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きわダイアローグ08 風を知る〈北九州響灘風力発電所〉 2/4

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2. 地元で人材を育て、地元でメンテナンスできる

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向井:日本での風力発電や太陽光発電は、人があまりいない、都市から離れた場所に隠されているというイメージがありました。高度経済成長期の発展の一方で、公害などのネガティブなイメージもある北九州市が、今ではエコエネルギーを都市部で活用していると知り、街の成り立ちや自然への取り組み、それから、街の人たちが見ることのできる場所に自然エネルギー施設があることにすごく興味を持ったんです。そこで、どういうお考えのもとに、こういう事業が成り立っているのかをお伺いしたいと思っています。
今、自然エネルギー施設すべてが抱えているジレンマとして、これだけ大掛かりなものをつくることで、逆に緑地をなくしていて、環境破壊なのではないかと言われている部分もあるかと思います。ここはドイツのブレーマーハーフェンをモデルにしていると伺っていますが、成り立ちの背景の部分や、日本のほかの風力発電とは何が違うのかについても教えていただけますでしょうか。スペインのVortex Bladeless社 の開発した羽のない小型の風力発電機のように、全然違う方向性のものも出てくるなかで、日本の環境エネルギーがどういう方向に行くのか、率直に、現場のみなさまから伺えるとうれしいです。

松﨑:わたしもここへ来て10数年になるのですが、来る前には10日ほどデンマークへ研修に行きました。デンマークは風車の先進地のため、風車やブレートの製作工場などを見てきたのですが、環境に対して相当進んでいるというのは実感しました。向こうは土地が広くて農家さんが自前で風車を建てているところも結構あるんですね。当時、電気の買取についても優遇しているという話を聞いて、日本はまだまだかなと感じて帰ってきたのを覚えています。国内で風車を始められた人に話を聞くと、やはりデンマークなどに行かれて、刺激を受けられた方が結構おられる。わたしもその一人なので、どうにかして自然エネルギーの施設をつくりたいなと思っていたところ、縁あって、ここに勤めることになりました。その前には太陽光などもいろいろやっていたのですが、やはり風車のほうが面白い。以前は太陽光は建設しまうと、決まったメンテナンスを除いてはあまり手がかかりませんでした。それに対し、風車は自然を相手に対峙しているためさまざまな問題が起きます。風車を建てた頃は、建ててさえしまえばあまり手がかからない何もしなくていいという考えだったのですが、今つくづくメンテナンスの重要性を感じているところです。ここは日本製鉄の工場がありますので、そのあたりの技術屋さんと言いますか、機械や電気関係の人材が豊富におられます。当初はメーカーにメンテナンスを依頼していましたが、今は地元の業者さんやメンテナンス会社さんの協力によりかなりの部分ができるようになりましたので、以前に比べるとメーカーさんを呼ぶことも減りました。部品はドイツ製なので何かあればドイツから調達することになりますが、普通の故障対応などは地場で行えるんです。

向井:風力発電はデンマークと、ドイツのブレーマーハーフェンが有名なんですか。

松﨑:デンマーク、ドイツ、スペイン等ですね。

向井:土地の問題などから、太陽光はもう限界だと聞いたことがあります。日本が目指していく環境エネルギーというのは何になるのでしょう。海があるので風車の持つ可能性は高いと思うのですが……。

松﨑:陸地の条件の良いところはほとんど開発されてきていますよね。それから、地域ごとでさまざまな法規制もあります。加えて、地元との調整も必要になります。太陽光の発電施設をつくるには、幅広く土地を使いますから。ということもあって洋上に行かざるを得ないんです。今まさに、当地域はそれに向けて計画が進められているところです。

向井:コストのことを考えると、湾岸に近いところに風車を設置するほうがいいわけですよね。しかし、あまり近いと地域の生物が風車にぶつかってしまうこともあり、その辺りの折り合いのつけ方が難しいと伺ったのですが、どうなのでしょうか。

松﨑:ここでは、風車設置予定エリアが4つの区域に計画されているのですが、うちの風車に近いところで約1キロくらいのところに計画が進められています。

図21
洋上ウインドファームの計画概要
出典:ひびきウインドエナジー株式会社様HPより

向井:北九州では、主に会社や事業所が風車を扱って管理をされているのですか。

松﨑:現在、風車を建設されているのは弊社の他に4社くらいでしょうか。

向井:先ほど「メンテナンスも地元で」というようなこともおっしゃられていましたが、地元で風力発電にかかわるほとんどのメンテナンスすることによって、具体的にどのような影響があるのでしょうか。

松﨑:そうですね。やはり、大きい風車を建てるとなると、どうしても海岸、港の近くでないとなりません。建てること自体より運ぶのが難しくなるんですね。立地条件としては、ブレーマーハーフェンとだいたい同じような環境だと思います。風車を建てるとなると工場やメンテナンスができる場所が必要になります。そうすると、地場で人が必要となり人材育成をしなければなりません。そういった部分での地元との関わりもあると思うんですね。風車の技術者が、今、本当に足りていない。特殊な作業になりますし洋上に風車を建設する予定もありますので、人材を地元で育てていこうとしているところです。

図22
洋上の風車
2019年

向井:すると、北九州の方針としても、自然エネルギー事業の人材について、地元で育てて、地元で働いてもらう、そして、自然エネルギーを地元に還元するという、地産地消のようなモデルにしていきたいということでしょうか。

松﨑:そうですね。北九州市はアジア近辺も近いですし、ここを拠点として世界に広げていこうということでしょう。
工業地帯だったブレーマーハーフェンがエネルギー政策にシフトしているように、北九州市もそういう方向に進みたいのだと思います。もともと技術のベースがあり、かつ、エネルギー施策でも日本では一番先進の地だと思いますので、なんとかして成功させないとなりません。全国各地の計画のお手本となればいいなと思っています。都市部で風力発電事業を行なっている都市はほかにないですし。

向井:ほかにないとなると、街の中でメンテナンスをしたり、人材を育てたりというのはひとつの大きなチャレンジですね。北九州に重工業という基盤があったように、歴史的な背景などがあって初めてできることなのだと思います。
御社はもともと環境事業に関してさまざまなことをやられるなかで風車を選ばれたのはどういう理由からなのでしょうか。例えば太陽光発電だと、浜松が最大級だと以前エコタウンセンターで伺いました。あちらにも海はありますが。

松﨑:風車の事業が増えることで、ほかの事業の需要が出てきますよね。洋上になるとなおさらです。まずはそういうところが念頭にあるのだと思います。それから、親会社に海洋構造物の実績がありますので、それらの技術がベースにあることも理由の一つだと言えます。

向井:ヨーロッパでは小型の風力発電も出てきていますけれど、日本は大型が主になりますよね。これにはどういった背景があるのでしょうか。また、こちらの施設は日本の別の場所に比べても大型なのですか。

松﨑:大型を設置しているのはやはり経済的な理由ですね。
今は国内でも大きなプロジェクトであちこちにできていますので、規模的にはそんなに大きくはないかと思います。

向井:都市部にこういう大きなものはほかにないとおっしゃっていましたが、国内はほかにどういうところでやられているのでしょうか。

松﨑:やはり山岳地帯が多いですね。三重県や福島県、鹿児島県など、風の条件が良いところに設置されています。それから、山口県や鳥取県といった日本海側、東北地方や能登半島でしょうか。北海道も根室や日本海側など、全国的にあるようですが送電線がまだ間に合っていないようです。
そのように、風の条件がよくてもインフラが整っているかどうかも重要になります。

向井:全国各地に施設があっても、FIT法のように期限が限られてしまうと、自然エネルギー政策は難しいのではないかと思うのですが……。2023年以降の海洋での事業は、FIT法の期限が切れてからも先を見据えて、風力発電の展望のためにやられているということですよね。

松﨑:状況は厳しいですがでもう少し延命させたいですね。そのためにはどこかに電気を買ってもらわないとなりません。当地域には洋上に単機で9.5メガワットの発電機が20数基建つ予定です。

向井:では今の10基よりも相当大きい電力量になるのですね。日本の自然エネルギーのなかでは、風力が一番強いのでしょうか。

松﨑:今のところそうですね。採算ベースに乗っているのは風車が一番だと思います。潮の流れでプロペラを回す潮流発電や波力発電など、いろいろ勉強はしていますが、まだまだだなあと。

向井:日本では、地熱発電はあまり進まないのですか。

松﨑:地熱も何カ所かあるのですが投資が大変だと思います。それから井戸も永久に使えるわけではないので掘り直さなければなりません。加えて、温泉地が多いので、そことの兼ね合いも難しいですね。

向井:アイスランドでは地熱エネルギーが90%以上なのにもかかわらず、観光地としての温泉もありました。こんなに似ているのに、どうして日本は地熱エネルギーが広まらないのだろうと不思議に感じています。

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本記事に掲載した写真は、NSWPひびきより提供されたものと、向井知子が2019年夏と2020年秋に取材した際に撮影したものです。

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