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展覧会 #12 空間と作品@アーティゾン美術館

この展覧会はアーティゾン美術館のコレクションによる企画展です。
通常美術展では作品が表現するものを観に行くのですが、この企画の面白いところは美術作品の外側の世界を見せていることです。
依頼主の存在、著名人に所有されていた来歴、室内装飾としての役割、祈りの対象など、美術作品という物理的な存在がどのような場所でどのような人に関わってきたかを知ることができます。



6階展示室

祈りの対象

最初にお出迎えしてくれるのは円空の仏像。
とても優しい表情で気分がほっこり和らぎます。
かつて人々の日常に寄り添って存在していた様子が思い浮かびます。

円空《仏像》 江戸時代 17世紀

このフロアは趣向を凝らした展示が特徴で、特に印象に残ったのは美術作品を配した生活空間の再現です。

My favorite place

家具と美術作品が置かれた室内空間がとても素敵で、美術館というよりインテリアのショールームみたいな雰囲気。

手前の3つの椅子に座ることができます。
(奥のスペースは立ち入り禁止)

建物の一部

襖絵を建具の状態で展示するために日本家屋の室内を再現した空間では、畳に上がって襖絵を見ることができます。(近寄りすぎるとアラームが鳴るので要注意)

日本家屋に差し込む外光も再現しています。
円山応挙《竹に狗子波に鴨図襖》 江戸時代 18世紀

ガラスが無い状態で襖絵を見られる貴重な機会に感激しました。
畳に座って見ていると家の中にいるような気分で、生活と地続きの視点眺めると子犬のかわいらしさや全体の雰囲気がより身近に感じられました。

5階展示室

持ち主と作品の関係性

美術館の所蔵品には数々の所有者の手を経てきた来歴がありますが、それを知る機会はほとんどありません。
このセクションでは作品をある時期に所有していた人の名前が出てきます。

古賀春江《素朴な月夜》 1929年
一時期古賀と家が近かったという川端康成(1899~1972)の旧蔵品。
この作品は床の間に飾られていたといいます。

特に興味深かったのは一つの作品とその作家の所蔵品を並べて展示しているところです。
この作品の作家がどのような興味を持って選んだのか、作家同士の関係性なども想像してみるのは新鮮な経験でした。

安井曾太郎《F夫人像》 1939年

安井が所蔵していた作品が次の2点。

古賀春江《美しき博覧会》 1926年
古賀は安井の7歳年下、同じ時代を生きた画家の作品をどのように見ていたのでしょうか。
《平治物語絵巻 六波羅合戦巻断簡》 鎌倉時代 13世紀
どんなところに興味を引かれたのか気になります。

前田青邨が所有していたのは伝 俵屋宗達の品。
風神雷神を描いた前田青邨ならば、と納得の所蔵品。

前田青邨《風神雷神》 1949年頃
伝 俵屋宗達《伊勢物語図色紙 彦星》 江戸時代 17世紀

その時代に作品が置かれた場所やどんな人たちに見られていたのか、作品が外側の世界とどのような関係を結んでいたのか想像が膨らみます。

4階展示室

額縁と表装具

個人的に一番刺さったのはこのフロアの展示でした。
普段は絵画の画面だけ見てスルーしていた額の存在。
そんな額や表装具にあえて注目するという斬新な発想がとても面白いです。

解説を読んで「額には画面を守るだけではなく画面と空間を視覚的につなぐ役割がある」ということを初めて知りました。

言われてみればそうですね。美術館というニュートラルな展示空間では感じないけれど、そもそも室内に飾るものであったことを考えると額は室内装飾の一部で、絵画と室内空間を繋ぐ額の役割は意外と重要なのかもしれません。

まとめて展示されていたマティスの作品を見て、この額が似合うのはどんな場所だろうと考えたりします。

アンリ・マティス《コリウール》 1905年
アンリ・マティス《オダリスク》 1926年
アンリ・マティス《ルー川のほとり》 1925年

何度も見ている絵画の額に画家のこだわりが詰まっていることを初めて知りました。

岸田劉生《麗子像》 1922年
「劉生額」という言葉を初めて知りました。
それほどこだわりを持っていたのもうなずける、絵画との一体感が強い額です。
山下新太郎《モンパルナスのテアトル・ド・ラ・ゲーテ》1908 –10年
収集したアンティーク額に入れるというこだわり。
藤田嗣治《猫のいる静物》 1939 –40年
額も含めてすべてを創る、究極のこだわりです。

ヨーロッパの額の様式を紹介するコーナーも興味深くて勉強になります。

ウジェーヌ・ブーダン《トルーヴィル近郊の浜》1865年頃
フランス ルイ14世様式 四隅のアカンサス文様が特徴
ベルト・モリゾ《バルコニーの女と子ども》 1872年
フランス ルイ15世様式 全体的に曲線的で立体的な彫りで、四隅と中央の文様は貝殻。
トマス・ゲインズバラ《婦人像》 
イギリス 18世紀中頃のデザイン。
シャイム・スーティン《大きな樹のある南仏風景》 1924年
スペイン 重厚感、四隅の文様が特徴。

他にも個性的な額が色々ありました。
ピックアップしてみると、私はあまり装飾的ではない方が好みかもしれません。装飾的でも絵画との関連が見えたりするものが好きです。

国吉康雄《夢》 1922年
ピート・モンドリアン《砂丘》 1909年
パブロ・ピカソ《カップとスプーン》 1922年
ヴァシリー・カンディンスキー《3本の菩提樹》 1908年
青木繁《海の幸》 1904年

展示作品は過去にコレクション展で見ているものが多いので安心感もあり、今回は絵画そっちのけで額に集中して見ることができました。


作品の外側にテーマを置いていつもと違う視点で作品を見るのはとても楽しかったです。
作品の中だけに集中するのとは違う感覚で、こういう風に肩の力を抜いて楽しむ見かたもあるのだなと思いました。

最後までお読みいただきありがとうございました。

展覧会情報

空間と作品
会期:2024年7月27日(土)~10月14日(月)
観覧料:ウェブ予約チケット 1,200円 窓口販売チケット 1,500円

アーティゾン美術館
東京都中央区京橋1-7-2
交通アクセス
JR東京駅(八重洲中央口)徒歩5分
東京メトロ銀座線 京橋駅(6番、7番出口)徒歩5分
東京メトロ銀座線/東西線/都営浅草線 日本橋駅(B1出口)徒歩5分

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