きわダイアローグ08 風を知る〈北九州響灘風力発電所〉 1/4
2020年秋、前年に引き続き、北九州市次世代エネルギーパーク *1 を訪れ、響灘風力発電所を視察しました。同発電所では、複数の民間事業者が北九州市の市有地等に風車を建設し、発電事業に取り組んでいます。取材にあたっては、株式会社エヌエスウインドパワーひびき(NSWPひびき)にご協力いただき、発電所所長でもある松﨑出さん、課長の茂松久晃さんに同発電所についてお話を伺いました。エヌエスウインドパワーひびきの風車は、海岸沿いに10基並んでおり、ちょうど3号機のブレード(羽根)を下ろしてメンテナンスをされているところでした。そのため、お話を伺ったあとには、茂松さんとメンテナンス会社の責任者である高野俊幸さん(株式会社西日本テクノス)に、3号機にご案内いただき、作業中でいらした西川貴也さんにもお話を伺いました。ここでは、松﨑さんと茂松さんにお伺いした響灘風力発電所の発電事業についてまとめています。
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取材させていただいた株式会社エヌエスウインドパワーひびきの事業は、事業開始から20年以上が経過しました。設備の老朽化に伴い、2024年3月までに風車10基を撤去したそうです。現在、同若松地区では、別事業者による響灘洋上ウインドファーム事業を進めているそうです。(2024年8月追記)
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1. 国内最大級の風力発電
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茂松:まず簡単に、響灘風力発電所の事業概要等をご説明させていただきます。運転開始が2003年3月ですので、稼働して18年になります。事業規模は、1500kWを発電する風車を10基、総出力1万5000kWhで運用しています。風速3m/sで発電を開始して、12m/sで定格風速、強風時25 m/s以上の風が吹くと自動停止します。年間計画発電量が3500万kWh、年間Co2削減量が1万3000トンとなっています。変電所から3号機までは電柱にケーブルを施設し、3号機以降は地中にケーブルを埋設して送電しています。1号機から6号機の間は緑地公園になっています。
風車ができた理由としては、まず土地が挙げられます。風車10基が設置可能な土地がここにはあったんですね。それから、港も近いため、海上輸送で届くブレードやナセル *2(増速機・発電機を内蔵)等の搬入がしやすい。さらに、年間平均風速がハブ高さで約6m/s、発電するために十分な風速があったこと。そして、発電した電気を売電するための送電線が近くにあり、メンテナンスが容易にできるという点が挙げられます。
向井:まさか、見学者が風車の中に入れるとは思いませんでした。
茂松:風車の上り方には3タイプありまして、1号機だけエレベータがついております。2人乗りで、ご見学の方はだいたいこちらで上っていただいています。
そのほかは、2号機から10号機は昇降補助装置ですね。電動モーターを使い、ロープでどんどん引っ張ってくれる装置になります。毎日上っている方でだいたい2分くらい、わたしは3分くらいかけて、ハアハア言いながら上っていきます。3つめがはしごです。以前は昇降補助装置がなかったので、みなさん垂直梯子(225段)を自力で上がっていました。その頃は上るだけで大変で、上がってしばらくは仕事にならないと言われていました。ここは特別高圧受電のため、停電することはほとんどないのですが、万が一停電した場合には自力で上がることになります。
松﨑:わたしが来た当初、昇降補助装置はありませんでした。故障すると上らないと修理できないですし、その頃は故障も多かったような気がします。 今はそれがあるため以前と比べると稼働率も上がっているように思います。
茂松:風車の運転としては、まず、「ヨー制御」によってナセル(箱形)の部分が風向きに合わせて回転します。それから、ナセルの前のハブ(先端の丸い部分)にブレード(羽根)がついているのですが、そのブレードの角度を変えて風をとらえます。ブレードの角度を変えることを「ピッチ制御」と呼びます。これらは、ナセル上に設置されている風向、風速計で制御します。
向井:風向きや強さは結構変わると思うのですが、常に動いているのでしょうか。それとも、ある向きや強さになると、動くのでしょうか。
松﨑:おっしゃるとおり、一日の間でも風向や風速はだいぶ変わります。少しの変異では動きませんがある程度風向や風速が変わると、それに追従するような形で羽根の角度などが変わります。
茂松:例えば故障のときには、風に対して完全に閉じている状態(ピッチ角90度)になります。これを「フェザーリング」と呼んでいます。また、待機時はピッチ角は83度に設定されています。風速が3m/sになるまではゆるやかに風を受けて遊転している状態です。風速3m/s以上になりますと、徐々にブレードの角度を0度まで開いていって、12m/s以上になりますと定格出力に入ります。
ブレードを点検する際、以前は人がナセルの上からロープを使って下りて点検をしていたんです。その後に補修作業があるため、まず風車に上って、評価をして、書類をつくって、そこから補修作業に……という工程だったためとても時間がかかっていました。現在は、ドローンを飛ばして、写真を撮りそれで評価をしています。おかげで、工程は2、3か月短縮することができるようになりました。2020年はブレードの点検と補修まで行いました。
向井:こちらに伺う前に自分でも風車を拝見してきたのですが、10基の中ですごくゆっくり回っているものも、かなり速く回っているものもありました。風の当たり具合で、隣同士にあっても差が出るものなのでしょうか。
松﨑:そうです。ウエイクロス(wake loss)*3 と言いまして、風上の風車の後流が干渉しているんです。風上は風があっても、風下は風が当たらないため、あまり回らないものが出てきます。
また、この現象は風向きによっても変わります。
向井:あの間隔でも、場所によって風の抵抗が変わってくるんですか。
松﨑:理想的には風車直径の10倍の間隔が必要なんです。うちの風車は羽根の直径が70メートルなので、約700メートルの間隔が必要なのですが実際には250メートルです。土地の関係でこのようになりました。
茂松:風速に応じて出力の制限運転もしています。例えば、台風の際にはとてつもない風が吹きますので、ある程度の風速まで来たら停止して事故が起こらないようにしております。風速が12m/sを超えると、各風車の近くにパトライトを点滅させ、スピーカーで注意喚起のアナウンスもしています。
茂松:もちろん、雷が落ちたときの対策もあります。ブレードの先端には避雷パッドがあり、ブレードの内部に導線が敷設されています。その導線は、羽根の先端からナセルの中に入り、タワーを経由して地中まで入っているのですが、雷が落ちたときはそこを通して電流を逃がす仕組みになっています。それから、「直撃雷検出装置」をタワーの根本に設置しているため、設定された電流が通過したときには自動で停止するようにもなっています。雷には、直撃雷と誘導雷という2種類があります。避雷パッドやブレード、ナセルの上の避雷針に落ちるのが直撃雷で、近くに雷が落ちたときに地面を伝わってくるのを誘導雷と呼びます。それらのどちらかに落ちても検知して止めるように設定しています。
松﨑:雷の多い時期は、だいたい決まっています。夏場と冬場にそれぞれありますね。
松﨑:これらの気象の変化に随時対応するために、気象の専門会社から、気象データをリアルタイムで受け取っていますのでその情報で風車の動かし方を判断しています。
茂松:それから、売電と買電の仕組みですが、変電所で電力会社の送電線とつなげて、電力の売買をしております。風車が回っていないときには、「所内電力」といって設備を動かすための電力を、電力会社から買っています。風車が発電を開始しますと、売電する仕組みです。年間発電量としては、この発電所のある若松区一帯の世帯数の約4分の1相当の年間力消費分をつくっている計算になります。
松﨑:それから、ここは有名な方もわりと来てくださったり、車のCMや、映画やテレビのロケ地などとしても使われています。
向井:景観として魅力的ですものね。
松﨑:去年まではいろんなイベントや撮影に使われていましたが、今は新型コロナの影響で減ってきてしまいました。
松﨑:ここは2021年で19年目を迎えます。大きな増速機などは定期的に交換を進めています。そもそも、弊社の事業計画は当初15年の予定でした。ところが、2012年にFIT法 *4 という再生可能エネルギーで発電した電気を、国が定める価格で一定期間電力会社に買い取ることを義務づけた制度が創設されたんです。それによって15年を超えて続けることになりました。風車の寿命は一般的に20年と言われています。ここは国内で最初のウィンドファームの風力発電施設ですので、20年を超える風車はあまりないと思います。また、この施設の周りは緑地公園になっており、一般の人も多く来られる場所なので安全面には一番気をつけて稼働させていますね。
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*1 北九州市次世代エネルギーパーク
北九州エコタウン事業の一環として、「あらゆる廃棄物を他の産業分野の原料として活用し、最終的に廃棄物をゼロにすること(ゼロ・エミッション)」を目指し、北九州市北部沿岸の若松区響灘地区に整備されている。太陽光・風力・バイオマスなどによる再生可能エネルギー施設、エネルギー供給基地、その他各種エネルギー関連施設が集積されている。また、北九州学術研究都市として、産学連携拠点でもある。2007年経済産業省から他5箇所とともに全国第1号認定を受け、2009年にオープンした。同地区には、北九州市エコタウンセンターがあり、エコタウン事業全般についての案内を受けられる他、各施設の見学も可能である。
*2 ナセル
内部には動力伝達軸、増速機、発電機が入っており、ブレードの回転が動力伝達軸を通して増速機、発電機に伝わり、電気に変換される。
*3 ウエイクロス(wake loss)
「ウエイイク」とは後流(風の流体運動)のこと。風上の風車の後流によって、風下の風車が受ける風速が欠損することを「ウエイクロス(wake loss)」という。
*4 固定価格買取制度(FIT法)
太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギー源を用いて発電された電気を、電気事業者が一定期間、国が定めた一定価格で買い取ることを義務付けた制度。正式名を「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」、別名「FIT(Feed-in Tariff)法」という。
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本記事に掲載した写真は、NSWPひびきより提供されたものと、向井知子が2019年夏と2020年秋に取材した際に撮影したものです。
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