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宿屋徒然3 共有スペース

共有スペースについて 1


リノベーションに伴って、共有スペースが増えました。共有キッチン、ラウンジ、広めの廊下に椅子が置いてあるスペースもあります。
「共有」という言葉に明るくポジティブなイメージがついたのは、2010年代入ってからでしょうか。バイクシェア、カーシェア、衣類シェアなど、便利なサービスも増えました。

共有スペースが増えたことで、多少なりともポジティブなイメージの恩恵にあずかっているのは、有難いことです。ですが計画策定時にそういうイメージを想定したわけではなく、あくまで実務的に希望を出しました。

特にキッチンは、以前、「自分で食事を用意するから貸してほしい」というお客様が何人もいらしたからです。主に海外の長期旅行の方でした。退職後に身軽な荷物で、1年に一回、人によっては数回、数週間から数カ月の旅行をされる方々がいらっしゃるのを、この仕事についてから知りました。一日3食旅先で豪華な食事や食べ慣れない食事を続けたら、身体を壊してしまうので、朝は簡単にすませ、1食は旅の食事、1食は自分で野菜スープや慣れた簡単な食事を作る、というような方々です。

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退職後に新たな世界をまだまだ見てみたい、という好奇心と、食事に気を配り、疲れたら休むという、自己管理をしつつ旅を楽しむ姿がかっこよかったのです。日本でも、住居のサブスクサービスなど「暮らすように旅する」「旅するように暮らす」ことを試せる機会が増えてきましたね。

家や職場、地域での自分も、自分。移動しながら普段とは違う景色を見て、新しいことを吸収していく自分も自分。足場のある暮らしの時間と、移動する時間。どちらか一方ではなく、どちらも人生の一部。そういう生き方を、移動距離0m、生まれ育ったこの場所で知りました。

今が変化の時代だとわかるけれど、この先どうなるか不安。な方も多いかと思います。自分の世界を少しだけ拡げる練習として、もしくは今までとは変えてみる、定型から少し外れることを試す機会として、旅先で簡単な食事を作ってみること、お勧めします。純粋に自分を労わるための食事は、日常ではあまりないことに気づくかもしれません。


共有スペースについて 2


リノベーションに伴って、共有スペースが増えました。2階のラウンジは、和室を一つ潰して出来たスペースです。今は10人用宿泊部屋となった、大広間の横です。

2階_ラウンジ~大広間

旅館なので、学生さんの合宿やグループ利用も想定しています。大広間に選手さんが泊まって、2階きくの間に指導者の方が泊まって、ラウンジでミーティングしてもらえるかな、  
サークルで大広間を利用するけれど、早く休む方も遅くまでスマホを見たい方もいらっしゃるかな、と、主に大広間の外付けリビングのように考えました。

もちろん大広間ご利用の方だけではなく、どなたでもご利用いただけます。真ん中には大きなリバーテーブルが置いてあります。奥の畳の小上がりには、胡坐をかくための椅子(IDEE POD / イデー ポッド)もあります。いつの間にかスタッフが持ち寄った本などもあり、お風呂は男女別々なので、ここで仲間を待ったり、食事のあとお茶を飲んだりされている方が多いように見受けられます。

胡坐

旅館はお風呂に行ったりトイレに行ったり(当館は、トイレも共同です)、部屋から出る機会が多く、そこがホテルと一番違うところです。今日はどういう人が泊まっているのか、この施設はどういうお客様が多いのか、ちらっと見てしまう…ものですよね。

こんなに共有スペース作りました、と言っているのに何ですが、当館は「交流」は目的にしていません。単に私が公園とか広場とか、ああいう場所が好きだという個人的な理由です。

一定の振る舞いが相応しい場所、もしくは期待される場所というのは、世の中に沢山あって、その(暗黙の)ルールがあるから、社会は気持ちよく保たれているのでしょう。でも公園や広場にいると、「○○でなくてはいけない」事から解放されている気がします。というより、自分はそういう気分になります。だから、自然と生まれる会話は別として、「交流」の圧からは解放されていてほしい、と思いました。

どんな気分で旅に出ているかは、ご本人にしかわからないのですから。
明るく楽しい旅もあれば、修復の旅もある。お客様ごとにご事情が違います。知らない人と場所を共有しているうちに、世界と自分の折り合いを調整してほしい…そういう願いの共有スペースです。


(つづく)

休んでかれ。