#8 父親が再婚した話
私の両親は離婚している。
私が24歳の頃だ。
理由は父の浮気。私が高校生の頃からだという。
母は気付きながらも我慢して我慢して、ついに病気になって、父を追い出した。
私が社会人2年目になろうとする冬の終わりだった。
その時の青天の霹靂具合は言わずもがな。
なんせ我が家、仲良し家族だったのだ。
少なくとも表面上は。
私はパパっ子であり、仲の良い両親のことが大好きだった。
そんなこんなで泥沼の離婚騒動となり、父は家を出て、弟はまだ大学生だったので私が仕送りをして、母を扶養に入れた。
ちょうど私は7年付き合った彼に突然別れを告げられ呆然自失というダブルパンチ。
その後精神を病み、かろうじて仕事だけはやめなかったという暗黒期を経て、今は穏やかに過ごしている。
あれからまもなく10年が経とうとしている。
私は今年34歳になる。
今では父と月に2.3回会うし、マイホームのリノベーションも父の会社に任せた。
私が結婚し子ができたことが大きい。
元々学生時代からの友人だった両親は今でも会えば普通に一緒にごはんを食べ、買い物をする。
私たち子どもや孫を連れてでかけるので、一見普通のじじばば連れのお出かけに見える。
私もそれを望んでいた。
家族でよく出かけたものだ。
父はいつも根気よく子供の遊びに付き合ってくれたし、仕事をしている姿も誇らしかった。父の経営者という仕事は、子供ながらに自由度の高い仕事だと思ったものだ。
娘が結婚して家族を持っても、父や母と出かけたり、家族の行事に集まったり…このごく普通の、でも私の理想の家族像を、離婚当時は叶えることはもうできないのだと思っていた。
父や母に気を使い、顔を合わせない方がいいのでは?と悩んだ時期もあったが、両親にとっては可愛い可愛い娘の私が望むのであれば、過去のことは水に流して笑って会ってくれる。
そんないい感じに関係が修復していた2年前、父が再婚した。
籍を入れたのだと言う。
相手には大学生の娘がいて、その学費も父が払っているそうだ。
私はぶったまげた。
なぜ籍を入れたのだ?!
私は法学部を卒業しているので民法も一通り理解している。
父の再婚、つまり相続の話が出てくる。
まぁ事実婚でも相続が認められる場合もあるし、遺言書を書いてしまえば遺留分はあるが遺産相続はできるのだが。
つまり、私と弟に1/2ずつのはずが、奥さんに1/2、私と弟で1/4ずつとなる。
さらにもし相手の子供を養子縁組したら子供の頭数が増えて取り分は少なくなる。
正直に言うと私はかなりムカついた。
相談もなしに事後報告だったことも一因だし、父は会社経営者なのでそれなりに残すものも多いからだ。
あんなに私や弟を傷つけておいて、さらにこんなことに?!と私はパニックだった。
とりあえず弟に言ったが、あまりピンときていない。弟は優しすぎるのだ。
夫に相談すると、一度しっかりお父さんと話したら?といつも通り冷静だし、母は、もう私には関係ないことだからとむしろせいせいしているのだ。(しかも母は資産家だから、お金の問題はあまりない。月2回くらい旅に行き、悠々自適生活うらやましい)
今に至り、まだ父とはちゃんと話ができていない。
離婚の時も父から私たち子どもへの説明はなかった。
連絡を取り合うようになっても説明されることもなく、たまに会ってはごはんをご馳走になり、孫のものを買ってもらう。
このままうやむやになって父は死んでいくのか。
父が死ぬ時、果たしてちゃんと私たち子どもに連絡が来るのだろうか。
しかし、私は基本父が好きだから、顔をみると何をどう聞けばいいかわからなくなってしまう。
生き生きと社長をして、身なりも整い、健康そうな父をみていると、今幸せなんだなと思うのだ。
奥さんの支えがあるのだな、きちんとごはん食べてるのだなと思うと、よかったなと思うのだ。
父の人生。
母の人生。
ふたつはすれ違ってしまったけれど、それぞれ楽しそうだから娘としてはよかったと思う。
だからこそ時間と共に父の裏切りを許せたし、母がむしろ独身を謳歌しているので私は安堵している。
私の中では父が死んだあとの遺産を目当てにするのではなく、今たくさんお金を使ってもらおうと思っている。
焼肉、うなぎ、寿司、たくさん食べに連れて行ってもらう。
息子と娘のものも大いに援助してもらう。
そして孫をたくさん会わせてあげたい。
そんなことを夫に話すと、
でもお義父さんが一番会いたいのは恭子だと思うよ。
そうなのだ。
父は私のことを溺愛しているから。
それがわかってるから、父を取られた気がして苦しかった。
その気持ちにやっと正直になれた。
そして、今は父のことよろしくお願いします。と言う気持ち。
実は最近、4歳の息子を父の家にお泊りに行かせている。息子は喜々として遊びに行く。
もちろん、父の再婚相手と暮らす家にだ。
そしてたっぷり可愛がってもらっているのだ。お風呂に入れてもらったらしい。
それを許せるところまで、私のトラウマである両親の離婚は過去のことになったのだ。
時は本当にさまざまなことを解決してくれる。
父は長寿の家系なのであと20年はバリバリ働くだろうから、せいぜい甘えたいと思う。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?