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あの年、クリスマスマーケットで。

引っ越してきた10月、早くも富山は寒かった。家具家電も揃っていないので、薄い寝袋をフローリングに敷いて、そのまま寝た。真っ白な平面の壁は、年季が入ってその分だけ暖かみがあった。でもそれだけで。とにもかくにも寒かった。私は太平洋側で生まれ育ったのである。

しばらく経つと、祖母から小包が送られてきた。そういえば新居の住所を伝えていたかもしれなかった。小さい割に案外どっしり重かった。それもそのはずで、ドイツ製のマグカップが2つ入っていたのだ。もうとっくに捨てた、あるいは捨てられたと思っていたので、ドイツのクリスマスマーケットで買ったそのマグカップたちと再会できるなんて夢のようだった。寒かったけれど、どうしようもなく暖かかった記憶。

ドイツはそんなに寒いの?と聞かれると、地図を見せて説明したくなる。土地全体が北海道より北だと思ってもらうといい、おまけに滞在先はアルプス山脈の影響をしっかり受けて、南とはいえ北ドイツより実質寒い土地だった。ホワイトクリスマス、の響きがロマンスと共に想像(創造?)されるのはその人が暖かい地域に住んでいるからではなかろうか。脳髄をキンと刺す冷気、眼球も凍るような空気が、遠慮を知らずに耐えず身を包む。おそろしいほど寒かった。唇は紫だ。ああ太平洋か、地中海に行きたい。

そうした寒さに半年ほど悩まされながら、それでも、いやそれだからこそ12月は特別だった。クリスマスマーケットのあの活気。店頭にぶら下がっているのは可愛いけれどへんてこな味のレープクーヘン、湯気の見えるような焼きアーモンド、飽きずにどこにでもあるジャガイモ料理、それから地域によって異なるマグカップに入っているグリューワイン。友人は行った先のマグカップを全種類揃えるために、グリューワインを飲んでいた。赤ワインにオレンジピールやシナモン、クローブなどの香辛料、砂糖やシロップを加えてぐつぐつ煮込むのがグリューワイン(Glühwein)だ。

ボトルで赤ワインを頂いたタイミングで、自宅でも作ったことがある。ちょうどあのときのマグカップもあったから。といっても、スパイシーな風味を再現するのは難しい。なにか再現しやすいクリスマスマーケットの名物ということで、では焼きアーモンド(Gebrannte Mandeln)はどうだろう。南ドイツやオーストリアで見かけた、とんがり帽子にズラーっと入れられたあの焼きアーモンドなら。


自宅でも旅館のキッチンでも作りやすいクリスマスマーケットのご馳走、こんな時だから焼きアーモンドを作ってみた。

あなたも、お試しあれ。

スタッフJ


休んでかれ。