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地龍VS事故物件

 結局のところ、誰も地龍には敵わない。歴史がそれを証明している。

 ある日突如として現れた怪物を前に現代兵器は軒並み歯が立たず、ついにこの国は巨獣に首都を明け渡すに至った。今日では地龍と呼ばれるこの個体は、ビルをなぎ倒して作ったねぐらに悠々と身をうずめている。吠え声は大地を揺るがし、戯れに尾で撒き上げた土くれが砂塵となって人々の疎開先に降り注ぐ。地龍はまさにこの世の王だった。

 今廃墟と化した東京を、猛烈な勢いで駆ける一台のジープがある。監視衛星によれば、地龍は8km先の渋谷センター街跡地で昼寝の真っ最中。見つかればこんな車は前腕の一撃でぺしゃんこ、そうでなくとも起きている地龍の側を通るだけでひっくり返ってしまうだろう。だがこの偵察にはそれだけの危険を冒す価値がある。

「ありました! ドットです! 前方右上!」荷台で双眼鏡を構えた男がだしぬけに叫んだ。ドット。この奇妙な存在に人々が気づいたのはいつのことだったろう。破壊された都市の空に、箱型をしたものが無数に浮かんでいた。それを紙に打った点に見立てて、ついた呼び名がドット。これまでその正体を解明した者はいない。

「松山さん、それ同じ方向にもう一個ない?」

 荷台の隅でくつろいだように座っているもう一人の男が言った。松山が緊張した面持ちで双眼鏡を向ける。「あります! 奥にもう一つ! 加納さんこれは……?」

「やはりね」加納が手に持った地図に視線を落として言った。そこにはかつてこの周辺で起きた怪異や心霊現象の情報が書き込まれている。「地龍と言えど高ランクの霊場は破壊できなかったか」ドットの出現箇所は、マンションやホテルの曰く付きの部屋があった地点とぴたりと重なるのだった。そして恐らくそれは未だ変わることなくそこにある。

 車内に警報が鳴り響いた。地龍が目覚めつつあった。後方から地響きが迫ってくる。

「行こう。十分だ」加納が嬉しそうな声を出した。「あれは使えるぞ」

【続く】

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