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死の翼ふれるべし

 立ち並ぶ煙突が薄暗い煙を吐いていた。

 煙は一団となって宙を流れる。その一部は空に薄く広がって月を隠し、一部は寝静まった家並みの屋根の上に垂れ落ちる。工場地帯の西には名だたる探偵たちが葬られたピラミッド群の天を衝く威容があり、煙はその中腹に当たって二筋に分かれる。煙から突き出た先端部だけが月光を浴びて輝いている。

 ピラミッドのふもとは、一帯が背の高い生け垣で仕切られた迷路じみた庭園になっていた。その街路に面した門の前に、二人の若い男がさりげなく、しかし人目を忍びながら歩いて来る。すかさず門の陰から別の若者が現れたが、こちらは驚いたように動きを止めた。

「マック! そいつは誰だ?」待ち構えていた男が言った。

「俺だよ、ベイリー。ジャックだ」常夜灯の光の下に進み出た男の顔は蒼白で、目に生気がない。ボロボロの毛皮のコート姿だった。

 男の姿を見たベイリーはうんざりだ、と言う風にかむりを振った。

「なんでこんな奴を連れてきた! クズのジャンキーだろ」

「薬をやめたんだ」マックが許しを乞うように言った。「仲間に入れてやってくれ」

「だめだ」

「頼む」静かに声を荒げたベイリーに、ジャックが力ない声で言った。「この暮らしを脱け出したい」

 ベイリーは悪態を吐き、辺りを見回した。ロンドン有数の観光地として知られる庭園だが、閉園後ともなれば周囲に人気はない。だがどこにシャーロキアン秘密教団の目が光っていないとも言えなかった。

「もういい、行くぞ。警報は切ってある」ベイリーは二人を促し、門をよじ登って超えた。彼らの目前には迷路の入り口がある。その先には馬鹿げた大きさのピラミッドが。

「いいか。俺の言うことをよく聞け」ベイリーは二人に背を向けたまま言った。「どの墓にお宝があるかわかってるのは俺だけだ。俺には祖父の遺した手帳があるからな。祖父の名はJ・H・ワトソン。死んだ後もホームズの助手をするよう、生きたまま殉葬されちまった」

【続く】

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一体何をどうしようというのか。

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