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絵本紹介を物語で。

これからの、いままでの


 名前は、多分「きた」って言う。ちゃんと分からないけれど、そうよばれている。そして小学校に通っていて、今、2年生だ。
 学校は好きだ。時々ドッジボールや野球で思いっきり遊べる。みんな笑ってる。何より給食がおいしいの何の。家じゃ時々、パンとか缶詰とか、大人たちの食べ残したお菓子とかお酒とか、給食とは全然違うものしか食べられない。とにかく給食の時間が大好きだ。作文も日記も、給食の時間の楽しさしか書けない。
 
 家にいる大人たちは、僕の親だと思う。寝転がって父親らしき人が食べ残してたスナック菓子を食べていたら、母親らしき人に足を蹴られた。
 「邪魔なんだよ、寝っ転がってんじゃねぇよ汚ねぇな」
こんな感じの言葉が降ってきたら、素早くどこかに逃げなければいけない。いつもお風呂場に走って行って大声で「ごめんなさい」を連発しながら泣き叫ぶことにしている。そうすることで、家の近所の大人たちが騒々しくなって、どこかの大人が訪ねてきてくれることがあるからだ。そして時々母親らしい人は、そのたびにとてもいい人になる。
 火曜日と水曜日は、あまりそういうことが無いけれど金曜日は怖い。お酒を飲み出すと、もう、言葉が降ってくる前に隠れていないといけない。それでも、酔っ払いながら怒鳴り散らして僕のお腹や背中を蹴ったり、髪の毛をつかんで床にたたきつけられたりする。父親らしき人も、僕にそうしたり、母親らしき人にも、同じようなことをする。
 子供って辛いんだ。みんな知っているんだろうか。
 だから学校が大好きだ。学校で生きたい。家にいたくないけれど、学校は「おうちにかえりましょう」と必ず言うんだ。何かが違うと思う、どこかが違うと思う。こんな痛い思いをして、何度も泣いて、逃げて隠れて、そしてお腹がすく。

 今日は学校で図書の勉強をする授業があった。大抵は読み聞かせだが本soそのものを説明してくれる時間でもある。本は好きじゃないけれど嫌いじゃない。授業だから読む。時々面白い。けれど今日は図書館司書の先生と、校長先生が教室に来て、こう言ったんだ。

自分が、そして自分のいる場所が楽しくなくて、つらくって、逃げ出したいと思ったり、自分のことを訳も分からず悪い子だとずっと思っているなら、この小さい本を、必ず見てください。そして、ここに書いてあることが少しでも当てはまるようなら、書いてあることをすぐ、やりましょう。
そして、そうじゃない子もこの本を、読んでおいてください。身の回りにこの本が必要だと思う子や、大人がいたら、そっとこの本を渡してあげたり一緒に読んであげたりしてください。学校の誰でもいいから、この本が必要な人がいたら教えてください。必ず、皆さんを守りますからね。

何を言っているのかがさっぱり分からなかった。
休憩時間、先生が置いていった小さな本。誰も見ていなかったので僕は誰よりも一番にこの本を開いた。

なんだよこの目が3つあるやつ。
でも面白いな、大人の生息地っていうページ。

そして、分かった。この本は僕のための本だった。
昨日髪の毛を掴まれてまだ少し頭がいたい。このまま本を持って僕は校長室に行った。

校長先生は厳しい顔をして、保健室へ連れて行ってくれて寝かせてくれた。厳しい顔だったけれど、僕は先生が怖くなかった。

 もう帰らなきゃいけない時間はとっくに過ぎていた。けれど校長先生は「今日は家に帰らずに、この先生と一緒に別の家に行こう。きた君を助けたいんだ。だから言うことを聞いてくれるかい?ご両親には先生たちがお話をしておいてあげるから何も心配は、いらないからね」と、違う学校の先生についていくように、僕に言った。校長先生の後ろにたくさんの大人たちが集まっていた。怖かったから、新しい先生の手を握っていた。
 若くてかっこいい、新しい先生は「しょういち先生って、呼んでね」と言った。大人が笑っているのをしっかりと見たのは、初めてかもしれないと思うくらいびっくりした。僕の心臓が泣き出した。
 
 しょういち先生と一緒に帰った学校みたいな建物には、僕と同じ学年っぽい子の持ち物が、部屋のあちこちに置いてあった。僕はへんな言葉をしょういち先生に言った。

「ぼく、たすかった。」

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