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ヒジャブの下は・・。

 3,4年くらい、同じ町に住んでいたシリア人家族に日本語を教えていました。ちょうどシリアの内戦が激しくなった時で、日本でビジネスをしていたシリア人のMさんは、奥さんと子供3人をシリアから呼び寄せたのでした。

 7月の終わの蒸し暑い朝、Mさんに案内されて公団の5階まで息を切らせながらたどりつくと、真っ黒のヒジャブを頭からかぶった、美しい顔立ちの女性が迎えいれてくれました。「my wife」とMさんが手短に紹介しました。浅黒い肌のMさんとは対照的に、まさに透き通るような白い肌です。
 私が唯一知っているアラブ語で「アッサラーム、アレイコン」と言うと、奥さんは軽く微笑んで挨拶を返してくれました。そしてその横から、お母さんにそっくりの大きな目、そしてお父さん似の褐色の肌をした女の子があらわれ「こんにちは」と日本語でいい、続けて、色白で栗色の髪をした小柄な男の子も恥ずかしそうにでてきました。
 レッスンが必要なのはこの男の子で、それから約2年半くらいほぼ毎日家庭教師をしました。それについてはまた後で書くことにして、今回はMさんの奥さん、Hさんのことを書こうと思います。

 Hさんがヒジャブをかぶっていたのは最初だけで、次に会ったときにはY君と同じ栗色のやわらかいウエーブがかった髪に胸の大きくあいたTシャツ姿でした。「ふわー、きれい・・色っぽい~」と思わず口にしそうになるのをこらえましたが、つい目が豊満が胸元に釘付けになってしまいます。
 私がもし男で奥さんがこんなに色っぽく露出の多い服を着ていたら、イスラム教徒でなくても、「ちょっとなにか上にはおってなさい」と言いたくなるに違いありません。

 ちょっと話がずれますが、末っ子のRちゃんは服を着ていられない子で、レッスン中に近くにやってきては、にこにこしながらおもむろに服を一枚一枚ぬいで、しまいにはパンツまで脱いですっぽんぽん(!)になってしまうのです。1歳半の赤ちゃんだから色っぽくもなんともないのですが。2番目の女の子はさすがに服を脱ぎだしたりはしないものの、みじかいスカートで恥ずかしげもなく足を広げてパンツが丸見え。これじゃあ、きびしい戒律が必要かも!?と思ってしまったり・・。

 さて話はもどり、Hさんのことですが、Hさんは最初の物静かでミステリアスな印象とうってかわって、「I ♡NY」なんて書かれたTシャツ姿でシリアのメロドラマを見ながら家事をするという明るいフツーのママと言う感じで、日本語が話せなくてもほとんどのことは「だいじょぶ」の一言ですましてしまうたくましさも持っていました。買い物も病院も黒いヒジャブ姿で臆することなく出かけていきます。

 ある日Hさんは長かった髪を肩から上くらいまでカットしました。軽くなった髪は、活発で陽気な性格のHさんにぴったりでした。しかし出かけるときにはもちろん真っ黒なヒジャブの下です。もったいない! すごくかわいいのに!!日本人だったら新しい髪型をみんなに見てほしくてあちこち出かけたくなるはず。美しいからこそ隠すなんてイスラム教ってたいへん!日本人でよかったと思わずにいられませんでした。

 さて半年くらいしたころ、M君の誕生日の日が来て、「せんせい、いっしょに」とレッスンが終わって帰ろうとしたところを呼び止められました。みると、リビングのテーブルの上には大きな誕生日のケーキ、ピザ、唐揚げ、シリア料理が所狭しと並んでいます。そしてHさんは念入りに化粧していつもよりさらに色っぽい艶やかな姿です。

 いつもは帰りが遅いお父さんが急いで仕事から急いで階段を駆け上がってきました。たくさん入った段ボールを抱えています。子供たちは、「ババ!」とうれしそう。恥じらうような笑顔をみせるHさんをMさんはやさしくみつめます。そして一息つく間もなくろうそくに火をつけ、子供たちと手をつなぎアラブ語でハッピーバースディーを歌いはじめました。

 あああ なんか あったかい・・・。

イスラム教=厳しい、かたくるしい、自由がない、男尊女卑・・そんなイメージとはまったく違ったあったかい家庭がありました。

 外では黒い布で身を隠し、家の中で大切な人のためにだけおしゃれする奥さん。そしてたくましく生きる母でもあります。そんな奥さんを愛し大切にしているMさん。素敵です。

 最近家に帰ると主人の前で、メイクもせずゴムで髪をまとめるだけ、よれよれのトレーナー姿の自分にちょっぴり反省、私もよそいきではなく主人のためにおしゃれしてみようかな、そんなことを考えながら、私の家族のまつ小さなアパートへと自転車をこいで帰りました。


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