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史上最悪のパーティ
ひとり暮らしを始めて一か月くらい経ったある日のこと。
ブラック仏壇屋に朝から晩までコキ使われ、ヘトヘトで帰宅すると、どうも部屋が騒がしいことに気がついた。誰かいるぞ。
玄関に入ると案の定、オカンが出てきた。「おかえり~」
…………いつ合鍵を作ったのかわからんが、オカンだからまあよい。ただ、中にも誰かいそうだ。妹か? オトンか?
おそるおそるリビングに入ってみると、そこには身内はおろか、まったく知らんオバハンが三人、地べたでフライドチキンをむさぼり食っていた。
「あら~きよさんくん、おかえり~」オバハンAが手についた塩っけをねぶりながら言った。
「おかえり~」オバハンB、オバハンCも言った。
(なにこの地獄絵図……)私は絶望するしかなかった。
皆さんは「帰宅すると知らんオバハンが三人、地べたでフライドチキンをむさぼり食っていた」という経験がないと思うからわからんだろうけど、あれは天と地がひっくり返るほどの衝撃だ。
オカンはバリバリの創価学会員。ということはこのオバハンも創価学会婦人部だろう。
婦人部というのは主婦の創価学会員のことをいう。彼女たちは主婦という特権を活かし、朝から晩まで学会活動に勤しむ。
もちろん選挙前は「公明党お願いします」とこれまた精も根も尽き果てるまで動き回る。創価学会、公明党を支えているのは婦人部、と言っても過言ではない。
世界一元気な奥様方、それが創価学会婦人部、かつ、世界一話が通じない人たちだ。
そんな人がオカン含めて四人も私の家にいるのだった。
ヘトヘトで頭が回らず、状況があまり把握できないので、とりあえず私もフライドチキンを食べることにした。
「きよさんくん、仏壇屋で働いてるんやね」オバハンAが言った。
「はい」
「やっぱり寺とか行くの?」
「行きます」
「そっか~、悪いモンついてるから、しっかりお題目あげんとあかんよ~」
「……はい」
こんな感じで普通(?)に会話が進んでいった。
しかしこのオバハンたちは一体、何が目的なのだろうか?
「きよさんくん、そろそろご本尊さん受けなあかんで」とオバハンB。
なるほど、オバハンたちは私に「ご本尊さんを受けろ」、要は「学会用の仏壇を持て」と言いにきたのだった。
普段からオカンにはしつこく言われていたけど、「いらん」とずっと断ってきた。なので、オカンはついに強硬手段に出たのだろう。
このオバハンたちはおそらく「受けます」と言うまで帰らんつもりだ。恐すぎる。
バリバリ婦人部四人とヘトヘトの私ひとり。非常に分が悪い。フリーザ四人相手にヤムチャひとりで向かっていくようなモンだ。
私に選択肢はなかった。「受けます……」
仏壇を持つのがどうしてもイヤだったので、小さいアクセサリーみたいなご本尊さんにした。これを『お守りご本尊』という。
「よかった~」オバハンCはコーラを喉に流し込んだ。「じゃあ五千円」
…………なんで? 唐突な金銭要求にフライドチキンを吹き出しそうになった。
よくわからんまま五千円払った。とにかくこのオバハンたちに少しでも早く帰ってほしかったのだ。
「じゃあ、今度の水曜日ね~」とか言いながらオバハンたちは無事帰っていった。
急に静寂が訪れた部屋でポツンとたたずむ私。
冷静になって考えてみたら、やっぱりおかしい。
年頃の男性(当時20代)のプライベートな部屋に勝手に上がり、正座して待ってるならまだしも、パーティを開催し、五千円を奪っていく。
やっぱりおかしいぞ、これは。
私の宝物、『木村文乃写真集』は触られてないだろうか。ティッシュだらけのゴミ箱は見られてないだろうか。というかそもそも勝手に上がるな、人の家に。そしてフライドチキンを地べたでむさぼり食うな。
こんなことも平気でしてしまう。それが私のオカンとその取り巻きの婦人部だ。(もちろん、すべての婦人部がこんな感じではない)
これが私の経験した史上最悪のパーティである。
もう来ないでくれ。頼むから。
働きたくないんです。