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「即戦力」という言葉

私は高校卒業後、フリーターを6年ほどしていた。

「そろそろ就職しよかな……」と思い、ハローワークで『トライアル雇用求人』という制度で就職した。

『トライアル雇用』とは未経験の若者を採用する制度である。多分、企業も助成金がもらえる。

だからその制度を利用するということは、企業側はその人を「未経験」だとわかって採用するのだ。

私が就職したのは営業職。「成長したいから」今では考えられないポジティブな動機から選んだ職だ。

入社したその日、まず言われた言葉が「中途採用は即戦力やから」。

日本社会は
中途採用=即戦力
となっている。

新卒で入社した人以外は、すべて即戦力らしい。

元引きこもりでも、病み上がりでも、なんでも誰でも、猫も杓子も、即戦力。

「即戦力」だから、あまり教えてもらえない。入社1週間は倉庫で不良品を修理、その後すぐに「はい、これ担当企業ね」と言われ、何十社とあるリストを渡された。

その企業から電話がかかってくるたび、「きよさん、〇○商事さんからお電話です~」とか言って事務員から電話が廻ってくる。

出るけど、相手がなにを言ってるのかわからない。当たり前だ。1から10まで何も知らないんだから。

私「は、は、は、はい」

相手「あの~○○について教えてほしいんですが」

私「はははは、はい、しょ、少々お待ちくださいませ」

そして機嫌の悪い上司に聞きに行く。「なんでこれ確認しとかへんねんボケ」と怒られる。

こんな感じだった。

質問しても「中途採用だから」とロクに教えてもらえず、親やハロワに相談しても「中途採用だから仕方ないね」と話を聞いてもらえない(ハロワがそんな態度なら『未経験トライアル雇用』なんてやめてしまえ)。仕事だけが溜まっていき、非難され続け、どうしようもなくなり辞めた。

ビジネスマナーと名刺交換の仕方とかそんなことは自分で勉強できるが、実務関係は教えてもらわないとわからない。

でも、教えてくれない。ひたすら放置。

なぜかというと「即戦力」だから。

未経験でも中途採用だと「即戦力」。仕事はできる前提で採用してる。

でも、ちょっと待ってほしい。

あんたら『トライアル雇用制度』で「未経験」ってわかってて採用したんじゃないの?

じゃあ「即戦力」にはならんやろ。スーパーでお惣菜を作っていた男がいきなりバリバリ営業なんてできるわけない。普通に考えて。

何年も働いてきた社会人の鬱陶しいところは、「社会はこうあるべき」みたいなのに囚われているところ。

「中途採用は即戦力」こんな言葉が社会に蔓延してるから、その企業はそれに従っただけ。こう言えるかもしれない。

でも、未経験は即戦力にはならない。当たり前でしょ、こんなこと。これは「社会」という頭の固い馬鹿野郎にも言わないといけない。

なんでもかんでも「社会」というワケのわからんフィルターを通してモノを見る。それで「仕事ができる」「成長した」と思っているんだから、どうしようもない。

私が体験したようなことはあちこちで行われてると思う。未経験なのに「即戦力」というレッテルを貼られ、放置され早期退職した人はかなり存在する。

新卒の早期退職がよく問題になるが、実際には中途採用の早期退職の方がずっと多いらしい。

「中途採用=即戦力」こんな常識が広まっているからだと思う。常識でもなんでもないけど。

「忙しいから教える時間がない」ならまだわからんでもないが、「中途採用だから教えない」は意味がまったくわからん。

これも「社会は厳しいから」ですべて片づけられるんでしょう。日本社会がやたらと生きにくく、若者の自殺が多いのは「立派な社会人」がたくさんいるからだと思うのは私だけでしょうか?

#エッセイ #退職 #社会 #就職

働きたくないんです。