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オタクが行く「ファン・ゴッホ ー僕には世界がこう見えるー」レポ

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突然ですが2022年秋、私は無職になりました。デザイナーの仕事をしていたのですがコロナの影響をモロに受け事業縮小した結果です。
芸術系学科を出てデザインの仕事でえっさほいさしてきて他の業務経験も学もない。とどめを刺すように先輩デザイナーからはデザイナー向いてないからやめた方がいいとお言葉を頂戴して職場を去りました。
そんな人間がアラサーで無職。割と絶望的ですね。ですが猫を飼っているので泣いてばかりもいられません。

なので、自分を鼓舞するために2023年1月1日に行ってまいりました。
「ファン・ゴッホ ー僕には世界がこう見えるー」です。

今回、この展示の目的は一つ。
それは投影映像による展示で、ゴッホの世界に没入することです。
生前は一枚しか絵が売れなかった不遇の画家。そんな彼の世界に没入することで失業の傷心を癒そうという新年早々後ろ向きな取り組みです。
イマジナリータンギー爺さん(ゴッホの作品のモデルにもなった実在の人物。無名な芸術家たちの支えになる)が私の背中をさすってくれるので頑張っていきましょう。

目指すは東所沢サクラタウンの1F。会場入口から入ってすぐに構えているのは3ゴッホ。
1フィンセント 2ファン 3ゴッホです。正月からありがたいですね。

左からSRスキン、ノーマルスキン、URスキン

3ゴッホに見守られながら会場に入場すれば巨大なスペースがお出迎え。
設けられたスペースの壁全面に映し出されるゴッホの作品たちです。

農民をモデルに描いていた時代の作品たち

制作時期で統一した作品が一気に映し出されます。
ひまわりや星月夜等、てっきり色鮮やかな作品のみを展示するのを想像していたんですがそんなことはなく、それ以前の彩度が低い時代の作品も大量に映し出されていました。
色鮮やかな時代の作品は当然好きなのですが、この時代のある種の生々しい息遣いを感じる作品も同等に愛しているのでテンション上がっちゃうぜ。

名画をここまで大きく見ることは早々まずないじゃないですか。加えてこの展示の見どころはどこでどんな姿勢で見てもいいというところです。
なので展示の企画に乗っかり、置かれているヨギボーに倒れ込みながらゴッホの絵を鑑賞しました。最高の気分です。
農民をモデルにした作品は評価されず、加えてモデルになった農民たちも快く感じていなかったということを忘れて没入できる空間がありました。
気分はゴッホのスポンサーです。現世では無職ですが、ここでは私のために作品は描かれ、音楽が奏でられ……

突然崩れゆく農民たち

!?!?!?!?!
なに?!?!?!?!??!

驚きのあまりピントも合わない

気分はスポンサーなんて無職が調子に乗っていたせいでしょうか。突然、見入っていた絵画が溶けるように崩れていきます。
もちろん演出の一環ですが、予想もしていなかった展開に慄いていれば次に映し出されたのは「種をまく人」。

黄色い太陽が昇りました。
ゴッホの作品はここから鮮やかなものになっていきます。

ぐにゃ〜……

暗いトンネルを抜けたかのような明るさと彩りが全方位を包みました。
まるで何かを悟ったように洪水が視界いっぱいに流れ込んできます。
ここにてゴッホが得た視界と色なのだとタイトルが回収されました。
私はゴッホのように何かを得るまで突き進むまでには至りません。デザインの仕事のみで突き進んできましたが、彼の頂には遠く及ばずでしょう。
体験型イベントが起きてます。私は彼の作品を通して色を悟りました。太陽は黄色く、月夜は青い。ブラッドボーンの世界なら啓蒙が+1になるイベントが発生しています。

光は黄色だ
鮮やかなアイリス

ゴッホが愛飲していたお酒に『アブサン』というものがあります。
アブサンは幻覚作用があるお酒で、ゴッホがパリに移住した際の静物画にも描かれています。パリに移住して以降のゴッホの絵画は色鮮やかなものが増えたのは、アブサンの幻覚作用が一躍買っていたという説(諸説あり)があります。
アブサンは幻覚作用を抑えたものを現在でも飲むことができますが、当時に見ることができた幻覚を見ることは叶わないでしょう。ですが、この空間の中だけでは叶います。多くの画家たちが嗜み、毒性に蝕まれながら得たものを安全圏から見るのは何だかずるいような気がしますけども。

油絵具の香りを視覚で感じる
『花咲くアーモンドの木の枝』

ここで一巡したのでこの場を後にします。
ちなみに絵画の動きに合わせて楽曲が流れていたので、リストをチェックして見ました。
どうでもいい話ですが、使用されている楽曲に『モルダウ』があったのですがこれを聞くと中学の頃の音楽発表会を思い出して胃がギュッとします。嫌な感じのギュッです。心臓と胃をひとまとめに握りしめられたようなあの感じです。
しかしゴッホの方がよっぽどな人生を歩んでいるので、今日に限ってはフラッシュバックのようなメンタルダメージが緩和されました。人間は環境で変わるものですね。

楽曲リスト

学がないので曲と絵画の関係性が分からないのですが、一つ引っかかったのは『私のお父さん』というタイトルです。
ゴッホは実父との折り合いが非常に悪かったという史実があります。

展示物にもはっきり書かれている

おいおいゴッホの作品にこのタイトルはないだろ……!聞き取れなかった歌詞はゴッホらしい内容なのか……?と思い、歌詞を調べて見ました。余談ですが私はOP・ED映像と歌詞の組み合わせが気になるタイプのオタクです。以下、歌詞の抜粋です。

【和訳】参照 : https://ja.wikipedia.org/wiki/私のお父さん
ああ、私の愛しいお父さん
私は彼を愛しているの、彼は素敵、素敵
ポルタ・ロッサへ行きたいの
指輪を買いに

そうよ、そうなの、私は行きたい
そしてもし、彼への愛が無駄になったら
私はヴェッキオ橋に行って
アルノ川に身を投げてしまいたい

私は苦しんで、耐えてきたの
ああ、神様、私は死にたい
お父さん、許して、許して
お父さん、許して、許して

ゴッホでこの歌詞はダメだろ

何がダメってゴッホは異性とまともに恋愛関係を築くこともできずトラブルを多々引き起こしています。なんならゴッホの死因は自殺です。この選曲は全力でゴッホの人生をいじっているのかと少し心配になります。流石に考え過ぎだと思いたいですね。
本当に音楽の心得がないのでアレですが、唯一分かるモルダウの選曲理由もよく分からないので……。分かる人がいれば教えを請いたいです。

曲のチョイスに動揺を引き摺りながら向かうはゴッホの生涯をまとめた展示場。

同じアラサーとして親近感を抱く

ゴッホの生涯を分かりやすくまとめるだけではなく、折線グラフで人生の絶頂〜低迷までを表してくれるので非常に分かりやすいです。
その際、ゴッホの書いた手紙の抜粋もあったり、表情豊かなゴッホのイラストもあるので見ていてかなり見応えのある展示でした。

気圧ほどに不安定な折れ線グラフ

ジェットコースターのような人生という比喩表現がありますが、富士急もびっくりな急降下です。ガクガクにほとんど下がっていくだけのゴッホの人生折れ線グラフを横目に撮影ブースも用意されています。

ゴッホと同棲ごっこができる

椅子を見てください。ゴッホが描いたものにそっくりです。こういう細部まで全く手を抜いていない展示物なんですよ。
これ以外にもタンギー爺さんなりきりセットスペースもありました。

イマジナリーじゃないタンギー爺さん
この直後、タンギー爺さんはピースをしない!と理不尽な怒りを受けることになる妹

ここまでは失恋等で人生に迷いつつも、グーピル商会に入ってり日本の浮世絵に感銘したりそこまで悲惨なものじゃありませんでした。
ゴッホの低迷はここからが本番です。

二年間で起こっていいイベントの密度ではない

もうフォントが全力で遊んでらっしゃる。
この展示を担当したデザイナー完全に楽しんで作ってませんか??

『発作』をフォントのみで表現するのに素直に嫉妬しました。
ゴッホの精神状態の悪さをこのように表現するのはデザイナー側の勝利だと思います。
まずい、ゴッホの不遇の人生を見て傷心を癒そうとしたはずがデザイナーへの嫉妬に変貌している。
綺麗に取り繕ろうと言う気持ちは嫉妬の前では無意味です。私は自分より不幸な人生を見て傷を舐めようとしておりました。
ここまで取り繕ってきましたが、ゴッホの波瀾万丈な人生を折れ線グラフで表現しているのもすごく見やすくユーザビリティ面のデザインにもはや嫉妬の念もありません。センスに脱帽、才能に羨望、圧倒されて俺絶望。底辺の精神です、下手なラップの一つでも聞いていってくださいチェケチェケ

その一方で、私やっぱりデザイン好きですわ……の諦めも出てきました。結局!デザインの仕事を見るのも好きだし、自分も関わっていきたいわけですよ、才能がなくても!
ゴッホも伝道師の仮免中あまりに入れ込みすぎるため仮免剥奪されたけども、本来は父親の跡を継いで聖職者になりたかったわけじゃないですか!つまり?私がゴッホだ!!

イマジナリータンギー爺さんに代わってイマジナリーゴッホと肩を組みながら見ていきましょう。

ゴーギャンが垂れ目で描かれているの見て、これこれ〜!ってオタク構文で喜んでしまった

ゴッホとゴーギャンは耳は切っても(不謹慎)切れない縁の印象が強いですよね。
同じような構図で同じような色合いの作品が並べられているので、あらためて双方が与えあった影響というものが見て取れます。
ゴッホとゴーギャンの間にひまわりの花を展示するの、ゴッホのクソデカ感情が伝わってきていいなと思いました。その他、『ゴーギャンの椅子』に『黄色い家』がゴーギャンの自画像を端に詰めるように配置されてるのはそろそろやめてあげてと言いたくなります。いい展示です。本当。

天井にまで届くほどの糸杉の展示
天井にもたくさんの作品たち

ゴッホの生涯だけではなく多くの作品も展示されてました。
何より良かったのが、本物の作品では絶対にできないような展示が多くされていたことです。コピーであることを逆手に作品を吊したり、撮影ブースを設けたりしてくれてたので美術館より気負わず作品をじっくり見ることができました。
ゴッホ?ひまわりの人だねくらいの認識しかない人でも十分楽しめる展示だと思いました。

もちろんオタクはオタクで楽しめます。ゴッホオタクとして一番喜んでしまった展示はこれです。

再現度が高すぎるお墓

ジェネリックお墓。
ゴッホのお墓はパリの郊外オーヴェル=シュル=オワーズという村にあります。生きているうちにいずれは……と考えていたのですが、まさかここでお墓を拝むことになるとは思いませんでした。
墓石の再現度といい、蔦といい、この展示の本気具合が伺える。
実在するゴッホの墓石だけ何故か黒ずんでいるんですよね。そこまで再現にこだわっていることに痺れました。この展示は本気だ。本気でゴッホを推している。

ちなみに蔦の花言葉は「死んでも離れない」です。ゴッホを信じて仕送りをし続け、自分の息子にフィンセントと名付けたテオも兄の自殺後に急死します。
二人の兄弟愛を静かに語る墓石と蔦を、まさか東所沢で見れると思っていなかった。

お墓横にはゴッホの死後の作品説明等が書かれており、第二次世界大戦で焼けてしまったゴッホの『ひまわり(通称:芦屋のひまわり)』の複製品が飾られていました。(撮影禁止だったので写真はない)
現存していないためか、あまりメジャーではないひまわりシリーズの一つですがこれにもしっかり触れられていて良かったです。

推しに手紙を書く

今回の展示は手紙をテーマにしているので、ゴッホ宛に手紙を書くスペースも用意されていました。
オタクは感想を伝えるのが好きです。なので早速書きました。
展示会の感想ではなく、ゴッホに宛てた手紙を書こうというテーマからして展示の本気が伝わってきますね。

お出迎え3ゴッホ

ゴッホへの手紙スペースを最後に戻ってきました。
入り口で3ゴッホを見たときは少し笑ってしまいましたが、ゴッホの生涯を通し、お墓まで拝んだあととなれば感極まります。感極まったオタクは冷静ではないのでゴッホが3人もいれば互いに孤独を癒しあうことができたかも……と考えました。ですが、自分は大きな犬だと自虐する彼が3人と思えば流石にテオの負担が心配になります。
死ぬまで評価されることもなく、弟やタンギー爺さん以外と心を通わせることができなかった生涯と考えれば不幸なのでしょう。でも弟には恵まれた人生だったとこの展示であらためて感じることができました。

テオとヨー、息子のフィンセント

テオの妻、ヨハンナ(ヨー)もゴッホの芸術に理解があり彼の作品を有名にするために奔走してくれました。テオはよく取り上げられますが、私はヨハンナも同じくらい取り上げられてもいいでしょうが!と拳を握ってしまいます。
それくらいゴッホに関わりが深いのです。それだけではなく、女性と労働者の権利を推進するオランダ社会民主労働者党の一党です。彼女の功績も現代にこそもっと評価されてほしいと感じます。
彼女のことは後日にnoteにまとめたいですね。

これで展示は終わりです。フロア丸々一階を貸し切ったものだったので広く、見応えはありすぎるくらいでした。作品の投影映像を楽しみにしていたのですが、ゴッホの生涯をまとめたグラフも強火な展示スペースも何もかもが良かったです。ゴッホを知っていればより楽しめますし、知らなくてもめちゃくちゃ楽しい。
ゴッホの展示イベントにはできる範囲で参加していますが、今回の展示はかなり斬新だったと思います。美術館ほど気負うこともなくゆるい雰囲気でゴッホを知ることができるのでゴッホ入門にはもってこいな展示に感じました。一緒に行った妹はゴッホをほとんど知らないのですが、グッズショップに駆け込むくらいにはハマってました。
一方で見るところを見れば、オタクを喜ばせてくれるような展示がいっぱいなのでオタクにもおすすめです。
ゴッホの手紙の一文を載せて展示の感想を終わります。

格言ですね。デザイナーの仕事を忘れることができなかった未練に寄り添ってくれるような気がしました。
ありがとうゴッホ。本来の目的とは少しずれましたが元気が出ました。
最後に買ったお土産も載せておきます。

料理好きなオタクが買うしかなかったレシピ本、会場限定の手拭い、ゴッホの吹き出しメモ、ブックマーカーです。

オシャレイズム

自分の描いた作品を着こなす5ゴッホです。5ッホです。
著作権が切れてフリー素材と化したのでこういうグッズが増えています。オタクはついこういうのを買ってしまいます。このジャケット普通に製作して売ってほしい。

格言もそうですが、オタクはオタクを喜ばせてくれるようなグッズが大好きです。それを買うとき一番心が潤います。
情熱の画家の格言を胸に、手には強火コーデなブックマーカーをレシピ本に挟んで新年もやっていきましょう。
読んでくださった方々もよい一年を。

■イベント概要
【展覧会概要】
展覧会タイトル:ファン・ゴッホ ー僕には世界がこう見えるー
会期:2022年6月18日(土)~2023年1月9日(月) ※会期延長
会場:角川武蔵野ミュージアム 1階 グランドギャラリー
開館時間:10:00~18:00(金・土 10:00~21:00)
最終入館:閉館の30分前
休館日:第1・3・5火曜日

主催:角川武蔵野ミュージアム(公益財団法人 角川文化振興財団)
文化庁「ARTS for the future! 2」補助対象事業

公式サイト : https://kadcul.com/event/77



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