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画材としての油彩をオススメしてみます

僕は今でこそ、というかもう20年以上仕事ではPhotoshopで制作していますが、その前は油彩でイラストレーションを描いていました。

こんなイラストレーションを描いてました。

これらは雑誌Numberに寄稿したものです。
装画ではこんなのとか。
モノクロの文芸誌挿絵も油彩で描いてました。

ちなみに基底材はキャンバスではなく、水彩紙アルシュにジェッソを塗って使用していました。高い紙なので若干もったいないといえばもったいないですが、いろいろ試した結果自分好みの紙のテクスチャがこれしかなかったのです。たまにイラストレーションボードも使用していました。

では、どのようにして油彩をイラストレーション制作のメイン画材にするに至ったか説明してみます。

まず、アメリカの美大で絵の勉強をしていたときに、画材としては版画とテンペラを除き、ある程度一般的なものは一通り授業で習いました。つまり、油彩、アクリル、ガッシュ、透明水彩、パステル、オイルパステル、色鉛筆、木炭などです。

その上で、自分が絵を描くのに一番思い通りのことができるのが油彩であると思ったので、それを使うことにしたのです。

そして、当時のアメリカのイラストレーターは油彩で制作していた人が多かったと思います。この辺りはアメリカのイラストレーション史を見てもわかるのですが、N.C.WyethやNormal Rockwell、J.C.Leyendeckerなどみな油彩です。といっても昔はアクリル絵の具が存在しなかったので、当然といえば当然ですが、それにしても油彩を使うのは伝統的な流れだったような気がします。

もちろん目指す表現によりますが、僕は今でも個人的には、特殊な技法を除き、筆で絵の具を塗って絵を描くという意味においては、最も表現の自由度が高い画材は油彩であると考えています。

さて、それで油彩をオススメする理由ですが、以下のようなものがあります。

  • 乾きが遅いので、じっくり色を作れる。

パレット上で納得の行くまで色を混ぜることができます。アクリルのようにすぐ乾いてしまうから焦るというようなことがありません。

  • 乾きが遅いので、画面上でグラデーションなど滑らかな表現がやりやすい。

画面上で絵の具をブレンドできるので、ソフトな表現がやりやすいです。これはとりもなおさず、絵の重要な要素であるところのエッジコントロールがやりやすいことも意味します。ソフトエッジもハードエッジも自由自在です。もちろんこの辺のことは、他の画材でもできると思いますが、油彩ではとてもやりやすいということです。

なんといっても、翌日アトリエに来ても、絵が乾いてないのでエッジをいじれることが素晴らしいです。

ゲルハルト・リヒターのボケた写真のような絵を描こうとすれば、油彩以外では非常に苦労するのではないでしょうか。

  • 乾いても色の変化が少ない。

たとえばアクリルガッシュは、色を塗った後乾燥すると若干明度が上がって色が薄く見える傾向がありますが、油彩は塗った時と乾いた後でほとんど色の見え方が変わりません。

  • 透明度と絵の具の厚みをコントロールしやすい。

薄く延ばした透明な絵の具のレイヤーを何層も塗り重ねて、レオナルド・ダ・ヴィンチのような古典的な技法で描くもよし、アラ・プリマと呼ばれるような一発描きもよいです。ゴッホのような厚塗りをすれば、乾いても絵の具が厚いまま画面に残るところも個人的には好きです。


このように油彩の好きな点を書いてきましたが、長所と思われるところは短所と表裏一体でありまして、以下のような懸念が思いつきます。

  • 乾燥が遅いので、重ね塗りがしにくい。乾燥が遅いのはイラストレーションの原稿として不利。

確かにそうです。油彩はそのままでは乾燥に時間がかかるのですが、それを速めるためのミディアムがありますので、そういうものを使えばだいぶスピードアップすることができます。僕はよくWinsor & NewtonのLiquinというミディアムを使っていました。これを混ぜて絵を描けば、たいてい翌日には乾いている感じでした。

本来、油彩は乾燥に時間がかかることを利用してじっくり描けばいいのですが、イラストレーションの原稿を制作するという意味では、やはりスピードは重要です。なので、僕はアンダーペインティングとして最初大まかにアクリルで色を付けて、その上から油彩で仕上げていました。

最初にアクリルで描いて、その上から油彩というのは断然アリです。逆に、最初油彩で上からアクリルは、絵の具が定着しないのでやってはいけないのですが、あくまでイラストレーションの原稿として、そのときだけ使えれば良いという観点で考えれば、それも問題ないのかもしれません。

  • いろいろな画溶液があって難しい。

リンシードオイルとかポピーシードオイルとか、たしかにいろいろな種類があって、いつどれを使えば良いのかわからず、難しいという印象はあります。油彩の原則としては、Lean to Fatというのがありまして、下のレイヤーほど油分が少ないテレピンなどを使い、塗り重ねるにつれ油分が多く光沢が増すリンシードオイルなどを混ぜていくというものです。

でもそんなのは面倒なので、ここでもLiquin一本で問題ないです。これだけで充分仕上げまで行けます。

  • においが問題なので、家で描けない。

油絵具自体はそんなににおいが酷いものではないです。問題となるのは筆洗い液なのです。つまり、筆洗の蓋を開けっぱなしにして、絵の具の付いた筆をそこに突っ込んだままにしておくとマズイです。

これの対策としては、制作中は筆を洗わないようにすることです。色の数だけ筆を用意しておき、近い色については同じ筆を使うとして、その日の作業を終えるまで洗わないようにしておきます。絵の具が乾かないのでできる技です。そして、最後の片付ける時に、一気に全部の筆を洗っておしまいです。もちろん窓を開けるなどして換気をするに越したことは言うまでもありませんが。

僕はこの方法で、四畳半くらいの自室でずっと制作していました。


最後に油彩の嫌いな点を書いておきます。

チューブの問題です。油絵具はアクリル絵の具のようなラミネートチューブではなくアルミニウム製のチューブです。ラミネート・チューブは機構上、通気性のある箇所(プラスチック部)があり、通気すれば乾燥して固まってしまうので使えないようです。

で、このアルミニウム製のチューブの蓋がよく固着してしまい、非常に開けにくくなります。そのため僕はペンチを二つ用意して、チューブの肩をおさえながら蓋を回して開けたりしてます。

これは頻繁に絵を描かず、長い間絵の具を放置しているからこうなるのかと思いましたが、買ったばかりのチューブも同じような状態になりました。無理矢理蓋を開けようとすると、チューブがねじれて切れてしまい、そこから絵の具がはみ出てきます。また、買ったばかりのチューブだというのに、プラスチックの蓋が脆く、割れてしまったこともあります。こういうことがあるので、使い切ったチューブの蓋は、割れてしまった分の交換用に、なるべく保存しておくことにしてます。

この辺が、アクリル絵の具のラミネートチューブと比べると非常にイライラする点です。どうにもなりません。

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