見出し画像

農林中央金庫が10兆円規模の外債売却で損失を確定するらしい。そもそも、なんで損失が出るの?(その3)

前回、3年前に10年米国債に投資して、そのまま何もせずに保有していれば損失は発生しなかったことを説明しました。

今回は、どのような理由で金融機関に外貨建債券の損失が発生するのかについて解説してみようと思います。

なお、本記事は個別の金融機関の損失の原因を探ることを目的にしていません。
あくまで記載しているのは一般論です。
ご了承ください。


(4)為替変動リスクのヘッジ


日本企業の基準通貨は日本円です。
日本の企業は外貨で取引をしても、最終的には日本円に換算して損益を計算します。
外貨建債券を投資する場合も同じです。投資損益を日本円に換算して計算します。

為替相場はコントロールできません。コントロールできない要因(為替相場の変動)に経営を左右されるのは避けたいので、為替変動リスクを取りたくないと考える企業も多いでしょう。
つまり、日本の企業は為替レートの変動をヘッジ(回避)したいのです。
だから、為替ヘッジをします。

代表的な為替ヘッジは為替予約です。
※他にも通貨スワップや通貨オプションを使用する方法がありますが、ここでは省略します。

為替予約とは、将来の決済を行う為替レートをあらかじめ取り決めておく取引です。
1年後に決済する為替レートを1米ドル=140円にする、などです。

為替予約に使用する為替予約レートは前回説明したものです。
参考に前回掲載した現在と3年前の為替予約レートを再掲します。


為替予約レート

米国債の購入時(3年前)に為替予約をしていた場合、図のオレンジの為替予約レートを利用しています。
この為替予約レートを利用して、10年米国債を評価してみましょう。

3年前の為替レートは110円/米ドル、日本円10年金利0%、米ドル10年金利1%です。
固定金利1%の10年米国債を取得し、元本・利息を為替予約でヘッジしたケースを想定します。
現在の日本円10年金利1%を使用して評価したのが下表です。

※日本円金利1%として計算

為替レート(表のFR)は110円からスタートし、10年後には99.6円まで下がります。円換算した10年米国債の現在価値は10,002円です。
10年米国債の取得価額は11,000円なので、-997円(-9.1%)の損失が発生します。

為替予約をしただけでは、日本円の利上げによる債券価値の下落を防げません。

この点、金利スワップ(変動受・固定払)を契約しておけば、日本円の利上げによる価値の下落もできます。
しかし、この場合はわざわざ米国債を買わなくても、日本国債+金利スワップでいいわけです。

さて、為替変動リスクをヘッジするために為替予約をした場合、約10%の損失が発生しました。
良かれと思って為替予約をしたはずなのに、結果として余計なことをしてしまったようです。

ただ、為替リスクを管理するためには必要なことなので、為替予約をすることは悪いことではありません。念のため……

損失が発生する原因は他にもあります。
ちょっと長くなったので、他の原因の解説は次回にします。

<その4はこちら>

<前回の記事はこちら>



外貨建債券、為替取引について詳しく知りたい人は、これらの書籍を参考にしてください。


この記事が参加している募集

#上半期の振り返り

991件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?