷「で、俺と知り合ったのはいつだ?」
和泉「そんな時ですよね」
澁谷「いくつだったかな。俺がスーパーでバイトしてたあの頃でしょ」
和泉「山形屋でしょ?うちのお母さんが知ってた」
澁谷「俺のことを?笑」
和泉「そう。あの子はすごく良いのよ~って」
澁谷「良かった笑 俺が19歳ってことは泉君が20歳くらいの時?」
和泉「大学2年生くらい」
澁谷「じゃあMTR買ってシコシコ録音を始めて曲が溜まった頃だよね」
和泉「そう、で上げた。上げてすぐくらいだよ」
澁谷「上げてすぐなんだあれって」
和泉「うん、多分ね」
澁谷「運命感じるなぁ。アイコンの絵が良かったんだよ」
和泉「バスキアっぽいやつね」
澁谷「その頃俺はバスキアなんて知らないけど、絵が良いなと思ってページ飛んで聴いてあぁ良いなぁと思って」
和泉「あれは実は高校美術展で入選した絵で。だけど美術部の先生が結構古い感じの人で「こんなの漫画じゃん」みたいな感じで、こいつわかってねーなクソがって。だけどその先生が変わって新しく来たおじいちゃん先生が、「これバスキアだねぇ!」って感じで、この人わかってるなぁって。高校美術展だけじゃなく他の美術展に出してみって言われて、霧島の美術展に出したら新聞社賞を取った」
澁谷「俺絵画的価値全くわからなかったけど、そんな価値があったんだ笑」
和泉「だから好きな人は好きみたいな絵なんだろうね」
竹山「今どこにあるの?」
和泉「今実家で、これ邪魔なんだけどって言われてる笑」
澁・竹「笑」

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当時の美術室での制作風景。

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5. コードを知らない和泉の作曲法

澁谷「クラシックが元にあって、Dinosaur Jr.とSonic Youthが出てくるじゃない?俺MySpaceで初めて聴いた時に何を良いって思ったかっていうと、自分からめっちゃ遠い人だって思った。俺に無いものを全部持ってるみたいな。というのもSonic Youthとかを聴いたことがなかったから、泉君がやってる音楽がなんなのかがわかんなかったんだよね。なにをルーツにして元ネタがなんなのかわかんないくらい無知だったから、だけど曲は良いからすごいなと思って連絡したんだよね。なんだけど和泉君的にはさっきの「これはStrokesの真似だよ」みたいなのっていっぱいある?」
和泉「うんうん、そうだね。あると思う」
澁谷「試しにこのアルバムに入ってる曲でいうとなにがある?」
和泉「例えば1曲目の”Fossil Song”はシューゲイザーみたいなのをやってみたいっていうのがベースにあって、途中の転調のところはDinosaur Jr.っぽくて、だから90年代オルタナだよね」
澁谷「俺シューゲイザーがダメな人間で、Sonic Youthもピンとこないんだけども。和泉君PAVEMENTとかも好きじゃん?」
和泉「PAVEMENT好き」
澁谷「なんか良さを教えてくれない?何にハマったの?」
和泉「シューゲイザーは、というかマイブラはブオーンってドローンっぽくなるじゃん。あそこが好きで。高速道路とか走っててちょっと段差があるとお腹がフワっとなるあの感じがたまに来るじゃん?」
澁谷「音程変化でそんな感じあるよね」
和泉「そうそう、全体的にさ。あれが好き」
澁谷「オクトパスを語る上で絶対に外せないのが音のテクスチャ、質感なんだけど、音の質感っていうことに明らかにこだわりがあったじゃん?フェティシズム的な」
和泉「あったと思いますよ」
澁谷「そのセンスが俺に無かったからそこがでかいんだよね」
和泉「確かに。(当時のバンドの音楽を評して)ロックンロールのロールはどこいったって言ってたもんね笑」
澁谷「SNOOZERっ子だったからね笑」
和泉「僕はそれで、いや別にロールいらねえだろと思ってた笑」
澁・竹「笑」
澁谷「Dinosaur Jr.にしてもSonic YouthにしてもPAVEMENTにしてもリズムの音楽じゃなくて和音の音楽って感じがするんだよね」
和泉「あぁ。あとね、結局音なんだよね」
澁谷「和音とテクスチャーだよね」
和泉「ずっとクラシックギターやってきてたじゃない?エレキギターの何が良いってエフェクターで音が変えられるっていうところ。それを特集してる『GUITAR BREAKERS』を読んでるから音をどう変えるかが楽しみで。金が足りなかった」
澁谷「エフェクターはあればあるだけ良かった?笑」
和泉「そうそう」
澁谷「エフェクターとかで遊ぶのが好きな人なんだろうなと思ったし、それが出来るのって才能だよなとも思った。俺あんまり興味ないんだよね。最近大事だなと思ってやってるんだけど」
和泉「今34歳になって思うのは、割と世の中の音楽好きな人ってSonic Youthとか好きな人が多くない?」
澁谷「音楽好き?」
和泉「音楽好きというかサブカルな人というか。自分の趣味の方が亮君よりも普通なんじゃないかと」
澁谷「え?俺の方がマイノリティだってこと?」
和泉「そうそう笑 なんかありがちかなって」
澁谷「えー!うそー!笑」
和泉「そんなことないかな?」
澁谷「Sonic Youthハマった?」
竹山「全然!」
澁谷「全然だよね!笑」
竹山「でも確かにそういうバンドのTシャツ着てる人は多いよね」
澁谷「アイコンになりやすいんだろうね」
和泉「確かに。そうか」
澁谷「分かれるだろうね。エフェクターで遊ぶ派と遊ばない派はいると思うな」
和泉「そうだろうね」
澁谷「俺は漠然とジャックホワイトみたいな音出したいって思ってただけだから。あんまりエフェクティブな効果がないんだよね」
和泉「いやでもさ、ジャックホワイトの音って結構すごくない?出せなくない?」
澁谷「出せない。今考えると古いアンプ使って...とか色々ある」
和泉「あの変な安っぽいギターで。なにげにオクターブとかプラスして。あいつヤバイよね」
澁谷「笑 なんだけど歪み自体は現行のBIG MUFFですごいシンプルみたいな。あれを俺は録音で出来るはずだって思ってたから。俺の1万円のMTRでもイコライザーとかコンプでなんとかなるんじゃねえかと思ってやってたから。大間違いなんだけど笑 そこに情熱を注いでいたタイプ。出音に関してはあんまり注意を払ってなかった」
和泉「”Astroride”とかは逆回転させて結構凝ってるじゃん」
澁谷「あれはそれこそ和泉君と出会ったからだよ」
和泉「やっぱか。RADIOHEADだよね」
澁谷「あれRADIOHEADなんだ」
和泉「逆回転させるっていう発想がかな」
澁谷「”Astroride”は元ネタを言うと逆再生すると別の曲になるのよ」
和泉「そうなの?そうだっけ!?」
澁谷「俺がすっごい適当に作った曲があって、それを逆再生したら曲に聞こえたから曲に起こしたって感じ」
和泉「あの頃は亮君の作る曲はいまいちピンと来てなかったけど、”Astroride”はマジこの曲良いなと思ってて」
澁谷「出会ってから変わったのよ。その前はただロックンロールやりたいんじゃーい!みたいな感じだった。そうだ、あと「和泉くんはジョンレノンだよね」って話をしたよね」
和泉「あれめっちゃ嬉しかったわ」
澁谷「俺が明らかにポールマッカートニー派というか。そういう曲しか作れないからすごい憧れた。自覚なし?ビートルズハマんなかった人?」
和泉「いや、ビートルズは...好きですよ笑 そんな詳しくないけど”Strawberry Fields Forever”が好きです。大体好きな曲はジョンレノンの曲だと思う」

澁谷「自分のメロディとかコード感とかに一番影響与えたのって誰だと思う?」
和泉「それがね、わかんないんだよね笑」
澁谷「わかんないんだ。でも”Certain Summer Day”を最初に作ってその頃からブレてないから」
和泉「大体僕はリフから作るから」
澁谷「それが偉いと思う。それが2012年のインディポップ勢とは一線を画すとこだと思う笑」
和泉「そういう人は何から作るの?」
澁谷「ただコード弾いてキラキラした歌歌ってただけじゃん」
和泉「そうか。コードから始まる曲もあるけどね。”Hello Mr. Sunshine”とかあるけど、基本リフの方がすぐ作れるから。メロディーに関してはそれに乗せてって感じだから無いけど、ジョンレノンは好きです」
澁谷「でも常に一発でメロディーが出来るワケではないでしょ?弾きながら練り続けるみたいなことはするんだよね?」
和泉「うーん、でもあの時はすぐ出来た」
澁谷「え、そうなの!?一筆書きで出来るってこと!?」
和泉「出来た出来た」
澁谷「やばぁ笑」
和泉「その時はメロディーとか作るの苦じゃなくて、リフが出来たらもう出来るみたいな」
澁谷「”Hello Mr. Sunshine”とかも?」
和泉「そう。あれはなんであんな曲を作ろうと思ったのかな」
澁谷「”11.2km/s”とかは?」
和泉「あれはコード。あれ最初は抑え方がかっこいいコード始まりで」
澁・竹「笑」
和泉「あれ変な抑え方のコードばっかなの」
澁谷「当時コピーしたいと思ってコード教えてもらったんだけど全然抑えられなくて諦めたんだよね」
和泉「そうだ、あれは一回作っといて置いといて半分忘れたくらいの時に作るといい感じに出来るっていうやつ」
澁谷「寝かせると、「昔の俺こんな良い曲作ってたんだ」みたいなのあるよね」
和泉「そうそう」
澁谷「にしても一発でメロディーが出来るのやばいな.....Aメロ→Bメロ→サビみたいな展開あるじゃん。そこにコードチェンジがあって転調があってってするわけじゃん。それも一発で出来たの?」
和泉「うーん」
澁谷「例えば、メロディーが無い段階でコードを弾いててここでBメロに行こうっていうのってどうやって作ってるの?歌いながら?」
和泉「歌いながら作ってないね。かっこいい抑え方をずっと探してて」
澁・竹「笑」
和泉「指の形がZみたいな抑え方だったとしたら」
澁谷「なんだって!?笑」
和泉「次は今度指の形をNにしてみようとか」
澁・竹「笑」
和泉「それでパーツを作っといて、ここで挟みたいと思ったときにそのかっこいい抑え方を持ってきて「ああ良い感じ」っていう笑」
澁・竹「笑」
和泉「ちゃんと頭使って展開してるやつは「一個押したらいいかな」みたいな感じでやってるから」
澁谷「いや意味がわからん笑 かっこいい抑え方をとにかくやってたってこと?笑」
和泉「そうそう」
澁谷「だけど音楽的に変じゃない展開するじゃん」
和泉「そう。だからそこは努力して時間をかけて違和感ないようにしていった結果」
澁谷「じゃあ作る時はただひたすらかっこいいコードを繋いでいくってこと?笑」
和泉「そうそう」
澁谷「しかもそのかっこいいが響きじゃなくて抑え方という」
和泉「いやもちろん抑え方プラス響きも良いやつ。かっこいい抑え方はかっこいい音になるのよ」
澁・竹「笑」
和泉「ギターで完成させてメロディー乗せるみたいな。メロディーはすぐ乗るって感じ。時間をかけて違和感なくしていくからメロディーはその時に出来てるんじゃない?」
澁谷「下準備に時間かけて本番はパッと終わるみたいな?」
和泉「時間っていっても1~2時間とか」
澁谷「ワケわかんねえなぁ~笑」
和泉「そこはロマンだと思ってて、僕はコードを知らないじゃん。コードを知ってる人っていうのはこういう音出したいっていうのをパーンと抑えられて、でもそれは夢がないっていう笑」
澁・竹「笑」
和泉「かっこいい抑え方してかっこいい音が出て、適当にまたかっこいい抑え方したらそれが繋がったみたいな、そこにロマンを感じる。ロマンがあるから良い曲が出来たっていうことかもしれないね」

6. ライブでのThe Octopus


澁谷「あとなんかあるっけ?オクトパスについて話しておきたいこと」
和泉「なんだろう...」
澁谷「もっと大前提みたいな部分を忘れてる気がするんだけど」
竹山「もう活動はしてないの?」
和泉「今はもうしてないねぇ」
竹山「ライブって1回だけ?」
和泉「ライブ結構ね、4回くらいしたよ」
澁谷「鹿児島時代もやったんだっけ?」
和泉「1回だけやった」
澁谷「あれってなにでやったの?弾き語りじゃないよね?」
和泉「違う違う、バンドで。3ピースで。ライブするときはずっと3ピースかな...ひどかった」
澁・竹「笑」
竹山「まっちゃん鹿児島時代見てたの?」
澁谷「いや見てない」
和泉「なんかねライブを録画したDVDを亮君ちに持っていって一緒に見たときに、(澁谷が)あぁ...みたいな笑 これは腑に落ちてないなって感じだった笑」
澁谷「「僕のここが良くない」とか「恥ずかしい」とか言ってて笑 和泉君って天才なんだけどあんまり自分に自信ないのよね笑 「亮君が良いって言うなら良いって思えてきた」みたいなこと言うし笑 謎なんだよな~」
和泉「特にライブとかはねぇ...」
澁谷「俺オクトパスのライブにはね、全然興味ないんで笑」
和泉「そう、ライブは僕も全然見てほしくない」
竹山「なんでやろうと思ったの?」
和泉「なんかさ、やんないといけないもんだと思ったんだよ」
澁谷「そうだよね、その同調圧力あるよね」
和泉「東京来てからやったのは認知度みたいな、ライブして広げるしかないって」
竹山「あ、一応広げたいとは思ってたんだ?笑」
和泉「思ってた思ってた笑 なんなら就職はせずにみたいな」

7. 『半夏生』とバンド名の由来について

竹山「『半夏生』はいつ作ったの?」

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アンビエントワークス『半夏生』は単体での販売はしておらず『Octopus Tapes』の特典として付いてくる


和泉「『半夏生』ね。1曲目は大学生の頃で、あれは当時NHKでやってた30秒のミニミニ映像コンテストっていうのがあって、それに栗山千明がゲストで出るのよ。それに出たいと思って」
澁・竹山「笑」
和泉「栗山千明を生で見てみたいと思って」
澁谷「動機がもう天才じゃん」
和泉「それも映像大賞の本質を全く無視していて、曲が良ければ賞取れるって思ってて」
澁谷「映像も作んなきゃいけないってこと?」
和泉「うん。むしろ曲なんて付けなくてもいいんだけど笑、曲が良ければ採用されるだろうと思ってて、映像は高校の同級生で撮るのが好きな人がいたからその人に僕が絵描いてるところを後ろから撮ってもらって、早送りしたような映像に”銀星石”(『半夏生』の1曲目)を付けて送ってうんともすんとも返事は来なかったよ」
澁・竹「笑」
和泉「あの曲良いよね~」
澁谷「あ、そうなの?笑 そんなに自信作なんだ笑」
和泉「うんうん、映像なしで曲で賞取れると思ってたわけだから。どっかで使いたいなと思って忘れてて。2曲目も映像用の曲かな。それを亮君にエディットしてもらいつつ。他の曲の後ろで流れてるホワーンとかいうやつを切り取って足したりとかしてたよね」
澁谷「そうそう。オクトパスの曲ってなにかしらノイズっぽいのが乗っかってることが多いから素材はいっぱいあって、和泉君から「これ何かで使いたいと思ってたノイズなんだけど...」って送られてきたから笑」
竹山「笑」
和泉「そうそう笑」
澁谷「「いつか使おうと思ってるノイズ」を貯めてる人なんだよ」
和泉「それこそ3曲目なんかは、ノイズの練習がてら作った曲で」
澁谷「エフェクター遊びの過程みたいな」
和泉「そうそう。あれも良く出来てるのよ。ワーミーをディレイ使って発信させてトゥルトゥルトゥルトゥルみたいな、ワーミーの方をいじってトゥーみたいな。なんて言うんですかねぇ...」
澁・竹「笑」
和泉「なんて説明したら良いのかわからないけれども”通学路”のトゥルトゥルは誰も出せないと思う」
澁谷「あ、そうなの?アイディアが詰まってると?」
和泉「そうだね。そこまでして出そうとも思わないのかもしれない。あとは『大人の科学』に付いてきたシンセサイザーとかを多用したよ」
澁谷「天才ってああいうの好きだよね笑」
和泉「天才だから好きなわけじゃないよ笑 でもジョニー・グリーンウッドも確かあれ持ってた」
澁谷「やっぱあの系統の人だよね。遊ぶのが好きな人なんだろうな。実験精神があるというか、好奇心で何かをやれる人なんだよな」
和泉「それが今やもう失われつつあるんだろうね笑」
澁・竹「笑」
和泉「『半夏生』は何より、ジャケットが良いよね。蛸唐草の」
澁谷「Jolt!初の2色刷りで」
竹山「蛸唐草っていうんだあの柄」
和泉「そう」

澁谷「最後にバンド名の由来とか聞いとく?」
和泉「タコね笑 僕のおじいちゃんが小さい頃に僕がタコ踊りをすると喜んでくれたっていう」
澁谷「それでタコが好きだったの?」
和泉「そう、タコが好きだった。タコって頭いいじゃん。」
澁・竹「へぇ~」
和泉「...だから好き笑」
澁・竹「笑」

画像6

カセット、デジタル音源は上記bandcamp内で販売中です。


最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回のインタビューの模様は「第61回 Klan Aileen Radio - インタビュー回 / ゲスト和泉雄彦 (The Octopus)」を文字起こししたものです。
本文中度々出てきた"Certain Summer Day"と"Smells Like Ammonia"の2曲もラジオ内の特典として公開中しております。

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