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プログレッシブ・ロックは音楽の帝王学だ この先1000000年残る

 この世にカッコつけのないロックバンドは存在しない。当たり前と思われるかもしれないが、ロックをやろうというミュージシャンは多かれ少なかれ自分がカッコよいと思ったことを世に向けて発信している。媒体はなにも楽曲に限らない。ルックスであったりインタビューでなされる発言であったり、時と場合に応じてさまざまだ。

 さて、ここに楽曲、ルックス、思想創作など、ありとあらゆる方向に対してカッコつけを極めたバンドの一群がある。彼らの志向はシンプルだ。「先進的なことはカッコいい」である。バンドは既存のロックと、クラシックやジャズ、果ては現代音楽とを融合させ、ジャンルの垣根を越えた楽曲を続々と産み出した。中には自分達の音楽性に合った言語を創作したバンドや、ライブの際楽曲ごとに曲のテーマに沿ったコスプレをして演奏したバンドもいる。彼らが志したのは、言わば音楽の帝王学だった。ロック全体を前人未到の領域へと推し進めたこの集団はプログレッシブ(革新的)・ロックバンドと呼ばれる。

 この記事はTwitter上で行われている投票企画『オールタイムベストプログレソング』(#ATBプログレソング)に触発されて書いたものだ。基本的には自分が選出したベストプログレ楽曲を中心にプログレの名曲を紹介する 。断っておくと、この記事はプログレ初心者向けに書くつもりでいるので、例えば「カンタベリー一派に属するミュージシャンの関係図がそらで書ける」だとか、「アラン・ホワイトのドラムには前々から一言物申したいと思っていた」みたいなプログレファンはあんま相手にしてない。もっと言えば初心者向けという割にはいわゆる定番どころ、大御所とされる一部のバンドについても触れる予定がないので、プログレ裏口入学的な気持ちで読んでもらいたい。

・よくあるしつもんコーナー

マイク(プログレ初心者):プログレを聴くとモテますか?

A.モテません。しかし、プログレを聞くということはロックの一つの到達点を垣間見ることに他なりません。さらにプログレは真の音楽を志すものたちによる真の音楽なので、永久に滅びることがありません。あなたは永久なるものの一部に触れ、永遠を肌で感じることができます。

マイク:わかりました

 つべこべ言うより曲を聞いてもらった方が早そうだ。というわけで自分のATBプログレソングからまずは一曲、イタリアのロックバンドCervello(チェルヴェッロ)の唯一作MelosからMelosを聞いてもらいたい。

Cervello - Melos

 聞いてもらえるとよくわかると思うのだが、とにかく異様に落ち着きがない。一つ一つの展開は非常にドラマチックで、あますところなくエモーショナルなのだが、それを矢継ぎ早に繰り出してくることで真性の情緒不安定が滲み出ている。特にこの耽美とはほど遠い呪いみたいな男声コーラスと言ったら、どうだ。アウトロを飾る急ブレーキみたいなギターソロが禍々しすぎる。これがプログレだ。

 一口にプログレバンドといっても得意とする作風によって色々ジャンルが細分化されていたりするのだが、この記事ではいちいちジャンル分けを行わない。なぜなら当事者たちは自分がどのジャンルをやっているとか、別に考えてないはずだからだ。もっともこれはどの音楽ジャンルにしてもそうだと思う。

 そもそもプログレというカテゴリ自体定義が定まっておらず、曖昧なものだ。世間で言うプログレのイメージはテクニカル、難解くらいのものであり、これは言うなればプログレというジャンルがその時代時代で一番先を行っているバンドに対するチャンピオンベルト的なタイトルであることを意味している。

Yes - Siberian Khatru

 Yesはプログレ全盛期の1970年代においても、紛れもなくチャンピオンと呼べるバンドだった。ジョジョのアニメのEDに代表曲のRoundaboutが起用されたことは記憶に新しく、あのときはマジに度肝を抜かれた。流石チャンピオンと言うべきか、未だに根強いファンが多い。

 Siberian Khatruはプログレのオールタイムベストと聞いて真っ先に思い浮かぶ曲の一つだ。イントロから切り込んでくる歯切れの良いギターが良い。続けて来るのがキーボードとベースのフレーズだ。これが圧倒的に「冷たい」。題にもシベリアとあるように、聴いていて思い浮かぶのはまず雪原の景色だろう。Melosと同じく、ここでもやはりプログレの音には力強いエモーションが伴っているのだ。

・よくあるしつもんコーナー

マイク:Khatruってなに

A.Khatruです。

マイク:わかりました

National Health - Tenemos Roads

 現代においてプログレ界と切っても切り離せないのが、打ち込みのゲー音すなわちゲーム音楽の存在だ。実際様々な有名ゲーム音楽家がプログレッシブロックからの影響を公言してはばからない。難解なプログレはふさわしい演奏のできるメンバーが集まるのを待つより、一人で粛々と打ち込みで作曲できる環境の方が熟成させやすいということだろうか。

 そんなわけで脚光を浴びたプログレだったが、ゲー音の音とプログレの音は奇しくも似かよっていた。と言うのも、プログレ勃興当時はまた電子音楽の黎明期でもあり、発明されたばかりのシンセサイザーが出す飾り気のない音像は8bit、16bitのチップチューンの音像と相通じるものがあったからだ。

 上記を踏まえて、National HealthTenemos Roadsを聞いてもらいたい。ともすれば飾り気のないムーグ・シンセサイザーの音は、ジャズを意識した抑制的な音と見事に溶け合っている。 メロディが抜群に良い。低音域を支えるベースのフレーズすら口ずさめるほどにキャッチーだ。その上さらにチップチューンの音楽を経た我々には楽曲とゲーム音楽をオーバーラップさせて、あらぬノスタルジーに浸る楽しみさえある。15分という長さをまるで感じさせない大傑作だと思う。

 プログレは一曲一曲にボリュームがあるので、いきなりドバッと出して「全部聞け」と言ったところで流石にだるかったり、情報の整理が追いつかなかったりするだろう。なのでこの記事はここまでとしたいが、最後に自分の選んだATBプログレソングのリストと、その中からオランダのバンドFinchParadoxical Moodsを掲載しておく。

 焦る必要はない。膨大な曲数を、膨大な時間をかけて漁っていけば良い。なぜならプログレは移り行く時代の中でその価値を失わない、100万年後まで残る音楽なのだから・・・・

Finch - Paradoxical Moods

 Finchは叙情派キーボードロックのマイナーポエット的バンド。前述のテクニカル、難解というプログレに対する世間のイメージに付け加えるとすれば、自分の考えるプログレらしさは極端な静と動の対比だ。Paradoxical Moodsにはよくそれが表れていると思うのだが、いかがだろうか。

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