メルカリの目論見書を読み直してみる①: カラーページ編

色々な意味で日本の株式市場/テクノロジー業界のターニングポイントになったと言われるメルカリのIPO。6/19の上場日から2ヶ月ちょっと経ってしまっていますが、上場承認後(公開前)に社内向けに共有したメモをベースにちょっと加筆・修正してみました。

まずは、目論見書の冒頭8ページ、全体のサマリーを兼ねている通称「カラーページ」から。

ミッション

メルカリは「なめらかな社会を築く」というミッションを掲げていた時期があったと記憶しています。今後のメルペイへの事業展開など考慮すると、「マーケットプレイス」という事業領域の定義を含む具体的なミッション定義はPros/Consあるようにも思うので興味深いです。

また、メルカリというとGo Boldに代表される強力なバリュー(行動指針)を思い浮かべる方も多いと思いますが、これはp.35に1回登場するだけ。投資家向けの訴求とPRや採用目的でコミュニケーションの力点が異なってくる分かりやすい例かもしれません。

特に欧州の投資家とのコミュニケーションでは、会社のミッション(=Origin)や会社設立後の沿革(=History)に焦点が当たることも多く、考え抜かれたミッションとその背景にある「解決すべき課題」について、経営者のみならずIR担当が自分の言葉で語れるようにすることは大事だと考えています。

KPIの推移

当然ながら、実際に社内で追いかけているKPIと投資家向けに訴求したいKPIが「完全一致」することはあり得ません。ただ、目論見書や目論見書にもとづいて作成される機関投資家向けのロードショーマテリアルに記載されるKPIは、上場後も決算説明会等を通じて一貫性を持って開示し、その変動要因と今後の施策について継続的に説明していくことが期待されるので「何を選ぶか」は重要なポイントの一つだと思います。メルカリは以下の3つを選択しています。

・累計ダウンロード数(日本・米国)
・流通総額(日本・米国)
・登録MAU(日本のみ)

上場後初の通期決算(2018年6月期)の決算説明資料でも、GMV(流通総額)MAU(日本)について説明され、ダウンロード数については決算短信の中でしっかり継続開示されていますね。

余談ですが、目論見書で使われていた登録MAUというやや聞き慣れない表現(ネイティブアプリとWeb版のMAUを合算したもの?)は今回の決算からMAUに統一されています。

事業の内容

カラーページは原則8ページ(うち社名のみの1ページ目と財務諸表サマリーの7・8ページ目は雛形が決まっているので自由に書けるのは実質5ページのみ※)。そのうち、丸々3ページを使ってサービスの特徴を美しい写真を添えて丁寧に説明しています。デザインもスッキリしていてとてもオシャレ…!というのが初見の感想でした。

ご参考までライフネット生命の目論見書はこちら。比較してみると、ちょっと情報詰め込み過ぎな気もしますね…(汗)。

メルカリくらいよく知られたコンシューマ向けのサービスになると、そこまで丁寧に説明しなくても大丈夫では…という気もしますが、IPOに参加する個人投資家は60代以上の男性中心でメルカリのユーザー層との重複は小さいと思われます。加えて、今回はグローバルオファリングのため、日本と比較してメルカリの認知度も低いであろう海外の機関投資家にプロダクトの強みをしっかり訴求する必要ありと判断したのではないでしょうか。

なお、金商法に基づいて作成される有価証券届出書は財務局(東京の場合は関東財務局。通称「カンザイ」)の確認が必要になりますが、目論見書のカラーページも併せて確認されます。

特に商品やサービスの説明に関する箇所は、「本当にこの情報は投資家向けに必要なのか」「有価証券届出書の本文と整合的な記載か」という観点からかなり細かくチェックされるため、実際はそこまで自由度が高い訳ではないという噂もあります。

※ ページ数の制約ありと理解していたのですが、7/10に上場したMTGの目論見書はカラーページが16ページもあったのでそんな制約はなかったのかもしれません…。

業績等の推移

主要な経営指標等の推移

カラーページの最後の2ページ(業績と経営指標の推移)は、基本的にテンプレに沿った記載となっているように思います。ここで目論見書を読み進める上での着眼点のアタリをつけてみます。例えば…

・売上高の連結・単体の差(=連単差)が意味すること
・GMVと売上高の関係
・MAUとユーザー辺り収益性(ARPU)
・損益とキャッシュフロー(CF)の関係: P/L上は純損失(▲42億円)だが営業キャッシュフロー(CF)は黒字(63億円)
・財務CFの変動要因: 直前期(2017/6)の財務CF +210億円
・純資産の変動要因: 申請期(2018/6)の3Q時点で純資産が増加

…と、長くなってしまったので今日はここまで。続きはまた別の機会に…。

(念のため)
・本Postの目的はメルカリ社の目論見書から財務・経営管理観点での学びを抽出することであり、同社株式の販売や投資勧誘を目的としたものではありません。投資は自己責任で。
・筆者はメルカリ社の株式を保有しておらず、今のところその予定もありませんが、取得した場合はこちらにその旨追記します。

このnoteによって皆さんの人生が少しでもHappyになればとても嬉しいです。