マガジンのカバー画像

いくつかのショートストーリー

11
さらりと読めるお話です。 超短編小説/ショートストーリー/ショートショート
運営しているクリエイター

#超短編小説

メタフィクションのふたり

 ある診察室にて。
 「どうぞ」
 医師の合図のあとに一人の男が入室する。
 「失礼します」

 医師、男が座るやいなや言葉を投げかける。
 「灰色の猫」
 男は何のことだか分からずキョトンとする。
 数秒の沈黙が続いた。医師はなぜか心が放り出されたような、虚しい表情を浮かべていた。
 医師は気を取り直して男に訊く。
 「本日どうされました?」
 「えーっと、ずっと誰かから見られているような気がす

もっとみる

L地区の拠点にて

 「爆発音が聞こえたあと、様子を見に行ったら、皆死んでたんだ。」
 憔悴している様子で男は訴える。
 「いや、嘘だ。爆発音なんかしていない。俺が見に行ったら、コイツが死体のそばに居た。」
 小部屋の真ん中に置かれた机の前で、キリエ達は黙って話を聞いていた。事故について聴き取りをするためだった。
 「違う! 俺はコイツと一緒に死体を見つけたんだ。爆発音は一緒に聞いたはずだ!」

 「分かった。汚染が

もっとみる

記憶を消してくれる薬

 「黒歴史や恥ずかしい出来事を思い出して叫びたくなることってありませんか?」そんなふざけた広告に釣られてオンラインで買ってしまった。
 そう、巷で流行っている、記憶を消してくれる薬「オブリビオン錠剤」である。
 朝、郵便受けに取りに行くと、さっそく薬が届いていた。
 私は開封して中の説明書に目を通した。それによると、自動的に脳の悪い記憶をターゲティングして消してくれるらしい。ただ、効果が現れるまで

もっとみる