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お笑い変態兼データマーケターとして見るM-1グランプリ2023決勝

久しぶりのnote更新になります。
元々お笑いは好きだったんですが年々お笑いが好きになり、今年のM-1予選は3回戦をYouTubeで、準々決勝東京1日目を配信を買って、準決勝はライブビューイングを観るために半休を取り浦和の映画館にわざわざ行くなどお笑い変態度が増した気がします。
もちろん決勝も敗者復活からしっかり観ましたが、酒を飲みながら観ていたため例のごとく後半ベロベロになってしまったので、TVerでもう一度ちゃんと見ました。

一応昼はデータマーケティングの仕事をしているので、軽くデータの視点も踏まえながらM-1 2023を振り返っていきます。


【M-1を取り巻く状況の変化】


エントリー数が過去最多の8540組。
多くの芸人が口にするのは、「レベルがどんどんあがっている」と。
2018年霜降り明星、2019年ミルクボーイのような歴代でも伝説クラスのネタは直近3年なかったですが、17年以前の決勝では時々見られた明確にレベルが落ちるネタは少なくなり、予選の3回戦でも実績組が続々と脱落するなど、M-1で求められる笑いを芸人が研究し、競技化傾向が強まっていると見ています。

若い

プロモーションも年々力が入ったものになり、決勝に向けて、長く太く熱狂をつくるように進化している。また、YouTubeやXなどで芸人の熱い想いを見ることもでき応援の熱も増す。ベテラン芸人がネタを分析する動画や審査員が採点基準を語るなどお笑いを科学する面も強くなっている。TVの視聴率自体は伸びている訳ではなく、TVer視聴を含めても間口が大きく広がっていると思わないですが、コアなお笑いファンの熱は高まっているなと。予選からしっかり追いかけるお笑い変態が増えている。そんな風に思います。(自分も含めそういう一般人がお笑い分析をし、ウエストランドにディスられる。)

スーパーマラドーナって今何の番組でてるんや


【予想の振り返り】


準決勝を観た上で、順位予想は以下でした。
1位:モグライダー
2位:真空ジェシカ
3位:ダンビラムーチョ

〈理由〉
・準決勝のウケは、モグライダー、ダンビラムーチョ、さや香、真空ジェシカが抜けていた。シンプルに面白い。
・決勝の1本目は、基本的に準決勝か準々決勝のネタと同じ。
・真空ジェシカのZ画館は準々決勝で断トツ1ウケ、準決勝もZ画館で恐らくこれが今年の勝負ネタ。決勝でもやりそう。外さないはず。
・モグライダーはネタの作り的にともしげのポンコツキャラが認知された今こそ2021年より跳ねる。ネタも作りやすそうだし、同じレベルの強いネタを決勝で2本だせるはず。
・ダンビラムーチョはホームランか三振か、ホームランに期待。ただ最終決算ではキツいか。
・さや香は安定感抜群も、新山の前のめり感が微妙に上滑りする方向に向いて、僅差で落ちるか。

といった準決勝の出来を重視した予想でした。結果は大ハズれ。

今年はこれまになくM-1を追い続けてきたからこそ見えた、明暗を分けたポイント、そして今後も傾向として続くであろうポイントに触れていきます。

【1stラウンド結果概観】


下表は今年の決勝1stラウンドの各組の得点表です。
平均は約640点。最高はさや香のエンゾの659点。

2023決勝 1stラウンド得点表(ネタ順)


年度で比較してみると(下表)、平均点も低め~標準、最高得点も低め、標準偏差は小さめ。つまり、絶対的な点数は全体的に出にくく(出ず)、大ハネしたコンビもおらず、接戦傾向にあったという見方ができます。
※2018年がM-1のレベルが一段上がった潮目だと主観として思うので、2018年から見ています。

2018-23 決勝1stラウンド 平均/標準偏差/最高得点


2018年以降、平均点が640点を下回ったのは、2018、2020、2023。
ただ、その3年のネタ順の得点(の推移)を比較すると、2023年(赤)と2020年(黄)の波形が近く、中盤までに盛り上がりがあり、終盤は高得点が現れない年度です。
2018年(緑)の⑨霜降り明星⑩和牛でラストに跳ねた年とは、明確に異なる形であることが見えます。

ネタ順での点数推移 年度別比較


決してレベルが低い年ではなかったと感覚的には思いますが、音楽ライブでも格闘技でも飲み会でも最後よければ読後感がいい、逆に言えば最後悪ければ印象は落ちるように、見てる側としてはクライマックスに向けてやや消化不良感もあったのが今年かなと。全体的にお客さんの空気は重そうでした。
前半面白く、後半も期待できそうなメンバーなのにいまいち爆笑しきれなかった感じ。


準決勝で特にウケていたモグライダー、ダンビラムーチョ、さや香、真空ジェシカも悪くない出順で準々決勝・準決勝と磨いた同じネタを披露。さや香はさすがの制圧力で1位通過でしたが、他の3組は振るわず。モグライダー、真空ジェシカの得点発表後の結果を受け止めきれない様子、決勝終了後のインタビューからは、相当自信があり決勝の出来も悪くなかったのに案外だったなというやりきれない悔しさが見えました。

ネタ時間は4分12秒と短くなかったが
確かにどこか物足りなかった


わざわざ12/24に決勝を現地まで観戦しにいく『普通ではないお笑い変態のお客さんの反応』、『審査員がつける絶対的な点数の大小』が”相互”に左右し合い、大会の場の雰囲気を作り上げていく。その雰囲気の微妙な変化がネタのハネ具合に作用し、準決勝と同じネタであっても異なる結果をもたらしていく
と強く感じました。

審査員の採点視点、現地のお客さんの視点の順に触れていきます。


【審査員視点】~松本人志と他審査員の点がリンクしない異例の年、審査員泣かせの最強トップバッター令和ロマン~


みなさんが一番採点が気になるのは誰でしょうか?
誰の採点と自分の感覚がリンクしていたら嬉しいでしょうか?
だいたいの人は松本人志の採点ではないかと思います。
芸人としても一番気になるのは松本人志が入れる点のはず。
下は、各審査員がつけた採点と、7人の合計点との相関係数を見ています。

相関係数が大きければ「その人からの点が高いとき審査員7人計での点も高く、その人からの点が低いとき審査員7人計での点も低い」※1が最大

2018年以降審査員を務め続けている4人の採点と
審査員7人の合計点の相関

事実、過去5年松本人志の点数と、審査員計の点数は最も相関しており、特に2018.19.21年は相関が強い。M(松本人志)-1レベルです。ちなみに、マヂカルラブリーやおいでやすこがで漫才なのか漫才じゃないのかが勃発し採点への疑問がネットで問題となった2020年はやや相関が低め。

松本人志が日本の笑いをつくったから、TVの前で見ている一般人が好きな笑いも芸人が目指す笑いも松本ナイズドされていることの表れに見えます。中田のあっちゃんが物申したように。

しかし、今年は審査員7人の中で松本人志の採点が、審査員計の採点と最も相関していない。(相関係数0.67)

2023年
各審査員の点数と7人の点数計の相関

松本ランキングと、審査員計でのランキングは大きく異なっています。

審査員計でのランキングと松本人志採点のランキング


自分も松ちゃんが大好きなので、松本人志の講評と他審査員の採点発表時の松本人志の表情に注目していました。
さや香への「令和ロマンは超えてないと思う」というコメントと他審査員から高得点が入る中驚いていた様子、真空ジェシカへの「これで落ちるんかあ(面白いと思ったのに)」と残念そうな様子が特に印象的で、周りの審査員の感覚と自分の感覚の差を今大会は感じているようでした。

また、松本人志は採点で差をつける(同じ点数をいれない)傾向が強い審査員ですが、今年は91点と88点で2組ずつ被る結果に。これも異例です。
毎年の発言から、1組目と比較してどれだけ良かったかで1組目の点数から上下させるスタンスを順守する、雰囲気に流されない真摯な採点スタイルを貫いているのが松ちゃんです。

今年は2組目のシシガシラに1組目の令和ロマンより2点下をつけましたが、そこの差を小さくつけすぎてしまったのかなと。結果として、その後の組の点数の置き位置に苦心した印象です。

基本1組目は90以下で後続組の上下幅は残すスタンス

そんな松本人志が採点に悩んだ(であろう)今年、審査員全員の採点を難しくしたのは、トップバッターの令和ロマンだと思います。
松本人志が令和ロマンに言った「一発目でこんだけおもろいのは審査員泣かせ」とコメントが印象的です。

1stラウンド計10組において、トップバッターだけは絶対評価(っぽい)採点、2~10組目は相対評価採点になります。
トップバッターは、他と比較できないので様子見的な採点となり、点数が伸び悩みやすい。その後の組も比較しながらつけていくとは言え、トップバッターは基本的にはやっぱり不利です。

年度別トップバッター得点と全体平均

ただ、今年の令和ロマンはトップバッター史上最高得点の648点。
平均点をトップバッターが(結果として)上回った異例の年です。

1番手が令和ロマンと笑神籤で出順が発表されたときは令和ロマンきついなあと思ったけど、トップバッターを感じさせないぐらいめちゃくちゃ面白かった。
3回戦と準々決勝は100m走、準決勝は猫の島のネタでしたが、そのどちらでもないネタで来た。後のインタビューでわかりましたが、トップバッターであることで、大会自体を盛り上げようとも思い、ネタを予定から戦略的に変えたとのこと。初の決勝なのに恐ろしい余裕とメタ視点。
30秒前後と長めの掴み、お客さんに語り掛け一体感を生むようなパート、「これおもしろくないから変えるわ」と意表をつきながらこれもお客さんと一体となるようなボケ
、元々こういったネタかもですが出順で微妙に調整したんじゃないかな。大会後芸人が口を揃えて令和ロマン恐ろしいと言ったのも頷けます。

可愛げがないぐらいの落ち着き

会場もあったまっていない中破壊的に面白かった令和ロマン、審査員に釘を刺すような松本人志のさや香への講評。
最高に面白いけどトップバッターだから絶対的に超高得点はつけられないがゆえの648点。そこを基準にすると後続の組も660点以上の超高得点は出ない(出せない)。
今年は、2022さや香や2021オズワルドのような超高得点が出ないぞといった緊張感がお客さんのやや重い雰囲気を作っていきます。


【お客さん視点】~準決勝ウケ組への期待値が高い目の肥えすぎたお笑い変態のお客さん、実は大会を左右する2番手のシシガシラ~


逆に、お客さんのウケの大小が、審査員の評価にも影響を与えていく。

お客さんのウケの大小ではなく審査員が自分自身の感覚を重視するのがよいのか、お客さんのウケも含めて審査するのかどちらがいいのかはわからないです。ただ、各審査員から「もうちょっとウケてもよかったかなあ」というコメントが出ていることを見るに、審査員も会場のウケをどこまで考慮するか揺れていると思います。そして少なからず影響がある。

下票は、2018~2023年の各出順の点数と、平均点との相関を見たものです。

年度別の各出順の得点と、大会平均点の相関

意外にも、2組目の点数と平均点の相関が大きいことがわかります。
なので、2組目の点数が高い年は全体的に点数が高く、2組目の点数が低い年は全体的に点数が低いと言えます。
1番相関が高い出順は中盤の6組目で、なんとなく中盤の盛り上がりとして納得が行くと思いますが、2組目が全体平均点と相関が高いのは意外ではないでしょうか。2組目がペースメーカー的な存在と言えます。
1組目はお客さんも審査員も硬いが、2組目からは少し肩の力を抜いて見ることができる。だからこそそこで弱いネタ(組)だと、雰囲気はまた硬くなる。逆に言えば2組目が2019かまいたちUFJのようにハネれば大会も最高に盛り上がっていく。

YouTubeおもんないのどうにかして


今年の2組目は敗者復活組、ハゲネタで貫き通すシシガシラ。
敗者復活のシステムは今年からかなり改善されたなと思い、大きな違和感がある審査ではなかったですが、うーん、個人的にはヘンダーソンかナイチンゲールダンスが好きでした。シシガシラはハゲネタで誰にもわかりやすいですが爆発し得るようなパワーがあるコンビでもないので、2番手としてウケきれなかった。結果として大会の全体の雰囲気も硬くなったかもしれない。ヘンダーソン、ナイチンゲールダンスはノリで会場を持っていけるパワーが比較的あるので、敗者復活の結果が変われば決勝の結果も変わったのではないかと思います。ヘンダーソンで見たかったなあ。とにかく声デカいしラストイヤーにかける意気込みからくるネタの圧が良かった。

狂気を感じるぐらいの圧が良かった

準決勝ウケがトップだったモグライダー、真空ジェシカ、ダンビラムーチョに目を移して大会を見てみます。中でもモグライダー、真空ジェシカは予選のネットでの評判も高く、またTV番組にも出ており多くの人からの期待値が高かったと思います。ただ期待値が高すぎた。特に会場のお客さんの期待値が高すぎた。3回戦、準々決勝、準決勝をチェックしている変態のはずなので、予選と同じネタであればネタを知っている。
3組が持ってきたネタは準々決勝、準決勝と磨いた同じネタでした。

お笑いの配信をお金を払って見ることも広がり、またSNSでウケの評判も出回るようになり、かつてより、現地のお客さんは予選のネタや前評判をインプットした状態で来ていると思います。お笑い変態すぎるんですよね。

準々決勝時点で真空ジェシカのZ画館を初めて見ましたが圧倒的で、個人的にもベストに好きなネタだったので、これは今年真空ジェシカ優勝あるなあと思っていました。ただ準決勝も同じZ画館で観るのが初ではないので、初回の準々決勝ほどの感動はありませんでした。とは言え最終3組に残ると思ったんだけど。

決勝に合わせて川北がちょうど禿げてきたのも優勝を予感させた

少しそれますが真空ジェシカ恒例の掴みを準決勝か準々決勝から「呪物オラクルと呪物コレクター」に替えていましたが、3回戦の掴みのほうが良かったなあと。真空ジェシカは知識・記憶の隅をつつくようなボケが魅力ですが、川北の呪物コレクター感はわかるものの、ガクが呪物に似てるのは誰がわかるねんという。ただ、それも川北らしいボケです。

ガク似とされる呪物オラクル、誰が知ってるねん


話を戻します。
お客さんのお笑い変態化が進んだ中、特に期待値が高い決勝複数目の出場組は、予選と同じネタでは期待値を超えるのが難しいと感じました。
ありえない話ですが、準決勝まではお客さんを入れずライブ配信もしない形であれば結果は全然異なるはず。


今後は準々決勝以降同じネタで行くスタイルはやや厳しいのかなと。
戦略的に予選からどのネタを出していくか、明かしていくか考える必要があると今大会の結果を受けて強く思いました。

令和ロマンは出順もありネタを3回戦、準々決勝、準決勝のものと替えたことが功を奏したように思います。あれだけ強いネタを複数持っていることが恐ろしい。


【最後に~来年注目コンビ~】


今年は予選からしっかり観たことで、新しい決勝の楽しみ方ができました。
来年はM-1に限らず普段の劇場のネタももっと観に行こうと思います。

昨今のM-1の夢や感動に偏重気味なストーリーブランディングに食傷気味だったので、令和ロマンがさくっと平気な顔で優勝したのは個人的に良かったです。もちろん感動もいいのだけど。

あと触れたいのはマユリカ。ラジオが最高に面白く、ヨゴレの中谷を阪本がいじめつづける可愛いキモダチな2人が聴けるのでぜひ聴いてみてください。YouTube、Spotifyで聴けます。


来年の注目コンビとしては、エバースを推します。
正統派しゃべくり漫才で、強いネタを何本も持っている。応援しています。

まあ再来年が勝負かも


世の中にお笑い変態が増えることが決勝の結果に大きな影響を与えるのは考え物ですが、身の回りで増えるのは嬉しいので、少しでもお笑いに興味を持ってくれる人がいたら嬉しいです。(ここまで読んでくれた人はお笑い変態の才能があると思います。)

よいお年を。




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