見出し画像

展覧会 #06 三島喜美代展@練馬区立美術館

三島喜美代(1932年~2024年)は新聞やチラシ、段ボールや空き缶など身近な廃棄物を陶で再現した作品で知られる作家です。

薄くのばした陶土の表面にシルクスクリーンや手書きによって新聞やチラシの文字を転写して焼成することで生み出される三島喜美代独自の立体作品は、その再現性の高さが魅力で、何より「遊び心」があるところが好きです。

インタビュー映像を流しているコーナーがあり、その中で「見た人が「面白い」と思うものを創りたい」と語っていたことが印象的でした。

今回の個展「三島喜美代 未来への記憶」は70年にわたる創作活動の軌跡をたどる内容となっています。

※2024年6月30日追記※
2024年6月19日、三島喜美代さんが永眠されました。心よりご冥福をお祈りいたします。

《Package'74》 1973-74年
新聞を陶に転写しています。初期の作品で文字が反転しているものもあります。
《Package '78》Lemon/Newspapers 1978年
本物そっくりですが、段ボールも中から覗く新聞紙もすべて陶でできています。
《Work 17-C》2017年
今ではあまり見かけなくなった鉄製のゴミ箱に捨てられた缶を再現した作品。
缶は全て陶で作られています。

環境問題をテーマに扱う作品は社会への問題提起という側面が強く感じられることが多いですが、三島喜美代の場合はそういう感じよりも、廃棄されている姿そのものへの興味を感じます。

ゴミのありようを社会の姿の一側面として捉え、遊び心を加えた形で我々に提示しているように思えました。

楽しく、興味を持って眺めていくうちに、自然とその奥にある環境への問題意識に思いを馳せることができた展覧会でした。

「三島喜美代 未来への記憶」
会期:2024年5月19日(土)~7月7日(日)
観覧料:一般 1,000円
   高校・大学生および65~74歳 800円
   中学生以下および75歳以上 無料

練馬区立美術館
東京都練馬区貫井1-36-16
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
休館日:月曜日
交通アクセス:
西武池袋線(東京メトロ有楽町線・副都心線 直通)中村橋駅下車 徒歩3分


ここからは作品をピックアップして鑑賞を振り返ります。(画像23枚)


展示の構成

第1章 初期作品 1950年代~1970年頃
第2章 割れる印刷物 1970年頃~
第3章 ゴミと向き合う
「さわれる」コーナー
第4章 大型インスタレーション

第1章はコラージュやシルクスクリーンなど初期の平面作品、第2章~第3章1970年以降の陶の立体作品、最後の第4章は展示室を丸ごと使った大規模なインスタレーション作品を見ることができます。

第3章の展示室を出たところにある「さわれる」コーナーでは、缶の作品を実際に触ることができます。
こういうサプライズに出会うと来た甲斐があったなと思えます。

思ったよりも軽くて、表面はザラっとした触感。

ここからは作品をいくつかピックアップして展示を振り返ります。

初期の平面作品

《変貌 Ⅲ》 1966年
雑誌やチラシの切り抜きなど身近な印刷物のコラージュ作品。
《メモリー Ⅲ》 1971年
少し趣の違うコラージュ作品で、馬券と出走表を貼り合わせてできた幾何学模様が面白いです。
《作品F》 1969年
ペインティングとコラージュをミックスした作品。赤のインパクトと曲線のリズムが良い感じです。
《Untitled》 1970年
シルクスクリーンで転写した図像と描画を組み合わせた作品。
古びた色彩、イメージの反復と転写のネガポジの使い分けが面白いです。

陶の立体作品

チラシや新聞、紙袋や段ボール、漫画雑誌や週刊誌など、日常的な紙製品をほぼ実物大で再現しています。

《Paper Bag E-6》1974年
《Paper Bag E-S4》1977年
《Paper Bag E-7》1980年
《Paper Bag E-S1》1977年
《Package '78》Bottle & Box 1978年
《Box Orange 19》2019年
表面の汚れた感じとか、陶でできているとは思えないくらい段ボールの再現性がすごい。
《Box Orange 19》2019年(部分)
2000年代の作品になると細部の表現がさらに進化しているのが分かります。
《Notebook '80》1980年
古びたノートブック。これだけ年季が入っていると中に何が書かれているのか気になります。
《Comic Book '80》1980年
漫画雑誌の紙の色が懐かしい。
ページの中身までしっかり転写されていて、思わず細部まで観察したくなります。
《FOCUS 91》1991年

陶と廃材の組み合わせ

印刷物で情報を得ていた時代は情報の量が物理的なゴミの量に直結していました。
三島の問題意識は次第に情報からゴミそのものへ移っていき、環境への意識を高めていき、段ボールや空き缶など身近な廃棄物を陶で再現した作品の他に、鉄くずや廃材などを組み合わせた作品などが制作されるようになります。

《閉じ込められた情報B》1989年
《閉じ込められた情報C》1989年
チラシや新聞紙が詰め込まれたコンクリートの柱のような姿がゴミの最終処分場を連想させます。

制作に欠かせない陶土も有限の資源であることを知ると、産業廃棄物を1,400度で焼成して生成されるガラス状の粉末である「溶解スラグ」と陶土を混ぜた土を制作に使用するようになりました。

参考出品されていた実物の溶解スラグ
《Comic Book 03-1》2003年
《Comic Book 03-2》2003年
《Comic Book 03-3》2003年
溶解スラグで制作された巨大な漫画雑誌。風雨で汚れた紙の感じが、過去の日常で見たことがある道端に打ち捨てられた漫画雑誌の記憶を呼び起こします。
《Work 21-G》2021年
《Work 92-N1》1992年
実際の廃棄物と陶を組み合わせた作品。陶製の新聞紙が詰め込まれたブリキ缶。

《Work 86-B》《Work 21-B》には陶が使われていません。一部転写は使われていますが、廃棄物を組み合わせて作られた立体作品です。
美術作品としての強度というか、その造形の美しさに驚きました。

《Work 86-B》1987年
《Work 21-B》2021年
《Work 22-P》2022年
この展覧会で最も新しい2022年の作品です。
木や鉄、アルミと陶を組み合わせた廃棄物の山。雑然としているようで、一つ一つ素材の配置がきちんと整理されている印象を受けました。

20世紀の記憶

展示室一面に敷き詰められたレンガブロック、その数はなんと1万個余り。
広大な情報の海が目の前に広がっています。これまで見てきた作品とは異なる雰囲気が漂う大型インスタレーション作品です。

《20世紀の記憶》1984-2013年
《20世紀の記憶》部分
使い古した耐火レンガブロックの表面には三島が20世紀の100年間の新聞から切り抜きした記事が転写されています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?