文鎮です
古いモノが好きで、仕事をしながらeBayを覗いては若い頃からガラクタを買ってきたのですが、50歳も過ぎるともう晩年という感じがしてしまって、むしろ終活だよなあと今更何かを買うこともなくなっていました。
そんなところで、最近非常に久しぶりにペーパーウエイトを買ったので、少し語ってみたいと思います。
買ったのはこれです。
ガラスペーパーウエイトの世界ではアメリカで第一人者のPaul Stankardによる初期の作品です。1975年製で36/75というエディション番号が入っています。
ペーパーウエイトは以前からたまに買っていて、いくつか集めました。
しかし、世の中にはペーパーウエイトと言ってもいろいろあって、ガラス製のものから金属のもの、形も様々です。ここで僕が対象としているのは上の写真のようないわゆる丸いガラス製のものです。
このようなペーパーウエイトは欧米では人気があり、協会もあるしコレクターも多いアイテムなのですが、日本ではほとんど聞きません。黒柳徹子さんが蒐集しているので有名なくらいでしょうか。写真を拝見した限りではかなり良いモノをお持ちでいらっしゃるようです。
絶対数としては日本ではコレクターもあまり居ないのではないかと思います。僕の印象なので本当にそうなのかわかりませんが、ヤフオクに登場する回数の少なさを見ても、あながち間違いではなさそうです。
人気が無いとなると俄然やる気が出てくるのが天の邪鬼である自分です。
対して陶器は日本でも非常に人気がありますね。僕は陶器も好きですが、ガラスにより惹かれます。透明な感じが好きです。考えてみれば、絵も透明感のあるものが好きです。油彩でも透明なグレージングを使う絵を描いてますし、デジタルでも透明感は意識しています。陶芸は自分でやってみたいとはあまり思わないのですが、ガラスはとても興味あります。
僕はガラス製のペーパーウエイトが好きで、というか矛盾しているようですが、どちらかというとガラス製でもペーパーウエイト全体としてはあまり好きではないです。極めて狭い範囲の特定のものだけが好きなのです。
何かを集めてコンプリートしたいという思いも全くありません。数も求めてないので、そのカテゴリーの中で自分がベストと思うものをいくつか持っていれば全制覇したのと同じ気分になって満足する人間です。何がベストのものなのか自分なりに見極めるのが楽しいです。
また、僕はシンプルなものが好きなモダニストなので、あまり装飾的なものには惹かれません。歳を取るにつれマイセンの陶器のような装飾過剰なものも意外と悪くないなと思うようにはなってきたのですが。
そして、装飾的なものがシンプルでモダニストな空間にポツンと存在している様はコントラストが効いていて非常に良いと思ってます。
ペーパーウエイトに興味を持ったのは子供の頃で、どのような経緯で手許にあったのか覚えていないし、どんなものだったのか正確には思い出せないのですが、丸いガラスの中に細かい模様があったやつではなかったかと思ってます。残念ながらそのものはもう持っていないので確かめようがありません。
それから随分時間が経って、アメリカの美大で勉強していたときに、たまたまアンティーク・モールでこれを見つけて、何故だかわかりませんがとても惹かれて買ったのです。
名もない安物のペーパーウエイトです。
これをきっかけにペーパーウエイトの世界を調べていくうちに、その奥深さを知りました。
まずペーパーウエイトには大きく分けて2つのカテゴリーがあります。アンティークとコンテンポラリーです。
コンテンポラリーは現在も作られているものですが、アンティークは19世紀の中頃にフランスで作られていたもので、200年近く前のものです。アンティーク・フレンチは三大メーカーがありまして、それはBaccarat、Saint-Louis、Clichyです。
これらアンティークは1860年代になると急に衰退し、それ以降作られなくなったと言われています。1950年代にBaccaratが製造を再開するまで、ペーパーウエイトの歴史は途切れていました。詳しくはこちら。
これはアンティークBaccaratのウエイトです。青や黄色やオレンジなどの小さくて装飾的な丸いボタンのようなものはcaneと言います。
B1848のsignature caneが入っています。これによってこのペーパーウエイトが1848年に作られたのがわかります。もっとも、現在作ってもこんな数字のcaneを入れた偽物も当然あります。僕はそれなりの数を見てきたので、だいたいの真贋はわかるようになってしまいましたが。
やはりモノを見極めるには解説書を読んだだけではピンとこないので、数を見るしかないということを学びました。これはイラストレーションや絵にも通じることだと思ってます。
ちなみにBaccaratとSaint-Louisは現在でもペーパーウエイトを作っていて、毎年新しいものが販売されています。ただし、百貨店に入っているBaccaratのオフィシャルショップで二、三個しか置いてあるのを見かけませんから、どれだけマイナーなのかということです。Clichyはもう存在していません。
さて、ペーパーウエイトはアンティークとコンテンポラリーという2つのカテゴリーに分けられるのですが、種類としても大まかに2つに分けられます。
それは上のPaul Stankard作品のように具体的なモチーフ(花、ストロベリーなど)を閉じ込めたlampworkと呼ばれるタイプと、上のBaccaratのような小さいcaneを集めたmillefioriというタイプです。millefiori(ミレフィオリ)とは千の花という意味です。
極めて狭い範囲の特定のものだけが好きと言いましたが、現代のものを入れるとペーパーウエイトはきりがないので、買うときには自分なりに基準を決めています。それはまずアンティークであること。古いモノが好きということもありますが、アンティークならばもう新しく作られることはないですから、母数が増えないのが好都合です。
そして現代のものでも、過去に存在していたがすでに廃業しているイギリスのPerthshireというメーカーのものに限定してます。これも今後新しいものが製作されることがないので安心です。(笑)
これはPerthshireのmillefioriです。ぎっしりと密にcaneが詰まっているので、closepack millefioriと呼ばれています。1980Pというsignature caneが真ん中あたりに見えます。こういうのを眺めていると、海に潜ってサンゴ礁を見ているような気分になって癒やされます。
僕はモチーフとしてはlampworkよりmillefioriのほうが好みです。その他に特に好きなのが渦巻きのウエイトです。
これは渦巻きウエイトを作っていた唯一のメーカーである、アンティークのClichyです。
あとは捻れたリボンで構成されているクラウンと呼ばれるタイプも好きです。
これはアンティークのSaint-Louisクラウンで、残念ながら真ん中にパキっとひびが入っていますが、まあそれでもきれいだし、その分安いので良いのです。アンティークのガラスにはロマンを感じます。
ペーパーウエイトにはガラスを面取りしてあるものや、単なる玉ではない形にしてあるものもあります(徹子さんの写真にいくつか写ってます)が、それらは自分の買う基準からは外しています。丸い玉だけに絞ってます。
現代の、特にアメリカの作家はlampworkを好んで作る人が多いようで、冒頭に紹介したPaul Stankardもlampworkばかりです。なので、今回買ったものは現役の現代作家のものなので、自分としては例外なのです。
といいつつ、Saint-Louisも現代ものを一つだけ持っています。アンティークに比べると現代ものは精巧過ぎるきらいがあるのですが、これはそれでも買おうと思わせるだけの美しさがありました。こういうのはmillefiori on carpet groundと呼ばれてます。
そうそう、これらのウエイトは全部丸ごとガラスなので、中に閉じ込められている花やストロベリーなども全てガラスでできています。
lampworkはまず色の付いたガラス棒をガスバーナーで加工して花などのモチーフを制作し、それを透明なガラスに閉じ込めて作られます。ガラスドーム部分の虫眼鏡効果によって中のモチーフが大きく見えますが、モチーフ自体は非常に繊細で小さいものと思われます。
一般的な丸いガラスペーパーウエイトの大きさは、ミニチュアと呼ばれるもので直径が4センチくらい、マグナムという大きいもので8センチくらいです。
Paul Stankardの制作風景の動画があったので紹介しておきます。
動画の中で彼が最初にガラスに興味を持ったのが、化学の実験器具をガスバーナーで加工して作る大学でのクラスだったと言っていて、僕も高校の化学で同じような授業があって、化学式とかモルとかはどうでもいいから、もっとガラス加工をやっていたいなあと思ったのをよく覚えています。
一方、millefioriのほうはどうやって作るのかというと、こちらを見てください。
要は色のついたガラス棒を束ねて熱し、それが柔らかいうちにミョーンと引っ張って細い棒にして、それらをまた丸く束ねたり、ときには動物などの形が見えるように束ねてから熱し、またミョーンと引っ張ったり、ときには捻ったりして細い棒にして、さらに束ねて同じことを繰り返してcaneを作ります。これらのcaneは金太郎飴のようになっているので、薄くカットしたものを並べて透明なガラスに閉じ込めるという方法です。気が遠くなるような工程を経て作られています。
L. H. Selman Ltd.はペーパーウエイト界では間違いなく最も有名なサイトで、毎年2回オークションも開催しています。
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イラストレーター・東京の仕事場から
25年以上フリーランスのイラストレーターとして生きてきた経験から、考えていることや考えてきたたことを綴ります。海外の仕事のことや、ときには…
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