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ネイピア数 e のはなし

拙著『社会科学のための統計学入門:実例からていねいに学ぶ』が講談社より発売されます.

この本を見返していて,$${e}$$や$${\exp}$$に関する説明が不足していることに気づきました(うっかりしていました……).もちろん,テキストの本質的な理解には支障はないのですが,理解するに越したことはありません

そこで,この記事では統計学に関連する内容をピックアップして,かんたんに$${e}$$や$${\exp}$$に関連する事項を説明します.

ネイピア数 e とは

ネイピア数$${e}$$とは,円周率$${\pi}$$と同じように,無理数の定数です.

$$
e=2.71828\ldots.
$$

exp( )とは

$${\exp}$$とは,$${e}$$の指数を表すために用いる記号です.

$$
\exp (a) = e^a.
$$

指数部分に複雑な式を載せなくてはならないときに,この$${\exp}$$がよく使われます.たとえば正規分布の確率密度関数の一部を表すために用いられます.

$$
\exp \left( - \frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2} \right) = e^{ - \frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}}.
$$

自然対数 log とは

自然対数$${\log}$$とは,ネイピア数$${e}$$を底とする対数$${\log_e}$$です.具体的には,次のような関係性があります.

$$
a=\log b \ \Longleftrightarrow \ b = e^a
$$


ネイピア数の定義

ネイピア数$${e}$$は極限を使って定義されます.

$$
e=\lim_{n\to \infty} \left( 1 + \frac{1}{n} \right)^n.
$$


指数関数と微分

ネイピア数を使った指数関数$${e^x}$$は,微分しても変化しない,という特徴があります.

$$
\frac{d}{dx} e^x = e^x.
$$

指数関数とマクローリン展開

指数関数$${e^x}$$は,多項式の無限和を使って次のように表されます.(ちなみに,このような表し方はマクローリン展開と呼ばれています)

$$
e^x=1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{6}+ \cdots = \sum_{n=0}^\infty \frac{x^n}{n!}.
$$

$${x}$$に1を代入すれば,次のような等式を得ます.

$$
e=1+1+\frac{1}{2}+\frac{1}{6}+ \cdots = \sum_{n=0}^\infty \frac{1}{n!}.
$$


exp(-x^2/2)の積分値

統計学に登場する有名な積分の一つは,下式で表されたものです.これはガウス積分と呼ばれています.証明は標準的な微積分のテキストにたいてい書いてありますので,気になる方はチェックしてみてください.

$$
\int_{-\infty}^{\infty} \exp(-x^2) dx = \sqrt{\pi}.
$$

これを応用して,$${x\to x/\sqrt{2}}$$と変数変換をすると,次のような式に変形できます.

$$
\int_{-\infty}^{\infty} \exp \left( -\frac{x^2}{2} \right) dx = \sqrt{2\pi} \Leftrightarrow  \int_{-\infty}^{\infty} \frac{1}{\sqrt{2\pi}} \exp \left( -\frac{x^2}{2}\right) dx = 1.
$$

この式は「標準正規分布の確率密度関数$${\frac{1}{\sqrt{2\pi}} \exp \left( -\frac{x^2}{2}\right) }$$は実数全体に渡って積分すると1になる」ということを表します.

また,上式を$${x\to \frac{x-\mu}{\sigma}}$$と変数変換することで,より一般の正規分布についても,実数全体に渡って積分すると1になることを示すことができます.

$$
\int_{-\infty}^{\infty} \frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma} \exp \left( -\frac{(x-\mu)^2}{2 \sigma^2}\right) dx = 1.
$$