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ガチャガチャ、ころころ。
始めに。これといってオチはありません。
最寄り駅まで歩いて20分。そこから、10分ほど、上りの電車に揺られると職場の最寄りに着く。トータルで30分少々の、わたしの通勤路。
その日の気分で音楽を5、6曲ほど聴く。それでぼんやり歩いたり、窓の外を眺めたり、あるいはSNSで情報が流れていくのを見守ったり、早く帰りたいなぁ、休みたいなあ、などと考えたりしているとなんとなく職場についてしまう。
通勤時間長すぎるのも体力がもたないから、ちょうどいいくらいなのかもしれない。
帰り道は足取りが軽い。家と職場の距離が変わるわけではないんだけど、1日の中でもかなり充実した時間。
ほぼ毎日、私より早く終業する彼氏が迎えに来てくれる。うれしい。
私の職場の最寄駅よりも、少し先から乗ってきた彼と、二人で下りの電車に揺られる。
運よく席が空いていたら並んで座る日もある。携帯でオセロをして戦う日もある。同じ駅で降り、手をつないで今日あったこととか、次のデートはどこに行くとか、ティファールのロゴ、あれはちゃんと読んだらティーファルだと思うんだよね、とか話をしていると家に着く。たまにスーパーや、近くのファミレスとかに寄り道したりもする。
まだ一緒に住んでいるわけではないけれど、去年の春に私が家族と引っ越しをしたので、彼の家がものすごく近くなった。
それからずっと、予定が合わないとき以外は一緒に帰ってきている。
妹の学校が近いのが決め手で住み始めた家だけれど、私にとっては彼の家が近いのが本当にありがたい。
…のろけるのはこのくらいにしておこう。
先日、珍しく帰りに一人で電車に乗るときがあった。彼の仕事がすごく夜遅くに終わる日だった。
特に話す相手もいないので、イヤホンを耳に突っ込み携帯の画面に目を落とす。週末の夜で、席が空いていなかったので自宅の最寄りまで開かない側のドアにもたれかかった。乗車してから3分ほど経つと、職場からだいぶ離れる。
まもなく次の駅、というところで
どこからか、ガチャガチャの小さなカプセルが転がってきた。
カプセルは電車の進行方向にならって、迷うことなく進路を突き進んでいく。球体のなめらかな移動。
乗客が皆アレハナンナンダ…?と見つめる中、電車のドアの間隔で2つ分ほど転がったカプセルを一人の男性が拾い上げた。
これこそまさに、未知との遭遇である―。
彼は、カプセルの進路をさかのぼって慎重に乗客の顔を見渡す。たくさんの視線の中から、このカプセルの持ち主は誰なのかを探して。車両の一番後ろまでついたところで、やっと持ち主を見つけたみたいだった。ミッションクリア、とでも言うだろうか。
無事に任務を果たし、もとの席に戻った彼の顔はマスクをしていてもわかるくらい赤面していた。
堂々としている、というよりかは物腰がやわらかそうな雰囲気の人だったけれど、
あれだけの視線を浴びれば自分でもそうなるかもしれない。
その他乗客全員が手に取らなかったカプセルを、彼だけは拾って持ち主まで届けた。
偉業である。
勇者である。
恥じることはまったくない。
それでも、耳まで赤くなっていた。
まもなく、電車は次の駅に到着した。
隣に座っていた女性(たぶん、恋人だろう)がやるじゃん、と肘をつついてじゃあね、と颯爽と電車を降りていった。冷えた空気が開いたドアから車内に流れ込む。
そのおかげかあがった体温が落ち着いたのだろう、彼がまた、何事もない車内の風景に溶け込んでいった。
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