佐木隆三「身分帳」を読んで



読めてよかった。
戸籍を持たず、12歳から少年院や刑務所でほとんどを過ごし、44歳で出所した「山川一」が社会に戻って奮闘する、ノンフィクション。けっこう前の本ですが、最近西川美和監督に発見され文庫化、来年2月公開の映画化(主演は役所広司)に至るそうです。

彼の「身分帳」や起訴状などの公判資料、精神鑑定書などの客観的資料を挟みながら複層的に話が進んでいきます。

本人が佐木隆三さんに、自分の資料を送って本にしてくれって言ってきたのが縁で付き合いが始まり、補遺では、福岡に行って数年もたたなかった彼の死の連絡を、佐木さんが受けて駆けつけ、お葬式をあげたり偲ぶ会を開いたりしたところが記録されていました。
あと少しで出所5年というところで、悲しかったです。

社会でいろんな人との縁を築いていくのも彼のぶつかっていく人柄の賜物で素晴らしいけど、成功ばかりでなく、組員時代の人のところに行ってしまうことがあったり喧嘩で怪我させてしまうことがあったり。薄氷を履むような気持ちになりましたが、再犯しないことを続けるには、いろんな行動の選択肢がある中、各局面、局面で、カッと突っ走らず、踏み外さないように進んでいくしかない。
カッとならないで不適切な行動取らずに過ごせれば、いろんな才能を持って生かせる彼だと感じられ、ほかにも不適切な行動に行かないように気兼ねなく話せる人がいれば、再犯防止できるケースは数知れないだろうと思いました。
彼には相談できるスーパーの主人、そして身許引受人になってくれた東京の弁護士がいて、本当によかった。

刑務所のなかでの問題で刑が追加されてなかなか出所できなかった彼が、頑張ろうと思ったきっかけは、高裁(渡部保夫裁判長)で量刑が減刑されて、自分の言い分を聞いてもらえたと思ったことだそうで、少し裁判のもつ可能性を感じられました。

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