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何も解決しない「自己責任論」

ジャーナリストの安田順平さんが拉致され、帰ってきたとき、「助かってよかったね」みたいな声じゃなく、「お前が悪い」という声が多くてビックリした。

「危険なところに行ったヤツが悪い」

行ったヤツが悪いんですかね? 拉致したヤツが悪いんとちゃいますか?

日本人は「なんでも自分の責任」とする”自己責任論”が大好き。一利あるケースもあるけど、ちょっと行き過ぎな部分もある。

安田さんが”是”か”非”か、今回のテーマはそれじゃなく、日本に蔓延る”自己責任論”。

私はこの概念がめちゃくちゃ嫌いだ。

自己責任論の悪いところは「何の解決にもつながらない」こと。

今回だって「安田さんが悪いか、悪くないか?」みたいな議論ばっかりで肝心の「テロ」「中東問題」「拉致」の議論がされていないように感じる。

仮に「安田さんが悪い」と結論が出たって、中東問題が解決しない限り、また拉致される人が出てくる。

「行くな」で済む話だけど、誰も行かないと中東問題が一切わからなくなる。核兵器をせっせと作ってたらどうする? 9.11みたいなテロを企ててたらどうする? 危険な場所へ行くジャーナリストはいつだって求められる。

あまり意味があるとは思えない、今回の自己責任論。

こういうケースは他にもあるので、考えていきましょう。

いじめに関する自己責任論

「いじめられる側も悪い」

ちょっとコイツの理由を教えてくれませんかね、誰か?

ドツキ回されて、金を取られて、毎日青あざ作って、家ではSNSでボロカス言われて……社会に助けを求めたら「いじめられる側も悪い」。

こんなこといい大人がドヤ顔して言うんだから、世話ねえです。「立ち向かう勇気を持て」「弱いヤツがダメ」ってこと? 帝国主義者ですか? 弱い国は植民地にしていいんですか?

そんなの言ったら「コイツにも責任があるから、もっといじめようぜ」とか言うヤツが出てくる。

いじめの被害者に対する自己責任論は百害あって一利なし。いじめる側がすべて悪い。

いじめを乗り越えると強くなるとか、そんな問題じゃない。悪であるいじめを助長しかねない、被害者に対しての自己責任論は存在自体おかしなことだ。奴隷制度を肯定するくらいありえない考えだと私は思う。

ブラック企業に関する自己責任論

私が行ってた会社は3社あるけど、すべて定着率が異常に低かった。

3社とも「直近3年以内で、新入社員1年生存率が0%」。3年の期間で、何十人と入った新入社員がすべて1年以内に辞めてるということになる。

この3社には共通点がある。

それは「辞めたヤツが悪い」と考えているところ。「会社が悪い」とはまったく考えない。

これほど辞めてるということは、会社に原因があるとは考えないのだろうか?

そういう会社は辞める人に対して、「ウチの会社のどこが不満だった?」みたいなことを一切聞かない。退職者ってその会社に何か不満があるから辞めるんでしょう。でも会社側は「そんなんじゃどこへ行ってもダメ」「他の会社も一緒」「根性がない」と説教するのみ。

そしてため息と共に出てくるこの言葉「最近の若いヤツはダメだ……」

これじゃいつまで経っても社員は定着しない。自己責任論を盾にして会社側がまったく反省しないからだ。

会社側は「また採用したらいいや」くらいに思ってるんだろうけど、入った側からするといい迷惑だ。

履歴書に「早期退職」の経歴が残る。再就職に不利になる。これだって面接で正直に理由を話せばそれでいいのだと思うが、そうはいかない。

「自分が至らなかった」として自己責任にするのが、立派なオトナのやることだと思われているからだ。前の会社の至らぬところを話すと「言い訳がましい」と言っていい印象を与えることができない。

そして、「1年休みなしで、そのままだと死ぬ」ような会社で辞めざるを得なかったケース、どう考えても「100%会社が悪い」という場合でも、

「その会社に入社を決めたのはあなたでしょ? それじゃ、あなたが悪いね」

という自己責任になる。そんなもん実際に働くまでわかるか。ニコニコしながら平気でウソの条件を提示するような会社ばっかりやねんから。

これだとブラック企業の存在を認めているのと同じだ。

もうなにがあっても”自己責任論”からは逃れられない。

日本社会は「なんでも自分が悪い」という謙虚(?)な姿勢を貫かないと、ロクに生きてくこともできないのだ。

だから本当の原因はいつだって野放し状態。

会社側の”自己責任”はどうした? なんでいつも弱い者にしか適用されないんだ、この自己責任論は。

ブラック企業は辞める人に対して、「甘えんな」と言うが、いつまで経っても反省せず、自己責任論を盾にして甘えてるのはあなた達ですよ、と言いたい。

★★★

自己責任は自発的にやれば成長にもつながるが、今の日本みたいにどこへ行っても他人に押し付けられると、精神的に追い詰められるだけだ。

何かが原因で苦しんでいる人(いじめ、ブラック企業、セクハラ、パワハラ、差別)は世間に蔓延る自己責任論のせいで、「自分がダメなんだ……」と思ってしまう。自分を攻め続けると、自殺にもつながりかねない。

もっと「あなたは悪くない」「あなたに責任はない」と言っていい。実際にそうなんだから。

そして、なんでもかんでも「自分が悪い」じゃなくて、悪いヤツにはきちんと「悪い」と言うべき。というか、これからは堂々と言っていい社会にするべき。

問題の本質を見えなくし、何の解決にもつながらず、そしてなぜか弱い者にしか適用されない”自己責任論”。

今の日本では間違いなく、害でしかない。

#エッセイ #自己責任 #ブラック企業 #いじめ

働きたくないんです。