見出し画像

きわダイアローグ08 風を知る〈北九州響灘風力発電所〉 4/4

◀︎◀︎◀︎◀︎◀︎最初から
◀︎◀︎◀︎前へ

株式会社エヌエスウインドパワーひびき(NSWPひびき)の事業所で、松﨑さん、茂松さんにお話を伺った後、実際にメンテナンス中の3号機を視察しました。茂松さんと高野俊幸さん(株式会社西日本テクノス)に風車の中や周辺設備をご案内いただき、作業中の西川貴也さんにもお話を伺いました。

///

4. 生まれたところ、育ったところで風車が見える

///

〈事業所から風車まで車で移動中〉

茂松:この橋から右側に見える風車は3基あります。手前の1基はが1,990kW(Vestas)、奥の2基が2000kW(日立)です。ビオトープから見えていた2基は、3,300kW(Vestas)です。ここを入ったところが変電所になっており、鉄塔を通して電力会社に電気を送っています。

図41
変電所
手前の鉄塔の奥にある電力会社の鉄塔に発電した電気を送っている
2020年
提供:響灘風力発電所(NSWPひびき)
図42
メンテナンス中のタワーとナセル
ブレードの取り外し、取付に使用する大型クレーン
2020年

〈車から下りて見学をする〉

茂松:タワーの上の箱型のものがナセルで、そこまでの高さが65メートルあります。ブレードの長さは34メートルあり、直径70メートルの羽根で風を受けて動かしています。ここ数日は、ブレード外して、ボルトを交換をする作業を行なっていました。風車の中は横倒しになっているようなイメージなのですが、ブレードのつけ根にあたるハブの上を開けて入るような形です。頭が倒れていますので、風車の上では何にもないところを斜めに降りていくような感じです。

図43
メンテナンス中の3号機風車
2020年
図44
地上に降ろされたブレード
2020年

向井:この大きさをどうやって撮ろう。ちょっとクジラみたいですね。

茂松:確かにクジラみたいですね。ブレードも、飛行機の羽と同じような流線型で、揚力で回転します。下ろすときは、大型クレーン2台で2箇所を吊って、最初はYの字で下ろしてきて、最後このようにブレードを地面に平行に寝かせます。結構大掛かりというか、わたしは初めて経験しましたので。ブレードは1枚長さ34m、重量は約7トンあります。

向井:それは飛行機の羽とどちらが大きいのでしょうか。

茂松:飛行機より大きいですね。飛行機はジュラルミンなどの軽い素材でできているのに対し、こちらはGFRPでできているので結構重たいですね。

茂松:これらのブレードは、経年劣化で少しずつ傷んできます。昨年、18年振りにブレードの表面の塗装が劣化している状況なので、これを点検し補修しました。やはり羽根の先付近は回転速度が早いので粉塵や砂等による損傷が見られました。そこを高所作業の専門業者さんにぶら下がっていただいて、主に先端付近を補修してもらいました。補修する前後では人間が耳で聞いて音でわかるくらいの差があります。補修する前は「フワンフワン」という音がしましたが、今はあまりしなくなりました。抵抗が少なくなりますので発電効率も上がっているんだろうなと。

図45
補修が完了したブレード
2020年
スクリーンショット 2021-04-13 0.45.47
タワーの入り口
2020年

茂松:実際に風車の中に入ってみましょう。このモニターは先ほど事業所にあったものと似ていて、この風車内のモニターを使って、停止や運転の指示を出します。

スクリーンショット 2021-04-13 0.46.14
タワー内の運転モニター
2020年
図48
屋外キュービクルと屋外用昇圧変圧器
発電した電気を変電所に送る電柱が右うしろに見える
2020年
提供:響灘風力発電所(NSWPひびき)

茂松:左側にあるのは屋外キュービクルで、右側が屋外用昇圧変圧器です。風車でつくった575ボルトの電圧を22,000ボルトまで昇圧して、変電所に電柱を経由して送電します。変電所にはもう一つ変圧器の大きいものがあって、22,000ボルトを66,000ボルトに電圧を上げて電力会社に売電します。ここでは、地元の協力業者さんが、機械系の担当をしていただいているメンバーになります。以前、TVの取材でNHKの「風車を守る男たち」にも登場していただきましたが、メテナンスにあたってくださっている彼らはまさに「風車を守る男たち」という感じでかっこいいんです。

〈ちょうど、風車から出ていらした機械系担当の西川さんにお話を伺う〉

向井:きわプロジェクトでは、水ぎわで、人がさまざまな時代ごとのテクノロジーを使いながら、どうやって自然と向き合ってきたかを扱っています。各国を取材してみて、環境エネルギーなどの施設は水ぎわにあることが多々あったんですね。ただ、「環境問題」を扱うというと、話が大きすぎると感じる人が多いと思います。そのため、環境問題をテーマの一つとして扱っても、それが、自然と自分の暮らしとどうつながっているかがわからないと思われるようなんですね。それもあって、実際に自然を相手にするような現場で働かれている方はどのようにお考えなのかを知りたくて、取材をさせていただいています。例えば、風車のことに関わりながらでは、どのようなときに自然を感じられますか?

西川:やっぱり風車の下にいるのと、上にいるのとでは環境が違うんですね。下で全然風が吹いていなくても、上でビュービュー吹いているときがある。これだけの重たさのものが、風が2、3メートル吹いただけで回るのを見ると、自然の力はすごいなと感じます。風の力ってすごいんやなって。台風が来ると風が強いって誰しもがわかりますよね。でもそういう特別なときではなくても風況がいい環境があるから、これだけ大きな風車を回せる力はすごいなと思います。そうやって、風を気にしたり風の力を感じたりするのはこの仕事ならではだとは思いますね。

向井:人間は目に見えるものばかり気にしますよね。インターネットを使えば悲惨な環境問題について知ることはできますが、実際の自然を感じるのは難しいと思うんです。

西川:そうですね。普通の人は自ら自然と接しようとする気持ちがないと難しいと思います。例えば、キャンプをしようという気がないと山に行かなかったり、海に入りたいと思わないと海に来ようとも思わかったり。僕はここで働き始めて5年めくらいですが、仕事をしていると風の力を感じますね。

向井:なぜ風車に関係するお仕事をしようと思われたのですか。

西川:ここで働く前は、線路の仕事をしていたんです。もともと、あまり一般の人ができないような仕事をしたいなって思っていたんです。あるとき、たまたま風車の仕事の話があって風車がどうやって回っているのか、普通の人は知らないですよね。僕は、風車の仕組みに興味があったこと、あまりほかの人がやれないような仕事ということ、それからここが地元でもあって、自分の希望とぴったりマッチして今ここで働いています。
実は、僕はこの響灘風力発電施設の近くの中学校に通っていたんです。だから、風車が建設されていた当時、少しずつ完成していく姿を校舎から見ていました。2003年頃だったと思います。中学生の頃「なんか建ちよおな」と思っていた場所で働くなんて思ってもみなかったですね。

向井:素晴らしいです。どうやって社会の中で動いているのか、仕組みがどうなっているのかに、好奇心をすごくお持ちなんですね。先ほど、地元のなかで風車に関わる技術の方たちを育てようとしているというお話を伺いました。子どもの頃から自分の生活圏に風車のようなものがあって、当たり前に思っていることに疑問を持てる環境があることが重要だと思うんです。
何年か前にヨーロッパの自然のエネルギーの施設を見に行ったんです。向こうだと、都市部にすごく近い生活のなかにソーラーパネル貼りの学校があったり、地熱エネルギーがあったりと、人の暮らしから見える場所にそういったものがあるんですね。日本でも都市部でそういうことを行なっている場所があるのかしらと調べて、北九州にたどり着きました。実際に来てみて大きな街の近くに、こんなに大きなエコタウンがあることにとても驚きました。所長さんも、地元の若い人たちが風車を見ながら育っているとおっしゃっていましたが、西川さんはまさにその実証ですよね。それがすごく面白いというか、やはり、人の暮らしのなかで見えていなくてはいけないものがあるのだなと思いました。わたしは長年大学教育に関わっていたのですが、当時、学生にとって自分の職業モデルを描くことはすごく難しいことなのだなと感じていました。でも、西川さんは小さい頃から自分の職業モデルみたいなものを、思い描けたということですよね。一見、違う仕事を転々とされているようであっても、自分がどこに興味を持っているのか、早くに自覚されていたということでしょうか。

西川:小さい頃から、興味という疑問を持つことが多かったですね。「?」と思うことから全部、僕の行動は始まっていました。例えば「何で飛行機は飛べるの?」「何で列車って動くんだろう?」「どうやったら、この羽根が回るの?」というように、しょうもない疑問からなんです。「何で?」と思って、調べて、こういうふうに動かすためには、こういう人たちがいるんだって知っていくところから、仕事への興味も出ているのだと思います。

向井:難しいですね。わたし個人としては、学校じゃないとできないことや良さもあるのですが、これまでの学校教育だけでは限界なのではないかと感じています。今、いろんな人たちが、自分たちで教室やウェビナー、社会人大学といった学びの場をどんどんつくっていますよね。コロナの弊害はありましたが、逆に、ネット上でも学ぼうと思えば学べることがたくさんあるし、学校の外で専門家と話ができることがすごく増えてきていると思うんです。実際、アメリカでは、一つのキャンパスを持たず、ほとんどの授業がリモートという学校があるようです。その場所に行かなければわからないことも沢山あるので、様々な国にキャンパスや寮のような場所はあって、複数の文化に触れる経験は積めるようになっていて、しかし、授業自体はその最先端の先生たちの授業をリモートで行なっていたり。こうやって現場で専門家の話を伺うと、学びの場の形が変化してきているのを実感しました。まずは個人が興味を持つところから。それから、その場所に赴くこと、リモートを活用すること、両方を活用しながら、今とは違うプラットフォームというか、場づくりもしなければならないのだろうなと思います。

茂松:これが「風車を守る男たち」。かっこいいですよね。

向井:どうもありがとうございました。

図49
夕暮れ時の響灘風力発電所の風車
提供:響灘風力発電所(NSWPひびき)

茂松:ここで働く人は、みんな闘争心のようなものを持っていますね。普通の人は、あまりそんなことを考えないでしょうから。
実は、わたしも妻の実家がこの風車から近くで、この辺りで魚釣りしたこともあるんです。そういう縁もありますよね。

向井:やはり生活の中に見えないと人間は動けないし想像できないということですね。茂松さんは、水力と風力どちらも経験されていますが、何が違うと感じられますか?

茂松:水力は、構造物がダムの中に入ってしまっているので、1年に1回くらいゴミを取る作業があるくらいなんです。でも、それでは1回覚えてしまえば終わりというか、探究心をくすぐられないんです。それに対して風力は本当に自然の力ありきのものです。人の面倒を見ているわけではないですが世話が焼けるというか。あとは勉強するところも多いんです。電気的にも機械的にも、全てに精通していないといけません。探究心がわくというかいろんなことを学びたいと思わせられます。そういうところがやりがいですね。

向井:自分の手で、何が起きているかを確かめている感じがするんでしょうね。本当にみなさん、向上心や探究心がすごく強い方たちなんだなと思いました。特に、個人的な思いがいちばん面白いですよね。

茂松:そうですよね。ただ働いているときには、個人的な思いを周りの人たちに伝えたりはしません。でも、こうやって取材を受けることで「松﨑さんはこういうふうに考えていたんだ」「西川さんはこういう思いで働いているなんて聞くとすごい志だな」と改めて思いますね。

向井:本当に今日はありがとうございました。

///

メンテナンス作業中のなか、ご案内くださった地元協力会社の皆さん、取材の調整やこれまでのやり取りを継続してくださっている小川清子さん(株式会社エヌエスウインドパワーひびき)にも、心より感謝申し上げます。
また、資料図版の転載にあたり、ひびきウインドエナジー株式会社、九電みらいエナジー株式会社、電源開発株式会社、株式会社北拓にもご協力いただきました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?