青春18キッパーの独り言二枚目(成田空港へ行こう)
おもちゃの電車に乗る
前回の続き。富山へ帰ってしまうと18きっぷを使うのはかなり難しいので、東京にいる間にどこかへ行こうと思う。多摩という東京の西側に住んでいたので、千葉とか東京の東側には意外と馴染みがない。時刻表の地図を眺めていて、昔からずっと気になっている鉄道がある。山万である。およそ鉄道会社らしくない名前はその周辺の住宅地を開発した不動産会社の名前で、その路線はテニスラケットのようなおかしな形をしている。これに乗りにいってみよう。
ユーカリが丘の駅を出ると、高架の上にちょうど列車が停まっている。その姿はちょっと未来っぽくもあるが、やたら短い車両が3つ繋がっている姿が何かに似ている。ああそうだ、子供の頃夢中になって遊んだプラレールだ。このプラレールに乗ってみよう。乗る時は蕎麦屋の食券のような機械でQRコードの切符を買う。これは未来というよりコストダウンだろう。ただ、沿線住民はなんと顔認証で乗れてしまうらしい。これはどこの鉄道よりも未来的でSFチックだ。早速QR乗車券を自動改札に投入すると、ピンポンが鳴って扉が閉まった。そう、冷静に考えてみればQRというものはカメラに読ませるものだと分かるのだけど、自動改札機があると、無意識にそこに投入したくなるのだ。
屋根の上に黄色いレバーが付いていそう。
さて、リアルプラレールに乗り込むと、なんと冷房が無い。車両が小さすぎて冷房を載せるスペースが無いらしい。気温は今日も36℃。乗客も大変だが、1日中運転する運転士の方もきついだろうなぁ。凍ったおしぼりとうちわが備え付けてあって、これで乗り切れという事だ。これは冷たいビールも必要だな。
天井のルーバーが涼しげだが、それは換気用。
走り出すとこれは完全に昭和の電車の雰囲気だ。江ノ電よりもいいのでは。それが上品な住宅地の屋根の上を走っている不思議な感覚が堪らない。駅の名前は「女子大」「中学校」と、これまたプラレール感全開だ。特に用事もないけれど、「公園」駅で降りてみよう。と、降りたはいいが何もすることは無いな。そしてあらゆるモチベーションを打ち砕く最高気温。すごすごとホームへ引き返した。
旅人の忘れ物のような駅
この後、成田空港駅へ向かう。青春18の旅人が国際空港に用事がある訳はない。旧成田空港駅(現東成田駅)に行くのである。現在は空港の地下へ直接鉄道が通っているが、昔はこの駅からバスに乗り換えていたのだ。でもその当時のホームがそのまま残されているという話なので、見に行きたくなった。成田から芝山千代田行きに乗り換えると、一瞬間違えて回送に乗ったんじゃないかと思う位に空いている。そして一駅乗って薄暗い地下ホームに降り立ち、電車が走り去ると、もう二度と電車が来ないのではないかという荒涼とした雰囲気である。でも、太くて丸い柱や、板の薄いベンチを見ると、「そう言えば昔の地下鉄はこんな感じだったな」と懐かしさも感じる。営団の不協和音のようなブザーが聞こえてきそうだ。そして、照明の落とされた線路の向こう側に見えるのが、時が止まったままの成田空港駅ホームである。効率だけが追い求められる現代に、これが残されている奇跡。このまま忘れられて残っていくような気もするし、明日消えてしまう気もして実感がない。夢の中を彷徨うような気分だ。
せっかくなので、ここから長い地下道を歩いて空港へ行ってみよう。白紙の掲示物が人の気配を一層希薄にしている。監視カメラの向こうに辛うじて人のぬくもりを感じる。実は空調が効いていて割と快適だが、すれ違う人は一人もいなかった。そして、第2ターミナルの真ん中にいきなり出るので、そのギャップには戸惑う。トランジットの乗客用の無料バスに乗り、第1ターミナルへ移動する。頭上には北ウイングの文字と遠い街の名前が並ぶ。Love is the Mysteryですな。
帰りの電車はずっとロングシートになりそうだったので、ついついグリーン車を課金してしまった。乗る前に駅のホームの端末でsuicaを使って料金を払い、席に着いてから天井のセンサーにタッチする。これをやらないと料金が少し高くなる。首都圏の人はこのややこしいシステムをよく使いこなしているものだと思う。
少しは東京らしい風景も見ておこうと、渋谷で降りてみた。しかしさすがに街に出ると夕方でも死ぬほど暑い。でもこの街にはおびただしい数の人が歩いている。この過酷な環境の中、みんな何をしに行くのだろうか。ただ一つ言えるのは、何も目的が無くてこの横断歩道を渡っているのは自分一人だろうという事だ。
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