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忍者の情報収集とコミュニケーション技術、その使い方【敵忍者防衛論:万川集海第三帖発売中】

忍者は戦国・江戸時代、スパイとして歴史の裏で活躍した情報収集のエキスパートです。忍者の情報収集技術、つまり忍術には陰術と陽術があります。陰術とは忍び装束に身を包み姿を隠して敵地に潜入して情報収集を行う術で、対して陽術とは商人や僧侶などに変装して姿をさらしながら敵国民と交流し情報を入手する術です。

陽忍と陽術

忍者は平和な時から敵国に潜伏し、陽術を駆使して情報収集ネットワークを構築します。現地住民や官僚と仲良くなり、信頼関係を築いて、戦争発生の兆しをキャッチしたら謀略(賄賂による買収や偽言による内紛など)を仕掛けて未然に防ぎます。万が一戦争が発生しても、言葉を巧みに操って敵内部に協力者を作り戦いを有利に進められるように影からバックアップを行います。

そんな情報収集・コントロールのプロである忍者の技“陽術”を元に、「忍者の情報収集とコミュニケーション技術」と題して現代で使える忍術について書いていきます。

(以下本文は、2020年9月6日発売『図解忍術秘伝書 万川集海 第三帖 陽忍編(上)』を元に書いていきます。)

『図解忍術秘伝書 万川集海 第三帖 陽忍編(上)』
忍者は諜報活動を行い、戦争の兆しがあれば謀略を仕掛けて未然に防ぐ。
敵国内部に情報収集ネットワークを構築するのは重要な忍術。常に情報を収集し、機に望んでは素早く術を仕掛け、大きな戦争が始まる前に勝利を得る。また、戦争が始まったとしても敵国内部の協力者(内間や反間)の手を借り安全で確実な勝利を手に入れるように活動する。
陽忍遠入りは、社会の人間関係と個人のマインドを深く理解し、コミュニケーションをもって敵に勝つ技である。
                       ー 万川集海第三帖 表紙帯より

計画を立てるとき最初に考えておくこと「始計六ヶ条」

陽忍 遠入りの術で初めに出てくる術は「始計六ヶ条」です。これは、計略の始めに考えておくべきポイントのことです。

一、姿を変える
二、職業を変える
三、潜入先の地理や風俗を知る
四、敵将(幹部)の印鑑、筆跡を知る
五、敵軍(敵将)の旗、紋を知る
六、情報を秘匿する

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潜入し諜報活動を行うためには、自分が忍者であることを敵に知られてはいけません。そこで、まず第一に見た目(姿)を変えます。第二に、見た目が変わっても行動がそれと一致しなければ怪しまれてしまうので、振る舞いや職能(職業)を合わせます。第三に、外から入り込んだよそ者だと警戒されないように、その土地の地理と風俗(風習や慣習、方言)を知ります。なお、方言を操りその土地の人になる術を楠流では奪口(だっこう)といいます。

始計六ヶ条2

この第三ヶ条までは敵に怪しまれないための守りについて考えるポイントです。

第四に、敵に謀略(偽文書)を仕掛けるために敵将の印鑑、筆跡を知り偽装できるように準備します。第五に、敵軍内に潜り込むために敵の旗、紋を覚えておきます。(旗や紋は、敵内でどこの部隊所属で誰が上官かを示す)

この第四、五ヶ条は敵に術を仕掛けるための攻撃について考えるポイントです。

最後の第六に、忍者であることや任務を秘匿し、何にも知らない一般人を振る舞います。これが上手くいかないと諜報も謀略も失敗してしまいます。愚か者のフリをして時期到来を待つことを、兵法三十六計では仮痴不癲(かちふてん)といいます。

コミュニケーションを上手く進める始計

始計六ヶ条をベースに、現代の私たちが使えるコミュニケーション方法について考えてみましょう。以下は、それぞれの条目を現代忍術版に直したものです。

一、見た目
二、振る舞い
三、場面把握
四、相手を知る(ターゲットを絞って)
五、相手を知る(その他)
六、秘匿(知らないフリ)

第一に見た目です。見た目は清潔が第一でしょう。また、笑顔で人当たりが良ければ相手の警戒心はなくなります(「笑顔で謀略を仕掛ける」については図解万川集海 第一帖に記載)。自分のキャラクターに合わせて服装を選び、自身を演出しましょう。

第二に振る舞いです。オドオドしていると怪しまれます。自然体でいましょう。また、自分のキャラクターや職業があればそれに応じた振る舞いをしましょう。

第三に場面把握です。どういう場面で人に会うのかを考えましょう。これにより、第一と第二も変化するかもしれません。どんな過程を踏んで人に会い、話し、別れるのかシミュレーションします。

第四にターゲットとなる相手を知ります。今日は誰に会って話すのが目的なのかを一度考えます。相手の好きなこと、話したくなること、話しやすいことを考えます。

第五にターゲット以外の周りの人について知ります。人それぞれの得意不得意、好き嫌いを考えます。

第六に、ここまで準備したことを隠して何も知らないフリをして場に臨みます。

多少強引にコミュニケーションに当てはめた感はあるかもしれませんが、各条目のポイントは押さえています。(四ヶ条の元は印鑑と筆跡ですが、重要な点はターゲットのウィークポイントを押さえるところ。五ヶ条は旗と紋ですが、コミュニティー内の所属関係を知ると云える。)なお、一から三は守備(受け)の方法、四と五は相手に仕掛ける方法、六は秘匿です。

タイミングを逃さず術を仕掛ける「如景術」

忍者は敵国内に情報収集ネットワークを構築し、平和なときから常に情報を収集します。(他の忍術伝書の用間加条伝目口義には忍身持之事としてネットワークの張り方が教えられています。)そして、戦争の兆しを発見したら、実行に移される前に素早く敵に近づきこれを防ぎます。

如景術1

如景術2

影(景)は常に実体について動くように、敵の動きに忍者はくっついてタイミングに乗じて行動することから如景術といいます。

情報は流動的に収集する

情報というのは、一度手に入れたら終わりではありません。科学技術が日々進歩して新しくなるように、情報は時の流れとともに変化していきます。情報収集は流動的に行い、変化に気づいてこれに乗ることが重要です。

敵内部に協力者を作る「身虫の術」

敵組織内部にいる人を味方の協力者にして、情報を収集したり謀略を仕掛けます。身虫とはお腹(身)の中にいる寄生虫で、内側から体の主を食べてしまうことを、味方内にいる仲間が自分の国・主君を滅ぼす様子になぞらえて身虫の術といいます。

身虫の術1

身虫の術2

身虫の術の一番のポイントは身虫を作るところです。人選を誤れば、こちらの作戦を相手に逆に利用されて戦いに負けてしまうことになります。身虫に仕立てるのに適した人を選抜し、身虫にならないといけないような状況に引き込んで、絶対に裏切らないようにします。

人と仲良くなる忍術

身虫の術は、身虫適合者に忍者が近づき仲良くなり信頼関係を築くところが大切です。仲良くなる方法として、趣味を通して友達になることが参考として紹介されていますが、これを正忍記では風流に取り入る習いといいます。また、プレゼントを贈ることも仲良くなる方法として有効です。

身虫の術3

術を仕掛けるときは、身口意(しんくい)の三密をそろえることが大事となり、身は態度で誠意を示す。口は言葉で想いを伝える。意は心に気持ちを込めることです。三密は、忍術の起源である修験道(密教)のコンセプトです。

敵の忍者を味方にする「天唾の術」

味方陣地に忍び込んだ敵忍者を捕らえて味方忍者にし、敵の様子を探らせたり敵内部に味方を増やすように工作する。敵の忍者が敵自身に害を与えることを、天に向かって唾を飛ばしたら自分に向かって返ってくることに例えて天唾(てんだ)の術といいます。

天唾の術

天唾の術2

天唾の術で寝返らせた敵忍者を孫子の兵法では「反間」といいます。反間はもともと敵国の人間なので敵に怪しまれず自由に行動ができるため有利です。反間の職場仲間や知人を通じて敵国の様子を細かく知ることや、反間の手引きで味方を敵地に送ることもできるなど利点が多く重要な存在とされます。

人を伝ってコミュニティーを広げる

天唾の術は反間を伝って敵国民に近づき、様々な情報を手に入れたり謀略工作を仕掛けることができる忍術です。人間関係を広げるにも、最初は知人や友人の紹介からが多いと思います。

知人を伝えば新しい人とコネクションを作ったり、新しいコミュニティに入ることができます。目的とする情報に向かって、どう近づけばいいかを考えて謀略を練るのが大事です。

さらに、天唾の術から学べるのは自分自身が直接人と繋がらなくてもいいということです。知人経由で情報を入手することも、間接的ですが情報収集ネットワークを張り巡らすことになります。どうしたら目的にたどり着くかを多面的に見て考えましょう。情報収集ネットワークを構築することを、用間加条伝目口義では蜘蛛の伝えといいます。


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『図解忍術秘伝書 万川集海 第三帖【陽忍編(上)】』

『図解忍術秘伝書 万川集海 第一帖【序・正心編】』

『図解忍術秘伝書 万川集海 第二帖【防衛編】』

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