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経血『Kankai』自分には「最高」としか言えないです

KKV Neighborhood #122 Disc Review - 2022.2.22
経血『Kankai』(悲観レーベル)
review by 長谷川文彦

最初にちゃんとしておきたいのだけど、経血のボーカルの「まり」をどう表記するかということが悩みなのである。CDのクレジットには「まり」と記載があるので「まり」でいいじゃないかと思うのだけど、直接面識のない女性を下の名前で呼び捨てにするのは少々なれなれしい感じがして嫌だし、何より失礼に当たるのではないかと心配だ。かといって「まりさん」というのも何か変で、そもそも自分はあまりミュージシャンとかアーティストに敬称はつけない主義なのでこういう時に困ってしまう。
苦肉の策としてここでは「まりちゃん」と表記することしたい。ちゃん付けこそ失礼じゃないんかい?というご意見もあろうが、彼女のツイッターのユーザー名は「まりちゃん」だし、周囲の人たちも「まりちゃん」と呼んでいるようなのでこれでよしとしたい。
何故こんなことにそこまでこだわるのか。まりちゃんは自分の推しなのだ。推しに対しては失礼なことはできないのである。

さて、ようやく本題である。経血のセカンド・アルバムだ。嬉しい。一枚で終わらずセカンド・アルバムを出してくれて本当に嬉しい。自分は理屈抜きに経血が好きというだけの人間であり、昔の言葉で言うとただの「ミーハー」に過ぎない。だから「やった!最高!」以上の感想はないのだけど、今の時代において経血がしっかりとしたオリジナリティとリアリティを持った最高なパンクバンドであることをこのアルバムが証明している、ということははっきりと言っておきたい。自分の推しのバンド、最高なんである。最高という言葉を使い過ぎで申し訳ない。

経血はよく「1980年代の日本のハードコアパンクに影響を受けた」という言われ方をする。確かに少し湿り気があってダークな雰囲気(脳天気で陽気なメロコアみたいなものではないという意味)にはあの頃の日本のハードコアのテイストがあるに間違いはない。よくカムズが引き合いに出されるし、みんながあまりに期待するのでもうやらないとまりちゃん自身が言っていたけど、以前はライブでカムズのカバーをやっていたので実際に影響を受けているのは間違いないのだろう。でもそれだけではない。
何年か前にRuby RoomでNO NO NOとツーマンのライブをやった時に経血は戸川純の「パンク 蛹化の女」をカバーしていた。びっくりしたけど、むしろカムズよりこっちの方がしっくりしていて感動した。曲の終わりに「本当にありがとうございました」と言っていたのは「裏玉姫」バージョンの完コピで、本当に戸川純が好きなんだなと思い、さらに感動した。
1980年代の日本のハードコアだけじゃなく、戸川純や椎名林檎(今回のアルバムのジャケットは椎名林檎へのオマージュだろう)など好きなもの飲み込んで消化して血や肉にして、そこから作り出している音と曲と言葉は経血だけのものだ。単に昔のパンクの音を真似しているだけのバンドなんかではない。

あと、歌詞が日本語で、それがちゃんと伝わる(がなっているだけでなく言葉が伝わってくる)というのがとてもいい。「私の視界に入るなよ 戯言だらけのクソ野郎ども」なんてフレーズがちゃんと耳に届いてくるのが気持ちいい。そういう言葉が2020年代に生きている人間の心のどこかに必ず刺さるリアリティを感じさせるのが素敵だ。同じ時代に生きている人間に届く、それがパンクってもんだろう。
そして「蒼い彼岸花」みたいな切ない曲を入れてくるからこっちは即死してしまう。ファースト収録の「経血」と並んで心を揺さぶる名曲だと思う。

まりちゃんはカッコいい。理屈抜きにカッコいい。2020年4月の配信のライブで、ステージからの逆光に拡声器を掲げて登場した時はゾクっとした。1年近くライブを観に行けてないけど、コロナ禍を押してでも近々観に行きたいと思う。

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