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見上げれば、キミ ~中編~

なんとも言えない感覚にかられたまま帰省したその日、僕は彼女の家を訪問した。

すると、彼女のお母さんは挨拶もそこそこに、僕を家の中へ案内したのだ。

僕は目を疑った。

そこには彼女の姿はなく、代わりにあったのは、僕の大好きだった笑顔で写っている、彼女の遺影だったのだ。

僕はそれを見た瞬間、頭の中が真っ白になり、その場から動けなくなってしまった。
そしていろんな思い出、感情が沸き上がる。
何があったのか、どうして誰も教えてくれなかったのか。
涙すら出てこない。

そんな中、彼女のお母さんから、1通の手紙を渡された。

「あの子、"絶対彼には教えないで。彼の夢の邪魔だけはしたくないから。"そう言って、頑なにあなたへの連絡を拒んだのよ。でもね、自分のことよりも、最期までずっとあなたのことを応援してたわ。」

僕は何も言えず、彼女からの手紙を握りしめ、その場を去った。

気付けば、昔彼女とよく来ていた海岸にいた。

僕はそっと彼女からの手紙を開く。
そこにはあの頃と変わらない、彼女の優しさが溢れていた。

『元気ですか?夢は叶ったかな?
 まずは来てくれて嬉しいよ、ありがとう。

 これを読んでいるということは、きっと私はもうあなたに会うことはできないんだね。
 実は、病気が見つかって余命宣告を受けました。
 あなたに伝えるかすごく悩んだけど、夢を応援したくて、黙っておくことに決めました。
 もう毎日の連絡もできないくらいしんどくて、、ごめんね。
 だけど、あなたへの気持ちはちゃんと伝えたいから、こうして手紙を書いています。

 私は、あなたと一緒に居るとすごく楽しくて居心地が良くて、安心して毎日を過ごすことができていたんだよ。
 あなたの笑顔も声も、大きい手も温かい体温も、すべてが大好き。
 初めて逢ったあの日も、一緒に笑い合った日々も、喧嘩した日も仲直りした日も、全部がかけがえのない宝物。
 あなたに出逢えた私は幸せ者だな。
 あの日見つけてくれてありがとう。

 夢の続きが見れないこと、夢を叶えたあなたをお祝いできないこと、約束が守れないことがすごく悔しい。
 本当はね、怖いし会いたいし、生きたい。
 あなたといつまでも、一緒に笑い合いたいよ。

 だけど、神様が許してはくれないみたい。
 これも運命だね。
 私はあなたのことを応援してる。
 決して諦めないで、絶対夢を叶えてね。
 そして、誰よりも幸せになってね。

 今まで本当にありがとう。
 愛しています。』

気付けば辺りは暗くなり、いつしか降り出していた雨とともに、僕の目には大粒の涙が溢れていた。


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