2.影響を受けた本(2)『アーコのおみまい』

『アーコのおみまい』大石真 安野光雅・画

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ある女の子がおばあちゃんのお見舞いで、単身はちみつの瓶を持って汽車に乗って出掛ける。正直、細かいところは憶えていない。

ならばこの絵本からどういう影響を受けたのか。

それは汽車に乗っている場面のこと。座席に座るアーコの周りには他にも複数の人が乗っている。真っ暗なトンネルを通る。トンネルを過ぎるまでは人間の姿だった他の乗客が、トンネルを抜けるとさまざまな動物に姿を変えてアーコの持つはちみつを狙っている。

日常から非日常への転換、転変。これまで見知っていたものが夢の記憶のように過ぎ去り、新しい世界は異形に満ちている。小さな少女が一人で旅をするという成長への通過儀礼にトンネルが用いられている―、

―というのは今思い返した勝手な解釈であり、読んでいた当時は多分、人だと思っていた者たちが実は獣だったという、怪談『むじな』を読んだ時に近い怖さだったと思うし、そういう怖さも愉しく感じれるのだという発見。その後の読書体験にかなり影響があったのではないか。なにより安野光雅の、どこか震えているような線で描かれた絵が印象深い。

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