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農林中央金庫が10兆円規模の外債売却で損失を確定するらしい。そもそも、なんで損失が出るの?(その4)

前回、為替予約をしていたら外貨建債券に含み損が発生したことを説明しました。

為替予約だけでは、金利上昇による債券価値の下落をヘッジできないからです。ただ、為替リスクはヘッジできたので、リスク管理としては間違っていません。それほど悪いことではないでしょう。

さて、今回は別の切り口から外貨建債券の含み損の発生原因を説明します。

なお、本記事は個別の金融機関の損失の原因を探ることを目的にしていません。
あくまで記載しているのは一般論です。



(5)超長期債の投資


外貨建債券の含み損の発生原因として、超長期債への投資が考えられます。

念のため、国債の呼び方を説明しておきます。
償還までの期間が1年以下の国債を短期国債、1年超5年以下の国債を中期国債、5年超10年以下の国債を長期国債、10年超の国債を超長期国債といいます。
つまり、20年国債、30年国債などが超長期国債に該当します。

ここでは、30年国債を使って説明しましょう。

3年前の30年米国国債利回りは1.5%、現在は4.5%です。
3年前の30年日本国債利回りは0.5%、現在は1.5%です。

10年国債は米国1%→4%、日本0%→1%です。
国債利回りは10年と30年でそこまで水準が違うわけではありません。

ただ、ゼロ金利の日本では「少しでも高い債券に投資したい!」というニーズが高かったと思います。
つまり、10年米国債よりも高い利回りを求めて30年米国債を購入した金融機関があります。

さて、30年米国債の時価が3年間でどう変化したかを確認しましょう。

3年前に発行された30年国債は、発行時点では取得価額=時価です。これは説明が必要ないでしょう。

現在の評価結果は下表です。

【30年米国債の評価】

行数が長くなってしまって見づらいですね。


評価の結果、取得価額11,000円の30年米国債の評価額は7,670円と計算されます。
つまり、3年前に取得した30年米国債は、現時点では-3,330円(-30.3%)の損失が発生します。

前々回に解説したように、10年米国債は含み損が発生しません。
円安の影響(プラス)が10年米国債の評価損(マイナス)を相殺したからです。

しかし、30年米国債では損失が発生しました。
つまり、円安の影響(プラス)は30年超長期債の評価損(マイナス)には勝てなかったようです。

10年米国債と30年米国債の評価額に差が生じた理由は満期までの年数です。

前回、10年間の為替予約レートを示しました。
念のために再掲します。

【現在と3年前の為替予約レートの比較(10年間)】

※金利の期間構造(タームストラクチャー)を無視して、10年金利は常に一定(例えば、現在の日本円は1%)として上図を作成しています。


グラフを見ると、10年間の為替予約レートは、3年前よりも現在の為替予約レートの方が高いです。ただ、傾きは現在の方が急です。

理由は金利差です。

3年前の10年国債利回りは米国1%、日本0%なので金利差は1%です。
現在の10年国債利回りは米国4%、日本1%なので金利差は3%です。
金利差が拡大すると円高方向の傾きが拡大します。

30年の為替予約レートで確認してみましょう。
下図が現在と3年前の為替予約レート(30年間)の比較です。

【現在と3年前の為替予約レートの比較(30年間)】

※金利の期間構造(タームストラクチャー)を無視して、30年金利は常に一定(例えば、現在の日本円は1.5%)として上図を作成しています。

3年前よりも現在の為替予約レートの方が傾きは急なので、16年を超えたところから現在の為替予約レートが3年前を下回ります。

債券のキャッシュ・フローは満期時(元本返済時)が最も大きいため、評価額は満期時の為替予約レートの影響を大きく受けます。

この結果、10年米国債であれば評価損は発生しなかったのに、30年米国債に投資していれば約30%の評価損が発生することになりました。

約30%の含み損が発生するわけですから、損益インパクトは大きいです。

超長期の外貨建債券に投資していた場合、損失が発生します。
利回りを少しでも高くしようとして欲張った結果……といえるかもしれませんね。

(6)その他の要因とまとめ


外貨建債券に投資して損失が発生する場合として、ハイイールド債(低格付けの高利回り債券)への投資が考えられます。
ハイイールド債の利回りは基準金利(国債利回りなど)よりも変動が大きいのが特徴です。
例えば、国債利回りが1%上昇したら、ハイイールド債の利回りは2%上昇します。
金利上昇時には含み損が発生しやすいのです。

これ以上説明すると長くなるので、ハイイールド債の説明は割愛します。

***

このように、円安によって外貨建資産の評価額は上昇しているものの、他の影響をヘッジできない場合、外貨建債券に巨額の含み損が発生します。

金融機関によって含み損を抱えた理由は違うでしょう。
損失発生の原因が一つではないからです。

相場変動が激しい時期には、損失を回避するために金融機関はヘッジ手段を活用しなければいけません。
ただし、何(金利、為替、ボラティリティなど)をヘッジするかによって、その効果は違います。

そういう意味では、相場を見通す能力が必要なのかもしれませんね。

<おわり>

<前回の記事はこちら>



外貨建債券、為替取引について詳しく知りたい人は、これらの書籍を参考にしてください。


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